十一月のさつまいもご飯
十一月の朝、幸子はさつまいもを買った。
スーパーの青果コーナーに、泥付きの大きなさつまいもが山積みになっていた。
迷わず三本選んだ。
さつまいもごはんを作ろうと思った。
来週、娘夫婦が孫を連れて来るというから。
さつまいもを洗い、皮をむいた。
包丁が少し滑った。
指の先がちくりと痛くなった。
それでもむいた。
几帳面な性格だったから、一つ一つ丁寧にむいた。
むきながら、思った。
母が毎年、この季節にさつまいもを蒸かしてくれた。
文句も言わずに、熱い芋を扱っていた。
今になって、あの熱さはどれほどだったろうと思った。
ありがとう、と言えばよかったとも思った。
「そうか」
言えなかったことは、たくさんある。
この歳になると、よくわかる。
来週、孫が来た。
さつまいもごはんを出した。
孫が箸を止めた。
「これなに」
「さつまいもごはん」
「さつまいもって、あの甘い芋?」
「あの芋です」
孫が一口食べた。
二口食べた。
「おいしい。甘い!」
幸子は何も言わなかった。
ただ、自分のさつまいもごはんを食べた。
おいしかった。
食後、孫が言った。
「おばあちゃん、栗は」
「今月はもうないよ」
「食べたかった」
幸子は孫を見た。
「次に来たとき、作ります」
「約束ね」と孫は言った。
「約束します」
几帳面な性格だったから、約束は守る。
メモ帳を出した。
書いた。
「さつまいも、むいた。指がちくりとした。孫、さつまいもごはんおいしいと言った。栗、次回。約束した。」
メモ帳を閉じた。
熱いお茶を一口飲んだ。
悪くない十一月だった。




