第6話 かくて勇者は受験する
「そうでしたか。ありがとうございました」
届け先のイグニスは元気だったと伝え、ザルワーク・サケスキー商会の店長から完了のサインをもらった。
まったく平坦な反応だ。ドラゴンのところへ使い走りに行かせた態度ではない。この店長は、あの巨体を知らないのではなかろうか? 毎月同じ日に買いに来ると言っていたし、住所も知っていた。だが、あれが町にやってきたら、大混乱だろう。変身魔法でも使って来るのかな?
まあ、ともかく。
次に冒険者ギルドでその書類を提出して、完了の手続きをおこない、報酬を受け取る。
「お疲れさまでした。早かったですね」
「スリモドキのおかげで索敵がスムーズで」
「こきやがれ。てめーの実力なら索敵なんか無くても困りゃあしねーだろーが」
俺の言葉に、スリモドキが居心地悪そうにする。
受付嬢が俺たちを交互に見て、きょとんとした。
「なんか仲良くなりましたね」
「そうですね」
「けっ……! 冗談じゃあねーよ」
正反対の返事をしながら。
スリモドキは、露骨に話題を変えた。
「それよりランクの試験を受けろよ、一文無し」
「お前の奢りで?」
お金がないから無理だと煽ってきたのは、スリモドキだ。
「奢りじゃあねーよ。投資だ。
お前はどうせ合格する。今度は俺の仕事に付き合え。お前の実力なら俺の仕事にも使えそうだが、ランクが無けりゃ受けられねーからな」
「え、やだ」
「は? 何だテメエ。俺には索敵やらせといて」
「明日死ぬかもしれねーのに、投資とか。回収できる見込みねーよ。
借りっぱなしで死んだら気持ち悪いだろ」
「そんな簡単に死ぬかよ、あんだけの実力があって」
「俺の周りじゃあ、しょっちゅう人が死ぬんだ」
「それは軍隊の話で……おい待て。その言い方たと、死ぬの俺じゃねーか!?」
「ゲラゲラ!」
「ふざけんなテメエ。クソが……」
虫でも追い払うように手を振って、スリモドキは真面目な顔をした。
「軍隊と冒険者は違ぇよ。てめーは今、冒険者だ。やばけりゃ逃げ帰っていいんだよ。そりゃあ安全じゃあねーが、かといってそう簡単に死ぬ仕事でもねーよ」
「そんなもんか?」
「また来年、ってのなら返す前に死ぬかもな。
けど、今日の明日で死ぬような事は、まず無ぇよ。
試験さえ受けりゃあ、お前はすぐにランクがつく。回収は明日か明後日にも出来るぜ。来月までにはしっかり黒字っつー寸法だ」
「でも俺は、ドラゴン相手に普通だぞ?
お前の基準で考えたら、リスク高すぎじゃね?」
「うぐっ……! そ、それな……。
ああいうのは、お前、控えろよ。そこは」
「やだよ。なんでお前の都合で行動制限されなきゃならねーんだよ。お前は俺のオカンか」
言い合っていると、受付嬢が笑った。
「うふふ。すっかり仲良しですね」
「「やだよ、コイツと仲良しは」」
ハモった。
畜生め。
◇
貸す、借りない、と押し問答の末に、結局さっさと稼いで自分で払えばいいということになり、スリモドキはもうしばらく俺に同行することになった。
「しょーがねーから、先輩として指導してやんよ」
「ギルドとしても、そのほうが安心ですね」
受付嬢にも言われてしまったので、受け入れることにした。
派遣のバイトみたいなもんだけらな。会社に迷惑かけるのは本意ではない。
そして1ヶ月後。イグニスに貰った竜の鱗も盾に加工してもらったし、お金も貯まったので、試験を受けることにした。
「てことで、試験を受けたいです。戦士の」
「戦士の!?」
「戦士の」
「……はあ!?」
スリモドキが、なんかガビーンとしている。
でも試験を受けるのは俺だ。
スリモドキを無視して受付嬢を見ていると、受付嬢は書類を取り出した。
「戦士の試験ですね。では、こちらの書類に――」
「待て待て待て! 魔術師のを受けろよ!」
「なんでだよ?」
「むしろこっちが何でだよ!? あんな魔法使えるくせに!」
「だって戦士のほうが得意だもん」
「だもん、て! おっさんが! かわいくねーよ!
てか、あんな魔法使えるくせに、戦士のほうが得意とか! イヤミか、てめー!?」
「えっと……あんな魔法というのは?」
受付嬢が首をかしげる。
スリモドキが、俺が魔法で100m先の盗賊を10人ほどまとめて倒した話をした。
すると受付嬢は目を輝かせて、別の書類を取り出した。
「魔法使いの試験を、ぜひ!
ギルドとしても、優秀な冒険者を遊ばせておくわけには行きませんので! さあ、こちらにサインを!」
「えぇ~……しょうがねーな……。
じゃあ両方で」
どの仕事を受けるかは、冒険者の自由だ。
なので、資格があっても使わなければいい。
「嫌そうに言うなよ」
「嫌だもん。
俺の魔法は、これからは戦うためじゃなく、便利に過ごすために使うんだいっ」
空を飛ぶとかね。
失敗したけど、あれは楽しい実験だった。ああいうのをもっとやりたい。地球じゃできないからな。
「魔法を開発するほどの腕前なのですか!?
それはまた、ぜひ高ランクの仕事を受けて頂かないと!」
受付嬢の目がますます輝く。
それはもう、キラッキラだ。
そろそろ目からビームとか出そうだな。
「へぇ……そういう仕事もあるんだ?」
「魔法省の手伝いとかで、ありますよ。ご紹介するには、かなり高いランクが必要ですが」
「なら、悪くない……か?」
けど魔法省? 省庁って国の機関だよな? 王都は俺が滅ぼしちゃったから、どうなるんだろう? 研究所はよそにある、とかなら、可能性はあるかも? でも予算がなくなるだろうし……?
どこかの貴族の下で研究とか……覇権争いのための軍需魔法ばっかり作らされそうで嫌だな。
「一文無しのくせに、仕事はえらく高望みだな」
スリモドキが、鼻で笑いながら言った。
「お金がなくても、スリの真似事なんかせずに生きていけるからね。俺は」
俺は、を強調して言ってやった。
サバイバルなら得意だもんね。俺は。
「てめえ……!」
「ケッケッケッ」
「仲良しですねぇ」
スリモドキをからかっていると、受付嬢がにっこり笑って言った。
俺たちは顔を見合わせた。
コイツと仲良し――?
「「冗談じゃねーよ。コイツと仲良しなんて」」
「てめー、マネすんな!」
「お前こそ!」
言い合って、また受付嬢に笑われて。
ともかく。
こうして俺は、試験を受けることになった。




