十一月の木枯らし
十一月のある木曜日、風が冷たかった。
図書館へ向かう道で、木枯らしが吹きつけた。
落ち葉が足元でくるくると舞い、幸子はコートの襟を立てた。
急がなかった。急いでも、風は止まない。
図書館に着くと、島田さんが入り口に立っていた。
幸子を待っていたようだった。
「寒かったでしょう」
「ええ、寒かったです」
「今日は風が強いですね」
「木枯らしですね」
ふたりで中に入った。
館内は柔らかな暖かさに満ちていた。
本を返し、また借りる。
今日は詩集をもう一冊。
先月から借り続けている詩集が、ようやく心に染みてきたから。
島田さんが隣で声をかけた。
「詩集ですか」
「先月から借りています」
「どんな詩なんです?」
「短い詩です」幸子は少し微笑んで言った。「読み終わったあと、ふと窓の外を見たくなるような詩です」
島田さんはその詩集の表紙を覗き込んだ。
「借りてみようかな」
「どうぞ。わかるようになるまで、少し時間がかかりますけど」
「それでいいんです」島田さんは静かに言った。「時間はありますから」
幸子は島田さんをそっと見た。
悪くない言葉だと思った。
この歳になって、「時間はある」と自然に言える人は、強い人なのだ。
帰り道、ふたりは少しの間、同じ方向を歩いた。
落ち葉が風に飛ばされ、島田さんが一枚を手で受け止めた。
赤いもみじだった。
「綺麗ですな」
「ええ、綺麗ですね」
島田さんはそれを幸子に差し出した。
幸子は受け取り、メモ帳の間にそっと挟んだ。
几帳面な性格だから、大事なものはすぐにしまう。
別れ際、島田さんが言った。
「来月の木曜日、図書館のあとでお茶でもどうですか」
幸子は少し間を置いて、静かに答えた。
「いただきます」
島田さんは、今年一番の柔らかな笑顔を見せた。
家に帰ってから、幸子はメモ帳を開いた。
もみじがぱらりと落ちた。
拾って、もう一度丁寧に挟み直す。
そして、いつものように短く書いた。
「木枯らし、来た。
詩集、また借りた。
もみじ、もらった。
来月、お茶の約束。」
メモ帳を閉じ、飴玉を一つ口に含んだ。
悪くない十一月だった。




