乙女ゲームの主人公ですが命の危機が訪れたので逃げることにしました。
あるところでは
「邪魔!」
「ぴぎゃあ!?」
「……あ…」
「君!!大丈夫か!?」
魔力酔いで倒れる女子生徒を抱き上げるイケメンをみた。
また、あるところでは
「どいて!!」
「ひゃ!!」
「これ、あなたの?」
「あんたが見つけてくれたのか……?」
落とし物をイケメンに届ける女子生徒を見た。
またまた、あるところでは。
「やあ!!」
「ぎゃ!!」
「あの……具合でも悪いんですか?」
「ん……君…は…だあれ…?」
寝ているイケメンを倒れていると勘違いした女子生徒を見た。
そして最後に
「ていやあ!!」
「や!?」
「ご、ごめんなさい……!」
「君は……」
イケメンに魔法を直撃させている女子生徒を見た。
●●●●●
ここは乙女ゲームの中の世界。
魔法学園を舞台にしたごくごく普通の恋愛ゲームです。
私はそこで主人公として生きています。
実はこれは少し自慢です。
違うゲームの主人公仲間からいいなあ、ていつも羨ましがられます。
それが嬉しかったのですが浮かれすぎた天罰なのでしょうか。
今回新しくゲームが始まったのに、私一つもイベントをこなせていません。
しかも絶対おこるはずのイベントなのに。
でも、私だけのせいではないのです。
何故か妨害が入るのです。
そう何故か毎回イベントが発生しようとする度に、こうバーンとドーンと押されてしまうのです。
私を押したのは見知らぬ女子生徒でした。
そしてその女子生徒は毎回私の代わりにイベントをこなしてしまうのです。
正直にいいましょう。
私はあれが怖かったです。
いえ、イベントを代わりにやってしまうことではなく押されたことですよ?
確かにイベントをこなせなかったのは主人公として情けないですが、そんな落ち込む気持ちよりも恐怖のほうがずっと大きかったです。
そして私は決めました。
―――逃げようと。
女子生徒から、そして……攻略対象から。
何回世界が繰り返されても共にいた仲間たち。
時には恋愛をしたりもしました。
ですが。
自分の命には変えられません。
命あっての物種です。
突き飛ばされたくらいで大袈裟な……なんて思っております?
しかし、私は二回死にそうになっています。
階段から落ちそうになったり、屋上から落ちそうになったり。
あれは、恐怖でした。
だから私は逃げます!!
そう、私は熱く決心しました。
●〇●〇●
「逃げようと思うのです!!」
「は?」
逃げることを決めた私は、まず逃げる前に攻略対象の方達に報告することにしました。
お友達ですからね。
突然会えなくなったら心配性の彼らはきっと私のことを心配してしまうでしょう。
どこにいるかな?と探していたらちょうど四人でいるのを見つけたので、私は早速逃げることを彼らに告げました。
「事情はわかったけど……どこに逃げるの?」
桃色の髪をした可愛らしい後輩が私にたずねました。
年下キャラの彼はいつも可愛らしい笑顔を私に向けてくれるのですが今日は顔が固いです。
やはり心配させてしまったのでしょう。
「学園を出たりはしないよな?」
赤髪の同級生にたずねられ私は頷きました。
彼は不良キャラなので見た目が少し怖いのですが、本当は優しい人なのです。
今も眉をしかめていますが、私のことを心配してくれていることがよくわかります。
「はい。私は主人公でもありますが、この学園の生徒でもあるので。ちゃんと勉強はしますよ」
「そうですか……では、れいの女子生徒を見かけたらすぐ逃げる。すぐには難しい場合はなるべく関わらないようにする。ということで、よろしいですか?」
緑の髪の先輩が少し考えたような顔をしながら私にたずねます。
さすが先輩ですね。
私が話す前に私の考えを当ててしまうとは。
この先輩はこの学園一頭が良くて、努力家の先輩です。
少し言葉がキツい時もありますが、やっぱり優しい先輩なのです。
「はい。そうしようと思います。……あ!!でも、もう一つありますね」
「もう一つ……ですか?」
「はい。えっと……とても寂しいのですが、みなさんにもあまり会わないようにしようと思うのです」
「え?どうして?」
「おそらく彼女はみなさんがいるところに現れると思うので……」
私に聞いた深い青色の髪をした先輩に顔を向けてこたえます。
先輩はこの物語のメインヒーローの先輩です。
裏がなく誰にでも優しい先輩です。
実は大金持ちの息子という設定もありますね。
と、あれ?
