第32話 かくて勇者は勝利した
「どうやら、ここが最上階のようだな」
階段を上がると、そこはフロア全体が1つの大部屋になっていた。
今までも大部屋はいくつもあったが、比べ物にならない広さだ。これだけ広ければ、野球やサッカーだってできるだろう。壁には4面とも窓があり、外が見える。そして、上への階段は見当たらなかった。
「……で、あれがラスボスか」
それは巨大な蜘蛛のようだった。
多脚構造のロボット。歩く戦車といった風貌だ。
最初に聞こえたのは、冷却ファンの音だった。スリープ状態のゲーム機やパソコンが起動するような。
「ふんっ!」
異例――ここに来て初めて、照れ屋が殴りに行った。
分かる。あの主砲は、さすがに痛そうだ。
ガイィィィン!
鉄パイプに金属バットをフルスイングしたような、硬質な衝撃音と振動音。
こっちを向こうとした主砲が、殴り飛ばされて横を向く。
「一文無しどん! 細かいのは任せただよ!」
副砲――機関銃が一斉に動いた。
主砲に比べて、より「軽い」ため、より「素早く」動く。
複数の機関銃が、まるで吸い寄せられるように照れ屋を振り向く。
「ふんっ!」
照れ屋は再び殴った。
射撃開始の直前。
その衝撃で狙いがズレる。
「任せろ」
俺は盾を構えた。
狙いがズレた機関銃から、流れ弾が飛んでくる。
「ほっぺちゃん、水!」
「はいっ」
すぐさまほっぺちゃんが水魔法を放つ。
エンジン音がしないのに冷却ファンの音がするということは、こいつは電動式なのだろう。水没させればショートして壊れるかもしれない。
そうでなくても、飛翔体は水の抵抗で大きく速度を落とす。
ドドドドド!
響く銃声。
歩く戦車は動きを止めず、遠くの俺達には機関銃を、近くの照れ屋には脚で薙ぎ払いを試みた。
「狂信者、Aライン!」
指示を出しつつ、飛んできた銃弾を防ぐ。
ほっぺちゃんの水魔法で大きく威力を削ぎ落とされ、防ぐのは簡単だった。
「ただちに。我が神よ」
狂信者が、防御結界の壁を作る。
重要なのは、その位置と角度だ。
防御結界は、照れ屋を守る位置に展開され、その角度は斜め。
「助かっただ」
照れ屋の頭上を通過する、戦車の脚。
結界の壁が坂道になって、戦車はそこを駆け上がった。薙ぎ払いは失敗だ。しかも大きくのけぞるように姿勢を崩している。
「ここだ!」
俺は電撃魔法を放った。
金属でできたボディが水に濡れており、効果は抜群だろう。
「……よしっ」
歩く戦車が、白い煙をあげて、バチバチと漏電を起こす。
狙い通りだ。うまくいった。動きが止まった。
そう思った直後、主砲がこっちを向いた。
ズドォン!
けたたましい発射音とともに、上下も分からないほど吹き飛ばされる。
予想もしなかった。こんなロボットが「死んだふり」をするなんて。
「一文無しどん!」
照れ屋が駆け寄ってきたようだ。声の移動で分かったが、姿は見えない。
というか、何も見えない。視力を失ったか。
「我が神、すぐに回復しますので動かないでください」
狂信者の声が聞こえ、しびれが取れていく。
同時に激痛が襲ってきた。
視力が戻って、俺は自分の体を見下ろした。
「……マジか」
まるで袈裟斬りにされたように、左腕しか残っていない。
右肩から左脇腹にかけて――そのラインより「先」が消え去っていた。
よく死ななかったものだ。
「さあ、治ってきました。立てますか、我が神よ?」
「パンツが欲しいな」
再生した体で立ち上がる。
だが衣服までは戻らない。モザイク必須のもろ出し状態だ。
ズドォン!
再び主砲の音。
だが、衝撃は来なかった。
「ぐは……! な、なんて威力だべ……」
全身血まみれになりながらも、俺の盾を拾って構えた照れ屋がなんとか耐えていた。
もう1発食らったら危ない。だが、俺がほぼ全身を失った攻撃に、原形をとどめて耐えるとは、さすがだ。
「『なんて威力』はお前のほうだぜ、照れ屋。どーゆー耐久力してんだ」
感謝を込めて回復魔法をかける。
ひとまず立て直した。
だがマズイ状態だ。あの主砲は、そう何度も食らえばジリ貧――防御と回復に魔力を使いすぎてガス欠になる。
「ヒャッハー!」
突然の歓声。
振り向けば、スリモドキが歩く戦車の足元にいた。
「見つけたぜ! てめーの弱点をよォ!」
スリモドキが走る。
走りながら、戦車の脚に斬りつけていく。
関節の裏側に刃が滑り込み、直後、まるで血を流すようにオイルが漏れた。
油圧システムのケーブルだ。今度は「ふり」ではなく、戦車の脚が動かなくなった。
「はあっ!」
照れ屋が跳んだ。
戦車の上へ飛び乗り、主砲に組み付いて逆エビ固めだ。
「スリモドキ! スイッチ!」
戻ってきたスリモドキに、盾を投げ渡す。
慌ててスリモドキが盾を受け取った。
「嘘だろオイ!?」
スカウトは身軽なことが重要。
盾役はその逆だ。
代役を頼むには苦しいものがある。
だが一瞬だけ持ちこたえればいい。
「むんっ!」
俺は戦車の主砲へ、剣を振った。
切り上げ。狙うは照れ屋が逆エビ固めをしている、ちょうどその位置。
ギィン! と硬い音が響き、切れ込みが入った。
「むおおおおっ!」
照れ屋が吠える。
単純な原理だ。破りにくい袋をあけるのに、ちょっとだけハサミで切れ込みを入れるのと同じ。
メリメリと音を立てて、主砲が大きく曲がった。
「見えた……! オラァ!」
砲身の破断面から、薬室に装填された砲弾が見えた。
俺はそこへ剣を突き入れた。
だが浅い。
「照れ屋!」
「はあっ!」
照れ屋に剣を殴りつけてもらい、更に深く突き刺す。
俺達は素早く戦車から離れた。
「ほっぺちゃん! 電撃! 全力で!」
「わかりましたっ!」
ドラゴンブレスに匹敵するほっぺちゃんの全力魔法。
その威力は天然の落雷にも引けを取らない。
膨大な電気エネルギーが、剣を避雷針として砲弾に流れ込む。そして砲弾の素材による電気抵抗で高熱が発生し、装薬が発火――
ズドォン!
折れ曲がった砲身からは砲弾が飛び出せず、歩く戦車は自爆した。
さらに爆発の威力で破壊された未使用の砲弾が破損し、走り回る電撃と爆炎の効果で発火。爆発が連鎖した。
「……やったか」
バラバラになった戦車の残骸が飛び散る。
最後に俺と照れ屋でそれを防いで。
こうして俺達は勝った。
天空の塔、攻略完了だ。




