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第7話 かくて勇者は合格した

 試験の申し込みを済ませた。


「では、このまま少しお待ち下さい」


 受付嬢が奥へ引っ込み。

 数分後に、壮年の男といっしょに戻ってきた。まだ50代半ばに見えるが、足が悪いのか杖をついている。無精髭を生やし、焦点が合わない目つきだ。

 この目つきは、この10年間で数多く見てきた。俺もこうなっているのかもしれない。いわゆる「1000ヤードの凝視」というやつだ。戦場の極限状態を体験するとストレスでそうなる。勝手な想像だが、壮年の男は、そのときに足をやられたのではなかろうか。


「俺が試験官だ。お前ら、運が良いな。ちょうど暇だったんだ。

 試験は今からすぐに出来るぞ。準備はいいか?」


「よろしくお願いします」


「俺は見物だ。受けるのはコイツだけだぜ」


 スリモドキは見物しに来るようだ。

 小馬鹿にして楽しむつもりか? 俺を見てニヤニヤ笑っているのだろう。

 ――と思って振り向くと、スリモドキは試験官を見てニヤッと笑っていた。

 なるほど。そっちがターゲットね。俺が「やらかす」こと確定という前提で見ているわけだ。


「じゃあ、ついてこい」


 試験官が顎をしゃくって歩き出す。

 そして町の外へ。

 街道からも外れて、人気のない場所へやってきた。


「じゃあ始めるぞ。

 まずはコイツからだ」


 試験官が魔法を放つと、地面から人形が現れた。

 ぬいぐるみのような――いや、このサイズだと「ぬいぐるみ」というより「着ぐるみ」と言ったほうが近いか。どこかのゆるキャラかハニワみたいな、簡素化されたデザインだ。


「ゴーレム……!」


 驚いた。珍しい魔法を使うものだ。

 ゴーレムは、冒険者には向かない魔法だ。なぜならゴーレムにはセンサーもカメラもついていないため手動制御。ラジコンと同じで、見える範囲でなければ思うように動かせない。

 工事現場で重機の代わりに使うとか、軍隊で拠点防衛用の白兵戦力として使うならいいが、操縦者の安全を確保できない環境で使うのは自殺行為だから冒険者には向かない。


「そうだ。遠慮なく攻撃していいからな」


 なるほど。考えてみればたしかに、試験という条件下では有用だな。

 うっかり攻撃を食らっても安全だし、もし「複数」や「別の姿」が作れるなら、より多様な試験ができる。


「では――」


 左手と左足を前に出す。少し腰を落として、空手のように構えた。

 手は開いて、拳を握らない。殴るのは極めて一般的な攻撃手段だが、手は本来そこまで頑丈な部位ではない。常に地面を蹴っている足と違って、手は物を掴むために進化した部位なのだから。


「ま」


 発語なのか駆動音なのか分からない音を出して、ゴーレムが殴りかかってきた。

 鈍重な外見なのに、意外と素早い。

 しかも意志のない土人形だから、気配を読むのが難しい。このため、気配を読んで動くことに慣れている俺には、実際よりも速く感じられる。

 ……だがまあ、問題ない。


「こうして――」


 殴ってきたゴーレムの拳を、左手でいなす。

 こっちの手が擦りむけないように速度を合わせるのがコツだ。


「――こうして――」


 そのまま踏み込んで、ゴーレムの脚を蹴って破壊。

 生物なら関節を狙うのが効果的だが、ゴーレムは構造的に「関節」が存在しない。関節らしき場所で曲げ伸ばしをするのは、単に術者がそのように動かしているだけだ。

 なのでここは、位置的に蹴りやすい場所を、力任せに蹴る。


「――こうじゃ」


 さらにもう一歩踏み込んで、背中で体当たり。鉄山靠というやつだ。踏み込む足の位置がポイントで、バランスを崩したときに相手の足が引っかかる位置へ置いておく。体当たりだが、実際には投げ技に近い。


 びたーん!