色々説明しましたが、なんだかみなさん本当に優しい方達ばかりですね。
説明する度に優しいが入りました。
……なんだか離れるなが寂しくなってきましたね。
いえ!でも命には変えられませんから!!
「そっか……そうだね。確かに君が階段から落ちた時はゾッとしたし。うん。わかった」
「仕方ねえな。お前が俺たちを見て逃げ出しても、文句は言わねえよ」
「先輩が逃げちゃうのは悲しいけど……仕方ないか」
「まあ、頑張って………逃げてくださいね?」
「みなさん!!」
本当に良い方達です!!
私はこんなに薄情なのに、みなさんはこんなに優しい言葉をかけてくださって……。
「本当にありがとうございます!!私、頑張って逃げますね!!」
そうして私は走り出しました。
早くまたみなさんとお話しできたらいいなと考えながら。
●〇●〇●
「逃げる……ねえ?」
そう呟くと青い髪を持つ青年はクスクスと笑った。
そこにはこのゲームの主人公に向けていた優しさはまったくない。
「まったく彼女はまだ気付かないんですね……僕達の本性に」
そうあきれたように言いながらもやはり彼もまた笑みを浮かべていた。
この場に残った彼等は一様に笑みを浮かべている。
明るくも優しくもない……狂気的な笑みを。
「でも、またそこが可愛ーんだよね」
「違いねえな」
「ふふ。いつ気づくんだろうな?」
このゲームが彼女の思っているような明るいものではないということに。
このゲームには攻略対象一人につき四つのエンディングがある。
二つは純愛ルートのグッドエンドとバッドエンド。
そしてもう二つは……
「ヤンデレルート……彼女はいつたどり着けるんでしょうね?」
ヤンデレルートのグッドエンドとバッドエンド。
ただしこのルートに彼女に対する救いはない。
バッドエンドでは、彼女または攻略対象どちらかが必ず死ぬ。
グッドエンドはどちらも死なないが彼女は攻略対象の狂気に怯えながら終わることになる。
だが彼女はこのルートがあることを知らない。
まだ一度もたどり着けていないからだ。
「よく言うぜ。自分で妨害しておきながら」
「それはあなたもでしょう?」
「まあな」
そう彼等は彼女がそのルートに行くのをずっと阻止し続けていた。
間違ったことを教え続けて。
「まあ、仕方ないよね。先輩、僕達が本当に優しい人だと信じちゃってるんだもん。あのキラキラした目が見れないのは嫌だしね」
「でも、そろそろ潮時だな」
メインヒーローである彼はそう言うと、三人はうなずく。
四人が思い出すのは彼女の言葉。
彼女は逃げると言った。
あの女子生徒から、そして……自分達から。
そんなこと彼等には許すことができなかった。
彼等はみな彼女を愛しているのだ。
深く……狂気的なまでに。
「あの女子生徒はおそらく転生者ですね」
「ああ、やっぱりそうなんだ……じゃあ、殺してあげないとね」
転生者。
それは最近何故かいくつものゲーム世界に生まれている。
この世界がゲームとしてある世界から生まれ変わってやってきた人間。
彼等はループする世界でどうやって成長したのかも、どうして転生したかも謎な存在であり、唯一このループを止めることが出来る存在でもある。
そう止めてしまうのだこのループを。
彼等はそれが許せなかった。
ループがなくなればいつか彼女と会えなくなってしまうかもしれないからだ。
それを防ぐ方法……それは、転生者が死亡すること。
他のゲーム世界でその実例をいくつか聞いている。
「あーあ。あの子も隠れてればよかったのに」
バカだなあ、と笑う。
彼女を自分達から奪うものなんてこの世界には不必要。
転生者は何もしなくとも目立つらしいが、せめて何もしなければまだ長く生きられたのに。
「ま、仕方ないさ……さて、行くか」
彼女を追いかけに。
その言葉は言わなくとも彼等は全員理解出来たようだ。
彼女が逃げる?なら、追いかければいい。
彼女は自分達に追いかけるなとは言わなかったのだから。
「あいつ、驚くだろうな」
「それもまた可愛らしいでしょうね」
そして彼等はその場を去った。
その後もループは終ることなく続いた。
そしてそれから繰り返すこと十数回。
主人公はすべてのエンディングをクリアしたという。
実は転生者は元ゲームのプレイヤーで攻略対象の狂気に気づいて、主人公を助けるために主人公の邪魔をしたりしていました。