第31話 かくて勇者は再びため息をついた
数えてみると、俺たちはついに前人未到の11階に到達したようだ。おそらく。きっと。
何度も上下に行ったり来たりしたせいで、数えるのが大変だった。しかも転移罠だらけのゾーンでいつの間にか階層を移動していたこともあって、あくまで「たぶん」としか言えない。
そして11階に広がるのは、特徴的な内装の大部屋だった。
「……神殿?」
誰かがつぶやいた。
まさに神殿だ。眼前の光景を、ほかに形容する言葉が見つからない。
しかし奇妙なのは、そこに安置された神像だ。
「ここが神殿っつーなら、あれが神かよ?」
神殿というのは、教会とは造りが違う。教会だと御神体が壁際にあって部屋の大部分は信者が祈るためのスペースになっているが、神殿では大部屋の中央に神像がある。
そしてこの神殿の中央にあるのは、巨大な砲身と、その左右に並ぶ球体。弾倉なのだろう。その姿は、まるで――
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか。完成度高けーなオイ」
「ゲラゲラ! でっけーチ〇コ!」
「ぷぷぷ……スリモドキさん、やめてください」
「ぐふっ……も、もうそれにしか見えねぇべ」
俺達4人は思わず笑った。
だが狂信者だけは神妙な顔だ。
「『産めよ増やせよ』。
滅亡した古代文明の生き残りである古代エルフ王国の国教は、人類復興を掲げている関係で、まさに性器を御神体としている。
それが、なぜここに……それに、本来は男女2つで1組になっているはずだが」
「お前ら、落ち着け。
狂信者も、考察はあとにしろ。
……来るぞ」
ウイーン。
モーター音が響いて、御神体が動き出した。
まるきり固定砲台の動きだ。
ドドドドド!
砲撃が始まった。
照れ屋が俺と狂信者からの強化魔法を受けて、正面に立つ。
俺たちはその陰に隠れた。
神殿風の内装は、遮蔽物のない大部屋だ。大口径の機関砲と戦うには適さない。
「わはははは! ハデな射精だな!」
「スリモドキさん! こんなときに……ぶふっ」
「もうそれにしか見えねぇべ……ち、力が抜けてしまうべよ……」
手が出せずに笑うしかないスリモドキ。
ほっぺちゃんは笑いそうになるのを我慢しながら魔法の詠唱に入る。
軽口を叩く照れ屋は、その実急激にダメージを受けていく。
俺は回復魔法に追われた。
「狂信者! お前も回復を……おい、狂信者!?」
「神よ……」
狂信者の様子がおかしい。
フラフラと照れ屋の陰から出ていこうとする。
「おい待て……こんな時にどういう……!」
暴走するにしてもタイミングってもんがあるだろ。冗談じゃない。
「『産めよ増やせよ』。
まさに教義を体現するお姿……ならば、その御神体から放たれる生命の源が、せっかく増えて栄え始めた我らを害するわけがない。
試練なのだ。これは信仰に身を委ねよという啓示。神よ、我が信仰をご照覧あれ」
「バカなことやってねぇで働け。死ぬだけだって」
しかし狂信者は止まらず、そのまま照れ屋の陰から出て、たちまち砲撃に倒れた。
撃たれたら回復する砲弾とかじゃあないんだ。普通にダメージを受ける。そんなことは照れ屋を見れば分かるだろうに。
「ほらみろ、まったく……」
呆れつつ、引きずり戻して蘇生魔法をかけてやる。
たちまち狂信者が復活した。
「バカは死ななきゃ治らないとは言うけど、死んだら治るのかね?」
「素晴らしい! やはり我が神! そのお力添えなしにはこの試練を乗り越えることは不可能だったでしょう! しかしこの信仰厚き我が身に与えられし啓示は、しっかりと受け取りました! 『産めよ増やせよ』! すなわち邪魔な在来種は駆逐せよと! そう! まさに復讐は許されたのです!」
「ダメだコイツ……」
呆れていると、狂信者が弓矢を取り出した。
そしてしっかりと引き絞る。
「さあ! 我が信仰の前に朽ち果てるがよい! 古き神よ、さらば! 我が神は今ここに我を導きたもうた!」
放たれた矢は、御神体の砲口へ吸い込まれた。
そして――
ズガアン!
装填された砲弾が爆発し、御神体はバラバラになって吹き飛んだ。
矢が詰め物として機能したのだ。弾頭と砲身内壁の隙間へ、楔のように打ち込んだということだろう。
「……やりやがったよ。
褒めりゃいいんだか叱りゃいいんだか、分かりゃしねぇ」
こうして俺は、再び狂信者に深いため息をついた。
まったく扱いに困るやつだ。




