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第30話 かくて勇者は先へ進む

「畜生め! またかよ!」


 8たぶん

 小部屋だらけの転移罠地獄を抜けた先には、シンプルな通路が続いていた。分岐もなく、ひたすら一本道なのだが……やたら曲がりくねっていた。

 右へ左へ、のみならず上へ下へ。


「この下へ行く階段は、精神的にしんどいですね」


 いらつくスリモドキ。

 疲れた様子のほっぺちゃん。

 照れ屋はしょっちゅう飛んでくる銃弾に耐えながら進んでいるので、まだ緊張感を保っていてるが、それでも疲れは見え始めている。

 淡々としているのは狂信者と俺だけだ。


「……お前ら、なんで平気なんだよ?」


 スリモドキが俺と狂信者を訝しそうに見る。


「我が神のお導きに従うのみです」


 狂信者はうっとりと俺を見る。

 正直その目はやめてほしいが。

 こうなると、答えるのは俺だけだ。


「方角が分からなくるなんて、戦場では珍しくないからな。それに塹壕や山岳とかで上下に動くことも多いし」


 その上どこから攻撃が飛んでくるか分からない。思いがけず攻撃されたときに慌てて塹壕へ飛び込んだことは、1度や2度ではない。転がり落ちるようにして塹壕の底へ逃げたあと、起き上がろうとして踏ん張ったのが地面ではなく壁だった、なんて事もある。


「勇者め……」


 スリモドキがげんなりして吐き捨てる。

 そう言われたら文句も言えない、という顔だ。


「とにかく進むしかねぇだよ」


「そうですね……あら?」


 照れ屋が先行して。

 スリモドキがその後に続き。

 ほっぺちゃん、狂信者、そして最後が俺。

 戦士、スカウト、魔術師、僧侶の順で、基本的に前からの敵と戦う配置だが、最後尾に俺を配置することで後ろからの攻撃にも対処でき、前からの敵にも手を出せる。

 そのちょうど真ん中にいるほっぺちゃんが、何かに気付いて足を止めた。


「どうした? ほっぺちゃん」


「この傷、さっきも見たような……」


 ほっぺちゃんは、壁の傷を撫でた。

 そこには、ほんの小さな傷があった。


「気のせいじゃあねーか? そんなの珍しくもないし」


 スリモドキが言う。

 たしかに、特別な傷ではない。


「……そうですね」


 ほっぺちゃんも納得しかけた。

 だが、違和感は時に生命線となる。

 それは見逃してはいけないものだ。


「ほっぺちゃん。なぜその傷が『さっきも見た』と?」


「父親の頬にある傷と、形が似てるなぁ、と……それだけなんです」


 それはまさに見逃してはいけないものだった。


「敵だ。周囲を警戒しろ」


 俺の言葉に全員が緊張する。

 だが周囲に敵影は見えない。


「どういうことだ? 一文無し」


 警戒は解かずにスリモドキが尋ねた。


「父親の顔の傷だぞ。見慣れたものは間違えない。1年近くも一緒にいれば双子の顔だって見分けられるようにな。つまり、ほっぺちゃんが『さっきも見た』と言ったのは、気のせいじゃあねーってことだ。なら、何が起きた? 俺達は一本道を進んでいるつもりが、いつの間にか元の場所に戻ってきたって事だぜ」


 通路そのものがループするように変化した可能性もあるが、地形の変更にはそれなりの振動を伴うはずだ。

 その振動がなかったのだから、もう1つの可能性――迷わされている、というのが現実的だ。


「むっ!?」


 にわかに濃霧が立ち込めてきた。

 バレたと知って、本格的に仕掛けてきたか。


「はぐれるなよ。定期的に声を出せ」


 濃霧はすぐに俺たちを包み、のばした手の指も見えないほどになった。

 そのままお互いの声を頼りに進んでいくと、濃霧が少し薄れ、5mほど先まで見えるようになった。


「む? おい、みんなどこだ?」


 気付いたときには、周囲に仲間が居なかった。

 そして霧の中から、懐かしい顔が現れた。


「親父……お袋……」


 ずっと会いたかった顔だ。

 そのために俺は、この天空の塔へ来たのだから。

 だが、明らかに罠。両親がこっちの世界に来るわけもなく、ましてや10年前からまったく姿が変わらないなんて、あるはずがない。


「……懐かしい顔を、ありがとよ。

 だが、てめーは許さん」


 だって、この手の攻撃は、つまり、そこに居るってことだろう? この幻に紛れて攻撃するつもりだろう? だから俺は――


「こうするしかないじゃあねーか」


 両親もろとも一刀両断。

 敵の姿が見えないので、よけいに両親を狙うしかない。そのあたりに居るはずだ、と見込んで。

 しかし幻だと分かっていても、割り切れないものがある。


「てめーの敗因はたった1つだ。たった1つのシンプルな答えだぜ。……てめーは俺を怒らせた」


 振り上げた剣を、なかなか振り下ろすことができず、俺はしばらくためらっていた。

 だがそこへ、強烈な魔法攻撃が飛んできて、幻はあっさり消えてしまった。


「……ほっぺちゃん」


 振り向くと、泣きながら杖を構えたほっぺちゃんの姿があった。


「私を庇って死んだ父さんの姿で襲ってくるなんてッ……!」


 残骸と化し、すでに原形が分からない何かの死体に、ほっぺちゃんは何度も杖を突き立てた。


「……お前ら、起きろ」


 寝ている3人を叩き起こす。

 スリモドキはだらしなく笑って寝ていた。大金でも手に入れた夢を見ているのだろう。

 狂信者は、なんか怖い感じになっていた。我が神、我が神、と寝言を繰り返しながら、エヘヘと笑っている。閉じた目からも狂気を感じるって……。

 照れ屋は……平常運転だな。くねくねしている。


「……うーん……俺のお金……」


「うへへへ、我が神……あら……?」


「オラが、そんな……うん?」


「よう。いい夢見れたかよ」


 ほっぺちゃんも落ち着き、俺達は再び先へ進むことにした。

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