第27話 かくて勇者はため息をついた
「ふざけるな!」
エルフの里。
古代エルフ王国の生き残りだという神官を誘いに来たのだが。
彼女は俺を見るなり激怒した。
それでも一応話は聞いてくれたが、聞いた直後にますます怒ってしまった。
「『故郷を奪った人間が、どの面さげて協力を求めるのか』……だろ?」
自分で言っておいてアレだが、心当たりがありすぎて、怒りが再燃してきた。
魔力が荒ぶり、燃えるように俺の体から吹き出した。周囲の森から鳥や獣が一斉に逃げ出す音がした。
「むっ……!? そ、そうだ。その通りだ。死にゆく同胞たちの痛みと苦しみに満ちた悲鳴、怨嗟の声……今も耳にこびりついている。
それを分かった上で今の話か? バカにしているのなら、ただではおかんぞ」
気圧されたか、図星を突かれたせいか、エルフの神官が少しトーンダウンする。
俺は深呼吸して、怒りを抑え込んだ。
しかしくすぶるように怒りが残る。
「とんでもない。
俺も故郷を奪われ、奪った人間に協力を強いられた。
俺達は、同じ被害者だ」
「コイツは異世界から召喚された勇者だ。
突如この世界に拉致され、戻る方法もなく、魔王を倒すことを強いられた。
コイツの故郷はまだ存在する。だが、帰れないということは奪われたのと同じだろう? コイツはもう二度と、家族にも友人にも会えないのだから」
イグニスがいいタイミングで援護してくれる。
だが可能性はゼロではない。
「天空の塔は、俺が元いた世界にあった建造物とそっくりだ。
もしかしたら、世界を渡ってきたのかもしれない。だとするなら、塔を調べることで帰る方法が分かるかもしれない。俺はそのために天空の塔へ挑む」
「そうか……すまない。
しかし、あえて言うが……そう都合よく行くと本気で思っているのか?」
厳しいな。
だが優しい言葉だ。
天空の塔は「かもしれない」で挑むには危険すぎる。
「いいや、可能性は低いだろう。
しかし、わずかでも可能性があるなら、何もせずに諦めることはできない」
「お前とて同じだろう?
エルフの里に居候しているのは、古代王国を諦めきれぬからではないのか?」
イグニスの援護が的確すぎる。こいつも彼女を心配しているのだろう。
エルフの里は田舎村ほどの規模だ。ほぼ全員がお互いに顔見知りである。そんな中へ移り住む――しかも移住者として馴染もうというのではなく、あくまで居候だと言い張って線を引く。疎外感で針のむしろだろう。
里のはずれに、わざわざ他から距離をとって居を構える姿は、まるで自分自身を幽閉しているようだ。
「わかった。お前の挑戦に手を貸そう。確かに私達は、同じ被害者。手を取り合うのは自然の理だ」
「ありがとう。よろしく頼む」
俺達は握手した。
こうして4人目の仲間を手に入れた。
これで天空の塔へ挑める。
「ところで、数ヶ月前に王都が消し飛んだと聞くが。
お前がやったのか?」
「ああ、つい怒りに任せてうっかりやってしまったな。
あんたが復讐する場合には、もっとじっくり楽しむことをおすすめするぜ」
「素晴らしい……」
「は?」
「お前こそ、まさに勇者だ」
「え?」
「祖国を奪われた報復を、王都ひとつで収めるとは。
そのまま泥沼の覇権争いを始めて滅ぶか、手を取り合って再興するか……結果はどちらでもないものだったが、お前はなすべき報復を果たし、しかも必要最小限の犠牲で怨敵に自業自得というものを突きつけた。
私怨に染まらず正義の天秤にかける……神憑り的な報復だ。まさに勇者。誰にも真似できないことだ」
「は、はぁ……?」
そんなつもりでやった事じゃあないんだが。
ていうか、なんかうっとりしてないか?
こ、こいつ、ちょっとヤベー奴なのでは……?
「あー……スイッチが入ってしまったな。こうなったら止まらんぞ、コイツは」
イグニスが諦めたように言った。
おい、まさか……。
「復讐の神なんてのが居るとしたら、まさにあなたがそうだ。他には考えられない。そうか、あなたは復讐の神の化身なのか。ああ、我が神よ。ここにいらっしゃったのですね。どうか私をお導きください。間違ってあなたに向けてしまった矛先を、どうか正しくお導きください。我が怒り、我が恨み、あなたに捧げます。あなたの聖戦に参加できることを誇りに思います」
うわぁ……面倒くせぇ……。
「狂信者かぁ……」
辟易するが、イグニスの紹介なのだから能力的には問題ないはずだ。
仕方ない。このまま連れ帰ろう。
こうして俺は深い溜息をついた。
「一文無しどん」
「なんだよ、照れ屋」
「今回オラのセリフねぇだか」
「ねぇだよ。お前はドラゴンみたいにどっしり構えとけ」
「アラヤダ照れちゃうだヨ、コノヤロー♪」
くねくね。
ビタンビタン。
「……イグニスはよく喋るけど」(ぼそっ)
「そのおかげで、うまく行っただろう?」
「行き過ぎたけどな」
「それは我のせいではない」
「俺のせいでもねーよ」




