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第5話 かくて勇者は酒樽を届けた

「おい、一文無し。ここはダメだろ。やべーって」


「でも届け先はここだ。

 こんにちはー! お届け物でーす!」


「うぉい!? 無警戒かテメエ!?」


 目的地に到着。

 山奥の、指定された地点にあったのは、大きな洞窟だった。

 周辺からは鳥や獣の気配が消え、魔物も寄り付かない。なぜなら――


「グルルル……!」


 真っ暗で何も見えない洞窟の奥から、オレンジ色の光が近づいてくる。

 次第にズシン、ズシン、と重々しい足音が聞こえてきて、ティラノサウルスが小さく見えるほどの巨体が、ぬぅっと姿を現した。


「ニンゲンだと? また我の宝を盗みに来たか? それとも傭兵扱いのくだらぬ話でもしに来たか?」


 出てきたのは真っ赤な鱗のドラゴンだった。

 溶岩で入浴でもしていたのか、全身からぼたぼたと赤く輝く雫を滴らせている。

 スリモドキが、ガタガタ震えだす。逃げ出そうにも足がすくんで動けない様子だ。


「おいおいおいおい……! やべーって! マジで!」


「こんにちは。お届け物です。

 ザルワーク・サケスキー商会様から、イグニス様宛のお荷物お預かりしてます。こちらの酒樽ですね。

 今月はお越しにならなかったので、ご機嫌伺いでお贈りしますとの事でした」


「なんでそんな普通なんだよ!? ドラゴンだぞ? 俺達なんか簡単に食われちまうって!」


「スリモドキよぅ……お前のその『とりあえず敵対行動とる』っていう態度は、やめたほうがいいぞ?

 お前、俺と出会った時もいきなりスろうとしてきたけど、友達できないぞ、そーゆー態度は」


「お前はドラゴンと友達になるつもりか!?」


「今回はお客様だよ。配送の宛先なんだから。

 お前の態度は、お客様への態度じゃあないぜ?

 態度を改めろ。出会い方が良けりゃ、魔王とだって友達になれるさ」


 俺が呆れて言うと、ドラゴンが岩を転がしたような大声で笑い出した。


「グワハハハ! 配達人! お前の言う通りだ!

 だが、隣のニンゲンの言うことも、まあ分かる。正直鬱陶しいが、貧弱なニンゲン風情が我らドラゴンの前に立つのは、さぞや恐ろしかろう。

 配達人よ。お前は豪胆だな」


「いやぁ、それほどでも」


 怖くないだけだ。戦えば勝てるからな。

 魔王城近くのエリアでさんざん戦ったから、戦法も強さも倒し方も、すっかり熟知している。今や安全に倒せるので、戦うというより、単なる作業だ。

 けどまあ、このドラゴンとは戦うことにならないだろう。けっこう気さくだ。話せば分かる感が強い。


「受け取り証にサインもらえますかね?」


「うむ、ペンとインクはあるか?」


「こちらに。人間用ですが使えますか?」


「うむ、借りるぞ」


 ドラゴンは、軽自動を鷲掴みにできそうな巨大な手で、爪の先を器用に使ってペンを走らせた。


「おお……凄いな。なんて器用なんだ」


「ふはははは! パワーやタフネスばかり注目される我らが、器用さに驚かれるとは新鮮だな」


「いや、でも、その巨体で人間用のペンを使うとか、産毛で豆粒にサインするようなサイズ感じゃないですか」


 しかもパワーが体格相応なのだから、パワーショベルで鉛筆をつかうような難しさだ。サインのために……とは限らないが、精密な動作を求めて、よほど練習したのだろう。


「その通りだ。これより細かい作業はさすがに無理だがな」


「スリモドキよぅ、今こそ俺は『このドラゴンやべえ』と思うぜ。

 なんかの職人か達人でも目指してんのか? ってぐらい、とんでもねー練習量だ。ちょっとやそっとの情熱じゃあねーぜ、ここまでの熟練度は」


「お、おお……そうか……」


 スリモドキの顔には「ちょっと何言ってるか分かんない」と書いてある。


「ふはははは! お前は面白いな、配達人。

 気に入った。また来るがいい。今後はお前に配達してもらうとしよう」


「都合が付けば、お引き受けします」


「都合がつかねば断ると?」


「もちろん。こちらにも生活がありますから」


「お、おい……!」


 スリモドキが青い顔をする。

 しかしドラゴンは、機嫌良さそうに頷いた。


「さもあろう。できる限りで良い。

 ああ、実に心地良い。お前とは、まるでドラゴンと話しているようだ。

 そうだ、これを持っていけ。土産だ」


 ドラゴンが後ろを振り向き、洞窟の奥から何かを取り出した。

 大きめの盾のようなソレは、ドラゴンの鱗だった。


「我にとっては抜け毛のようなものだが、ニンゲンには有用だろう?

 その背中のやつより固いはずだ」


「ああ、これ……」


 俺は背中の盾を振り向いた。

 これも実はドラゴンの鱗だ。初めてドラゴンを倒した時にむしって、DIYで持ち手を取り付けたものだ。魔王と戦うときにも活躍してくれた。

 だが、たしかに、このドラゴンの鱗のほうが魔力が多く宿っていて、頑丈そうだ。


「ありがとうございます。

 装備の更新なんて、何年ぶりかな?」


 魔王軍四天王を倒して鹵獲した武具が強かったから、魔王城周辺では装備を更新していない。最後の四天王を倒したのが、たしか……3年ぐらい前だっけ?

 ちなみに魔王を倒して鹵獲した武具は、強力だが呪われているので使い物にならない。まあ、奥の手として一応保管してるけど。


「今度はちゃんと職人に頼んで加工してもらうか」


 どこの誰に頼めばいいか分からないが。

 スリモドキは変にビビってるから、誰か別の人に聞こう。

 こうして俺は無事に酒樽を届けた。

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