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第8話 かくて勇者は逃げ出した

「ホワッ!?」


 受付に戻って、試験官から渡された書類を提出すると。

 受付嬢は目を丸くして驚いた。


「え? これ……えっ? 誤記ではなく?」


 受付嬢が試験官を見る。

 書類と試験官を交互に見て、書類の裏側まで見る。

 裏には何も書いてないんだが。

 試験官は黙ってうなずいた。


「戦士Aランク、魔術師Sランクって……!」


 声を潜めつつ叫ぶという、器用なことをする受付嬢。

 一応、個人情報が漏れないように気遣ってくれているのかな?


「わはは! どうだ、すごいだろ!?」


 スリモドキが大声で言うので台無しだが。

 周囲の冒険者が注目し始めた。

 ていうか――


「俺の試験結果なのに、なんでお前が自慢してんだよ」


「いいじゃねーか。細けぇことは」


「いや、キモいって。

 『あたしの彼ピってハイスペなのよね~』とか自慢するイタい女みたいになってんじゃん」


「なっ……!? てめ……!」


「スリモドキさん。俺はノンケなので、ごめんなさいね?」


「よーし、買ったぞ、その喧嘩。表ェ出ろやコラ」


「あ? やんのかコラ? よーし、出ろ出ろ、表ェ出ろ」


「おお、出てやんぜ。てめえ絶対泣かすぞコラ」


 肩を怒らせて、スリモドキが冒険者ギルドを出ていった。

 俺はその背中を見送った。


「……で、何の話でしたっけ?」


 受付嬢と試験官を交互に見ると。

 2人ともなぜか困惑していた。


「えぇ~……」


「行かないのかよ、お前は?」


「え? 行くって言ってないし」


「え?」


「え?」


「え?」


 3人で順番にきょとんとして。

 受付嬢と試験官の頭上に「なうろーでぃんぐ」のグルグルが見えた気がした。


「「…………あっ。ホントだ」」


 2人のロード時間が終わったところで。

 俺も、何の話だったか思い出した。


「ランクの話でしたね。

 戦士がAで、魔術師がSと」


「あ、ああ……」


「そうでした」


 受付嬢は疑った。

 つまり、普通のことではないという事だ。

 ならば説明を聞いたほうがいいだろう。


「それで? 試験官としての判断理由は?」


「今回の試験では、そういう結果だ。間違いない。

 しかし今回は素手で戦ったから、武器を使えば戦士もSランクだろう。

 あの動きは、剣を使う奴の動きだった」


「そうなんですか?」


 受付嬢が俺を見る。

 俺は深々とため息をついた。


「気づいてしまいましたか……」


「隠したい事だったか? それなら――」


 試験官が気まずそうに言う。

 だが俺は手を振った。


「いえ、別に。隠しているわけではありません」


 受付嬢と試験官は、その場でずっこけた。

 よじ登るようにして姿勢を戻し、困惑した様子で俺を見る。


「なんだよ、重たい空気出したくせに」


「そうですよ。隠してないなら積極的に宣伝したほうが――」


「いや、隠してないけど、使う気もないので。

 見せろと言われると困るんですよね」


「なんで?」


「被害が出るので。

 普通に振ると斬撃が飛ぶとか、木の棒で鉄の塊が斬れるとか、そういう事が起きるので見せると周辺被害がひどいことになるんですよ。

 それを手加減して、周りを壊さないように……っていうのが、できなくて」


 行き過ぎた実力ゆえの弊害だ。できなかった頃の動きができなくなった。

 最初から出来たわけではないが、出来るようになって久しく、できなかった頃のことが思い出せないし、どうやって出来るようになったのかも説明できない。

 あれだ。子供の「なんで?」という質問攻めに、説明できなくて困るやつ。あれと同じようなものだ。


「「あぁー……」」


 なんか残念なものを見るような目で見られた。

 解せぬ。


「テメエこの野郎! 一文無し! おちょくりやがって!」


 バンッ!

 勢いよくドアが開いて。

 怒り心頭のスリモドキが入ってきた。


「あっ」


 やべっ。

 戻ってきちゃった。

 その前に別の出口から逃げるつもりだったのに。


「あ……? 何だ今の『あっ』って?」


「いや……その……」


 答えを探して目が泳いでしまう。

 本能には逆らえないのだ。


「目ェ泳いでんぞコラァ!?

 てめー、まさか『忘れてた』とか言うんじゃあねーだろーなぁぁぁ!?」


「いやぁ……その……」


 意志とは関係なく、目が泳いでしまう。

 なんかもう、小銭でも落ちてんのかってぐらいキョロキョロしてしまう。


「…………」


「…………」


 ち……沈黙が重い……!

 こ、こうなったら小細工は逆効果だ。

 ええい、ままよ……!


「……すまん、スリモドキ。

 ちょっとこっちの話に夢中になっちまって。別にお前をコケにしようとか思ったわけじゃあないんだ。やっぱギルドの手続きって大事だろ? 個人的な喧嘩はその後にしないと。迷惑かけちゃうし。そのために表に出ようって事にしたわけだし?」


「なるほど。そうか。たしかにな。迷惑かけないようにするのは、大事なことだ」


 スリモドキは、腕を組んで何度もうなずいた。

 たいそう、しみじみと頷いている。

 まずい。

 これは「俺に迷惑かけるのは構わんと?」みたいな流れだ。

 押し切るしかない。今のうちに。


「そうなんだよ。分かってくれたか。いや本当にすまない」


「で? 本当は?」


「っ……」


 て、てめー……! その質問はクリティカルヒットだぞ……!?

 たじろいでいると、思わぬところから攻撃が来た。


「『え? 行くって言ってないし』とか言ってたな」


「言ってましたね」


「試験官と受付嬢が裏切った!?」


「ちょぉーっとじっくりお話が必要なようだなぁー!? 一文無しぃ!」


 もうダメだ。ここから挽回の手はない。

 いったんスリモドキが落ち着くまで逃げよう。


「2人とも、戦士としての実力を見たいんだっけ?

 見せてやるから、修繕費は2人のおごりだぞ」


 早口で責任を押し付けて。


「えっ――」


「ちょっ――」


 瞬時にいくつかの魔法を発動し、一気に加速する。

 音速を超えて近くの物が衝撃波で吹き飛ぶが、気にしない。どうせ修繕費は試験官と受付嬢の支払いだ。

 こうして俺は、全力疾走で逃げ出した。

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