第25話 かくて勇者は期待する
「ご苦労だったな。では、これを持っていけ」
「まいど」
イグニスに酒を届け、代わりに鱗を貰った。
毎月1回のお仕事だ。
ちなみにスリモドキとほっぺちゃんはパスした。ドラゴンには怖くて近寄れないそうだ。気さくでいい奴なのにな。
「ついでに飲んでいくだろう?」
「もちろん」
盃を渡され、酒を注いでもらい。
こちらも注ぎ返して、乾杯する。
「それで、この1ヶ月は何をしていたのだ?」
「魔王城へ、ちょっと訓練に」
「正気か? あんな魔窟に、人の身で……」
人間にドン引きするドラゴン。
とんだお宝映像だ。
「そういえばイグニスは、どうしてここに?
魔王城の周辺にいるドラゴンより強いと思うんだが」
「群のボスになるというのは面倒が増えて好かん。
王国を支配する話も、代理を立てれば良いと言うから引き受けたのだ。
我はこうしてのんびり酒を飲み、気に入った相手と他愛もない話をしている時間のほうが好きだ」
「なるほど」
出世競争に明け暮れる企業戦士よりも、田舎でのんびりスローライフが好きと。
それもひとつの理想だろう。人生は色々だ。
「また近いうちに魔王城へ行くつもりか?」
1人で納得していると、イグニスが尋ねた。
イエスかノーかで言えば、大正解だが。
「なぜそう思う?」
「我の話に、納得しつつも同意はしておらんからな。
そういう人生もあるだろう。だが自分は別の道を行く。そういう態度だ」
「わーお……図星だぜ。
たしかに、また行こうと思ってるよ。ただ、新しい仲間を見つけてからだな」
「仲間?」
イグニスが首を傾げた。
自動車ほどもある大きな頭が傾くのは、まるで横転事故だ。
「天空の塔に挑もうと思って」
「ああ、あの……え? 人間があれに挑むのか?」
人間の話に戸惑うドラゴン。
とんだお宝映像だ。
「そのための魔王城だ」
「世界を救った勇者が、今やラストダンジョンを訓練場扱いか」
イグニスは笑った。
確かに、クリア後のやりこみ要素としては、ずいぶんインフレした話だ。ディ〇〇イアでもあるまいに。
「それで、どんな仲間を探している?」
興味深そうにイグニスが尋ねた。
協力してくれるんだろうか?
「スカウトと魔術師は見つけたから、あとは戦士と僧侶だな」
ドラゴンが仲間になるなら、戦士としては強力だ。パワーもタフネスもある。
それにドラゴンブレスは魔法攻撃だから、天然の魔法戦士でもある。人間では両立できない二足のわらじを、生まれた瞬間から地で行く生き物だ。強い。
しかも空を飛べるおまけつき。空中戦もこなせる上に、人間を何人か乗せて飛ぶぐらい簡単だろうから移動時にも役立つ。
「ふむ。ならば知り合いを紹介してやろう。
協力してくれるかどうか分からぬが、頼んでみてはどうだ? あるいは、さらに別の知り合いを辿れるやもしれん」
「それはありがたい」
答えながら、ちょっぴりがっかりした。
ドラゴンが仲間になるルートは無しか。
まあ、あったらチートだし、無いほうが面白いだろう。
「うむ。
では、2人紹介しよう。
1人は我らドラゴンを祖とあがめる竜人族の戦士。こちらは我から言えば是非もなく引き受けるだろう。
もう1人は、滅亡した古代エルフ王国の生き残りで、王の血を引く神官だ。こちらは少し難しいかもしれぬ。なにしろ古代エルフ王国を滅ぼしたのが人間だ」
「ありがたいが……ずいぶん都合よくちょうどいい話があったものだな」
俺は思わず眉をひそめた。
どんな確率だ。冒険者ギルドだって「見つからないと思いますよ」とさじを投げながら手続きだけしてくれたというのに。
「訝るのも無理はない。それは人間の寿命が短いからだ。
しかし我らドラゴンや竜人、エルフなどは、人間からすると無限にも思える長寿の種族ゆえ、年を経た者ほど知り合いが多いのは自明の理だ。増えれば増えるほど、その中にたまたま都合のいい者が居る確率も高くなる。
我とて、昔からこんな引きこもりではなかったからな。調子に乗って竜人族の守護神として振る舞ったり、ボス争いに敗れて傷つき逃げ出したところを救われたりしたものだ」
「なるほど……」
今回の2人がそれ、という事か。
途方もない話だが、納得するしかない。
ほんの500年前まで遡れば室町時代の末期になる。戦国武将たちが生まれた頃から現代までを、生きて実体験で網羅できると考えれば、たまたま聞いた話にたまたま都合のいい知り合いがいても、不思議はない。
ましてやドラゴンの寿命は万年単位なのだから。
「おい。我をとんでもないジジイだと思ったか?」
イグニスがジト目で俺を見てくる。
ドラゴンでもこんな所は人間と同じか。老人扱いを嫌う。人間でも同じだ。
俺が思うに、誰にでも使えて、なおかつ相手が嫌がらない二人称は3種類しかない。男なら、40代までは「お兄さん」、50代以上には「お父さん」。女なら、年齢に関わらず「お姉さん」だ。これらの二人称には「あなたは若々しくて頼れる人だ」というニュアンスがある。
イグニスのことも「お父さん」とか呼んだほうがいいのだろうか。
「いやぁ……もうジジイとかいう概念を超越してるだろ。
人間だったら死んで骨も残らず土に還ってるんだから、全然ピンと来ねーよ。
どっちかっつーと、何百年も前の歴史的遺産を見るような気分だぜ」
その歴史の中身は全然知らんけど、なんだか妙に感慨深い。
なんか知らんけど有名らしいから見に行こうぜ、ぐらいの軽いノリで来た観光客のような気分だ。
なんだかようやく、人並みの感覚で「ドラゴンに出会った」気分だ。
「……まあよい。
明日にでも送ってやるゆえ、今日はもう少し付き合え。泊まっていってもいいぞ」
「そうかね。では、そうしようかな。
どうせ引き止められるだろうと思って、ツマミを用意してきたんだ」
「ほほう。これは気が利く。
だが、引き止めるまで出さぬとは、どういう了見だ。そういうものは、さっさと出さぬか」
「いやぁ……人間サイズじゃあ味も分からんほど少量になってしまうかな、と」
「むう……それはそうかも……まあ、食ってみなければ分からんな」
笑い合いながら酒を飲み交わす。
こうして明日の出会いに期待しながら、俺達の夜は更けていった。




