08 - 誕生日
「ハッピーバースデイ!」
パン! パン! パン!
クラッカーが景気良く鳴り、
色とりどりの紙吹雪が僕の前で舞った。
「おめでとう!」「誕生日おめでとう!」
様々な声が僕の誕生を祝ってくれている。
僕は目の前にある大きな誕生日ケーキに近づき、
あらかじめ点いていたろうそくの火をふーっと吹き消した。
パチパチパチパチパチ。
その瞬間、大きな拍手が起こった。
僕はケーキを切り分けると、自分の皿に乗せ、
一人静かな部屋でもぐもぐとケーキを食べ始めた。
おめでとうと言ってくれた声は全部、
音声合成ソフトウェアを使った物だった。
それをタイミングよく同時に声が出るように起動させただけだった。
拍手の音も自分で録音し、
火を吹き消す時に合わせて鳴るよう練習していただけだった。
一斉に引いたクラッカー。
あれは固定させて、ラジコンを使って引っ張っていただけだった。
僕はひとりぼっちだった。
僕はあまりの虚しさに泣いた。
泣き続けた。
涙の池ができた。
池からは女神が出て来た。
「あなたが落としたのは金の心ですか? 銀の心ですか?」
「普通の心だと思います」
「正直者にはどちらも差し上げましょう」
僕の心は3つになった。
知らない心が追加で2つある。
…え? …いや、え?
ちょっと心の声を聞いてみよう。
「うっひゃっひゃっひゃっ、世の中カネでっせ~。愛も命も、カネさえあれば何でも買える!」
カネの心かよ。
銀の心のほうはどうなんだ。
「あんさん、こんな所でくよくよしてちゃいけないよ。旅の恥はかき捨てってね。あんたの人生の旅、まだまだ始まったばかりなんだから」
あー…えー…。
…銀…銀……あ。
…もしかして、「いぶし銀」とかなのか? これは。
…いや、分かりづらっ。
こんなもんもらってどうすりゃいいんだ。
三人寄らば文殊の知恵ってな。仲間は大切にするもんだぜ。
まぁ、金の斧と銀の斧も実際には脆くて使い物にならんだろうし…
ああそうか、売ればいいのか。世の中カネやカネ!
なんだこれうるさいぞやめてくれ。
「すみませーん。誰か僕の心買い取りませんかー?」
僕は外に出て手当たり次第に見かけた人に声をかけた。
完全に変質者だろう。だがそんな事も言ってはいられない。
しかし買い取り手が見つからなかった場合はどうするんだろう。燃やせないし。
ハハッ。燃やすのはてめぇの魂だけにしておきな。
はぁ、マッチ売りの少女みたいに夢でも見られりゃ良かったのにな。
夢は見るもんじゃねぇ。あんたと共にあるもんさ。ちょ、静かにしてもらえる?
ほんならここでドカンと安売りや! 勉強させてもらいまして60%オフ!
おまけにあめちゃんもつけまっせ! ほな、1つ、2つ、3つ、4つ…
あれ? お客さん、お子さん今いくつやったっけ?
あ~、そう5つね! おおきゅうなったなぁ! あ~、6つ~、7つ~。
うおぉああぁあああ! うるせえぇぇえええ! 頭が勝手に変な事を考えちまう!
僕はその辺の水たまりに声をかけた。
「あの、すみません。クーリングオフってやってますか?」
「お引き取りいたしかねます」
やっぱそっかー。いや「そっかー」じゃねぇんだわ。じゃなくてまだいたのかよ。
これ押し売りだよ。売られてないけど。売りたいのは僕だけど。
ホンマに売れるんかな~。心配んなってきたでコレ~。
うるさいよ。あと売られるのはお前な。
「君じゃダメだ話にならん。担当者を出してくれ」
「ピーッと鳴りましたら、お名前とご用件をお話しください。ファックスの方は送信してください」
ファックスじゃねぇよ。アックスだろ。元の話的に。ミックスしてんじゃねぇよ。
ていうか送信できるならさせろ。いやぁ、粋だねェ。どこがだよ。適当になるな。
やばい本当におかしくなりそうだ助けてくれ。
…待てよ。冷静に考えて僕は本当の意味で心を落としていたのだろうか。
精神としての心がなければ会話すらままならないはずでは。
…ああ、まぁ…気は落としてはいたが…
「あなたが落としたのは金の気ですか? それとも銀の気ですか?」
水たまりから女神が現れた。
「うわぁ! これ以上余計なもん増やすな! どっちも違…いや、金の気を落とした」
「あなたは嘘つきですね。あなたの気は没収します。以前与えた物も没収です」
僕は気を失って倒れた。
ついでにその瞬間変な人格が離れていくのも感じた。
ほなまた~。あばよ…またな。いや…または勘弁してく…れ…
僕はバッとすぐに起きた。
気を失っていたのは一瞬だったらしい。
ちくしょうあの女、よくもやってくれたな。
僕が倒れたせいで、道を歩いていたおじいさんが心配そうに眺めていたので、
大丈夫だとアピールするために笑顔で立ち上がった。
僕は倒れて体についた汚れを落とした。
さっきまでのやり取りで疲れて食欲も落ちてしまっていた。
こんな道端で倒れてしまって、人間としての格も落としてしまったな。
僕は水たまりを指さしながら、おじいさんに対して声を落として聞いた。
「あそこから、なんか、出てきました?」
相手はおじいさんだったので、腰を落として、ペースを落として聞いた。
難しくならないよう、あえて質問の精度も落としていた。
だが声が小さすぎたのか聞き取ってもらえず、肩を落とした。
僕はスマートフォンを取り出すと、適当にインターネット上の画像を落とし、
つけっぱなしになっていた全てのアプリを落としてから、電源を落として、
水たまりの中にスマートフォンを落とした。
さぁどうだ女神モドキ。姿を現せ。
水たまりから十一面観音の姿をした女神モドキが現れた。
そうきたか。
『あなたが落としたのは…』
11個の声が重なった。だがそこで止まった。
「そうだよな。僕は今12個落としたんだ…僕の勝ちか?」
女神は驚いた顔のまま泡を吹いて倒れた。
僕は女神を倒し、新たな神となった。
「おめでとう」「おめでとう」
神々が新たな神の誕生を祝ってくれた。
その中にあの女神モドキと瓜二つの顔をした女神がいた。
「彼女は私や他の神仏の力を真似て、人々に苦しみをもたらす悪しき存在だったのです。彼女を倒してくれてありがとう」
僕は本物の女神である彼女を落として結婚し、子宝に恵まれた。
そして僕は産まれたばかりの子にこう告げた。
「誕生日、おめでとう」
「生まれてきてくれて、ありがとう」




