第4話 かくて勇者は交流を深めた
「おい、一文無し。敵だ。盗賊団のようだぜ」
しばらく平原を歩くと、スリモドキが警告した。
俺には分からない。何から判断したのだろう?
しかし試しに探知魔法を使ってみると、なるほど確かに10人ほどの盗賊が待ち伏せている。前方100mほどの位置だ。
「ふむ。すごいな」
「あ?」
「探知魔法でも同じことは出来るが、魔法なしでやってるんだろ? 凄い技術だ」
魔法を使えば魔力が動く。だがスリモドキの魔力に動きはない。すぐ隣を歩いているのだから、見落とすはずもない。物理的な方法だけで、探知魔法と同じことをしている。その価値を一言でいうと――じゃあ探知魔法いらなくね?
ちなみに俺は、あまり探知魔法を使わない。使っても使わなくても常に襲われる生活だったから、使うだけ魔力の無駄だった。だから探知よりも防御や迎撃の魔法を使っておくほうが効果的だったのだ。
「気持ち悪ぃな。褒めんなよ。悔しがれ」
嫌そうに言うスリモドキ。
俺はニヤニヤ笑った。先輩風を吹かせてくるくせに、こいつの態度はまるで新兵のようだ。
「照れるな照れるな」
「照れてねーよ!」
照れ隠しにしか見えねーよ。
そうやってムキになるところが特に。
……とか言ったら、拗ねるんだろうなぁ。
「でも不愉快じゃあない。だろ?」
「畜生め。てめーの言う事なんざ1つも認めたくねーってのに……」
「はっはっはっ。つまんねーこと気にすんな。死ぬこと以外はカスリ傷って言うだろ?」
ムカつく奴がいても、自分で攻撃する意味はない。ちょっと距離を取るだけで、そいつは勝手に死んでいく。そんな生活だった。
だから、たいていの事は、気にするだけ無駄なのだ。
「……なるほどな。てめーの事が少しだけわかったぜ」
スリモドキは神妙な顔で言った。
そこからスリモドキの態度は、ちょっと変わった。
「分かっちゃったか。
さて、じゃあ盗賊退治と行くか」
「戦うのか? 配達依頼は戦わないほうがいいぜ。荷物が危ないからな」
「親切にどうも。
だが迂回するのは面倒だ。
そんなときは、遠くから一方的にぶっ殺すのがいい。たとえば、このように」
土魔法を発動。
単純な、小石を飛ばすだけの魔法だ。しかし熟練すれば銃撃と同じように使える。
つまり狙撃だ。
ちなみに火薬を使わないので銃声がしない。ただし飛翔速度が音速を超えると、ソニックブームの爆発音がする点には注意が必要だ。一度に敵を殲滅できればいいが、残ってしまう場合は位置がバレる。
音速よりちょっと遅いぐらいのスピードで飛ばすのがコツだ。そうすれば、ほとんど無音で攻撃できる。ごく近くに居る者にだけ、わずかな風切音が聞こえるのみだ。
最後にもう1度探知魔法を使って、結果を確認する。
「……はい終わり。
盗賊の死体って、どうすればいい? 燃やすのか? 埋めるのか?」
「ほっときゃ魔物が食うから、何もしなくていいぜ。
強いていうなら、その手の魔物が寄ってくる前に、さっさと立ち去ることだな」
なるほど。小規模な戦闘しか起きないゆえの事情だな。
軍隊だと、発生する死体の数が多いため、疫病予防で死体を集めて火葬する。
何らかの事情でそれができずに放置した場合には、スリモドキが言うように魔物が来て死体を食う。だが食いきれない量になるため、残された死体がアンデッド化する。
小規模な戦闘で死体の数が少なければ、そういう心配がないわけだ。死体の処理をしなくていいのなら、楽で助かる。
「じゃあ行くか」
「……しかし、この距離から10人をいっぺんに殺すとか、とんでもねーな。
魔術師の試験を受けりゃ、かなりのランクになるんじゃあねーか?」
「そうか。
じゃあ、この仕事が終わったら試験を受けてみるか」
「それがいいぜ。ランクが上がれば、受けられる依頼も報酬も増えるからな」
「専門性の高い仕事を振られるわけだな」
「そういうこった。
あ。ちなみに試験受けるには受験料が必要だぞ」
「ダメじゃねーか!」
「ケッケッケッ。一文無しには受けられねーな。
せいぜい馬車馬のように働くがいいぜ」
「そうだな。それしかねーか……」
「素直か! 畜生め。悔しがれよ」
「諦めろ。『悔しい』というのは『本当はできたはずなのに』という認識が必要だ。あの時ああすれば今頃このぐらいお金を持っていはずなのに……という認識がないと、無一文を『悔しい』とは思わない」
日本にある財産は、この世界に持ち込んでも使えない。
そして召喚されてからは、お金と縁がない生活だった。
この点が大きい。
「つまり、どういうことだ?」
スリモドキが眉をひそめる。
難しい言い回しだったか。でも簡単に言うと、なんていうか……ダメ人間みたいになっちゃうんだよな。
……まあ、仕方ないか。
「俺は今まで1度もお金をかせいだことがない」
お金がなくて当たり前。
しかも、お金がなくても困ったことがない。
そういう生活だったし、そういう認識だ。
だからお金がないことを「悔しい」とは思わない。
「いいとこの坊っちゃんか、てめーは?
軍隊だって給料ぐらい出るだろ」
「知らんな。受け取ったことがない。
まあ、受け取ったとしても使うところが無かったわけだが」
「どんだけハードな戦場だよ……」
「魔王にいちばん近いところさ。たぶん世界一ハードな戦場だよ」
「意味わかんねー」
俺は勇者だったからな。
しかし、一般にこんな話は、盛ってるだけのホラ話だと思われるのがオチだ。
スリモドキも、そう思ったらしい。
構うことはない。信じてほしいとも、わかってほしいとも、思っていない。勇者だと名乗るつもりもないのだから。
こうして俺は、スリモドキと少しだけ仲良くなった。