 漫画みたいに派手に吹き飛んで、ゴーレムが転倒した。

 ゴーレムは意外と速かったが、それだけだ。問題にならない。そもそもの地力が違いすぎるので。


「ふむ……」


 油断なく残心を取りつつ、ゴーレムを観察する。

 生き物ではない相手と戦うときの注意事項だ。生物と同じ動きをすると思ってはいけない。転倒したゴーレムを破棄して新たに作ることで、「起き上がる」動作を省いて即反撃できるのだ。

 ただ、そのとき重要なのが、再作成できるだけの素材があるかどうかだ。さすがに素材なしでゴーレムは作れない。


「見た目通り、中身まで土か」


 破壊した脚を見た。

 素材は土。これは油断ならない。なぜなら土は地面にあるのだから。倒れたゴーレムを警戒していたら、背後に新しいゴーレムが……なんて事ができる。

 いつでも、どこでも、どれだけでも、簡単に無料で調達できる。しかもそこそこ重いから単純なパンチでも威力が高く、土嚢と同じであらゆる攻撃に耐性がある。コスパがいいのだ。だからゴーレムは、たいてい土で作られる。岩石や金属で作るほうが固くて重くて強いが、コスパでいうと土で作るのが最強だ。


「いい動きだな。

 ゴーレムのパンチをいなすとは、たいした防御力だ。重いはずなんだが。

 それに、俺のゴーレムを蹴り1発で壊した。攻撃力も高い。

 片脚を失ってバランスを崩した瞬間に追撃して転倒させたのも良い。しかも転倒したゴーレムに追撃しなかった。ゴーレムからの反撃を完璧に封じたわけだ。技術点も高いぞ。

 戦士としては合格だな。最低でもBランクだ。技術点でAランクってところだな。じゃあ次はもっと強めに行くぞ」


 言ってる間に、ゴーレムは元通りに直ってしまった。

 これで振り出しに戻る。

 ――とは行かない。人間は学ぶのだ。

 作るのを見て、実際に触れて、壊して中身を確認し、転倒させて動作点検もしたうえで、修復するのを見た。予習・実習・復習がすっかりバッチリ終わったわけだ。


「ああ、いえ……もう慣れました」


 少し申し訳ない気持ちで、俺は言った。

 試験官はテストの強度を上げようとしているが、彼の実力ではそれは不可能だ。

 なぜなら――


「ほう? じゃあ、こういうのはどうだ?」


 試験官が魔法を使おうとした。

 しかし、何も起きない。


「……あれ?」


「慣れた、と言ったでしょう?」


 発動する前に阻止する。魔法というのは電気回路みたいなもので、断線やショートが起きると不発に終わる。つまり魔法回路を構築している間に、適当に「引っ掻いて」やればいい。

 魔王軍との戦い。その後半では、この魔法対策が必須のスキルだった。魔法の発動阻止が反射的にできないと、あちこちから多種多様な魔法が飛んできて多重のダメージとデバフを食らうため、まともに戦えない。さすがにゴーレムを使ってくる魔物は居なかったが、似たところでは「生きている鎧(リビングアーマー)」がいた。


「魔法回路への干渉? バカな。そんなのSランクじゃあねーか」


 試験官が呆然とした顔で、自分の手と俺を交互に見た。

 ひどく驚いているが、やるだけなら簡単だ。使うのは初歩の初歩――魔法を覚えるときに誰でも最初に学ぶ「マジックアロー」だ。

 ただし命中させるのは難しい。

 クレー射撃みたいなものだ。大切なのはタイミング。すでに発動済みの魔法には使えない。魔法の回路は、発動した魔法そのものに保護される。内部に格納される感じで。回路が剥き出しの「発動前」にしか使えない方法だ。そして熟練の魔術師は、回路を剥き出しにしている時間(詠唱時間)が短い。


「……ま」


 所在なさげにゴーレムが待機している。

 次の課題が来ないな。試験は終わりか?

 試験官がフリーズしているので、助けを求めて見物しているスリモドキに視線を送ってみたが……なんか真っ白になってポカーンとしていた。

 ダメだ、こりゃ。

 こうして俺は、試験に合格した。

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