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第24話 かくて勇者は見学する

 スリモドキを鍛え、新しい仲間ほっぺちゃんを迎えた。

 ほっぺちゃんは全魔力を放出する攻撃魔法でドラゴン以上の攻撃力を発揮するようだ。1発でガス欠になる欠点はあるが、鍛える必要がないぐらい強い。


「……となると、あとは僧侶か。できれば戦士もほしいが。

 今度こそ冒険者ギルドに募集かけてもらおうかな」


 俺は戦士が一番得意だから……と考えながら、天空の塔を攻略するのに必要な戦力を数えてみる。

 冒険者のパーティーは、戦士・魔術師・僧侶・スカウトの4人1組が基本構成だ。この編成は汎用性が高く、盾役・攻撃役・回復役・探知役というのが基本で、状況次第で役割を変えられる。そして俺達の場合は、スリモドキがスカウトで、ほっぺちゃんが魔術師だ。


「お前が何をやるか次第だぜ、一文無し。

 お前が戦士なら僧侶が欲しいが、お前が僧侶なら戦士がほしいからな」


「スリモドキさん。一文無しさんは、両方できるんですか?」


 どっちでもいいぜ、と言うスリモドキに、ほっぺちゃんが首を傾げて尋ねた。

 魔法剣士みたいな極端に違う分野を両立させようとする冒険者は少ない。人は努力できる時間が有限なのだから、器用貧乏になる。

 現実には、一方がメインで、もう一方がサブというのが多く、本当に両立している人は稀だ。戦士と僧侶の両立も然り――この2つは聖騎士と呼ばれ、両立を目指す人がそれなりにいる。主に教会や王侯貴族の戦力として。


「両方っつーか……全部できるぜ、コイツは。

 戦士もできる、魔術師もできる、僧侶もできる、スカウトもできる。万能だよ」


 スリモドキは呆れたように言ったが。

 俺は首を横に振った。


「全部できても、全部『同時に』できるわけじゃないから、仲間は居たほうがいいけどな」


 魔法は多種多様だ。強化魔法だけでも10種類を超える。

 だが呪文を唱える口は1つしかない。

 10個も20個も呪文を唱えている間に、10回も20回も攻撃されてしまう。

 魔法に限らず、体は1つしかないので同時にできることは限られる。


「それで『できれば戦士もほしい』というわけですね。

 誰がどうなっても一文無しさんがカバーできるし、全員が無事なら臨機応変に必要な部分を手厚くできるから」


「ほっぺちゃん」


「はい」


「大正解」


 強化魔法だって2人で分担すれば、時間は半分で済む。

 盾役だって2人で交互にやれば、受けるダメージは半分で済む。

 攻撃だって回復だって探知だって、分担できるなら分担したほうがいいに決まっている。



 ◇



 というわけで、冒険者ギルドへ。

 僧侶と戦士を募集する手続きを済ませて、その間に――


「連携の確認は、応募があってからでいいか」


「そうだな。じゃあ、しばらく自由行動にするか」


「え? でも、このレベルの募集だと、そう簡単に応募はないと思いますよ?」


 ほっぺちゃんが言うことは、もっともだ。

 ドラゴンと戦える実力者を募集なんて、めったなことでは応募がないだろう。

 しかし、だ。

 俺とスリモドキは、力強くほっぺちゃんを見た。


「「お金がない」」


「それなら余計に、まとまって行動したほうが……何のためのパーティーですか」


 呆れるほっぺちゃんに、俺達は深く頷いた。

 全くその通りだからだ。

 しかし、見つけてしまったのだ。


「こいつを、どうしても受けたい」


「俺はこっちだ」


 俺とスリモドキは、別々の依頼書に手を伸ばした。

 スリモドキが何を選んだか知らないが。

 俺が選んだのは、魔法省からの依頼だ。魔法の開発補助である。

 国家レベルの施策として研究している連中が、どんな手順で魔法を開発するのか。非常に興味がある。

 俺の場合、思いつくままに手当たり次第やっているから、網羅的でもないし体系的でもない。魔法省はそのあたりを、どうしているのだろうか?


「あ。じゃあ、私も一文無しさんのを一緒に受けたいです」


 ほっぺちゃんも魔術師だ。

 魔法省の仕事には興味があるのだろう。


「じゃあ一緒に受けようか」



 ◇



 イグニスが王国を支配したことで、貴族同士の覇権争いは起きる前に終わった。

 そして君主を失って(つまり給料が出なくなるので)空中分解するところだった王国の省庁も、イグニスを君主として再び結束した。

 魔法省もその1つだ。


「今回は、封印魔法の開発を手伝っていただきたい。

 封印魔法を適切に使えば、魔道具の回路が混線する可能性を減らし、より細かい回路を作れるようになるでしょう」


「なるほど。

 ちなみに、この開発はどこから着想を?」


「全体的に、ですね。

 1つ開発すれば、それをあらゆる角度から検証し、問題点を洗い出すようにしています。そのために、開発チームと検証チームは人を分けています。先入観がないように、ですね。

 今回あなた達に手伝っていただくのも、まさにこの部分です。外部の人のほうが先入観なく検証できるので。大問題になる欠点を発見していただけると助かります」


「なるほど」


「よく考えられてますねぇ」


 感心するほっぺちゃん。

 満足そうに頷く職員。


「そして同時並行でいくつも開発していますから、複数の開発から同じ問題点が見つかることも多いのです。ここで頻度というものが可視化されます。

 すべての問題点は、この2つの軸で判断されます。頻発するか? 大問題になるか?

 優先度は、頻発する大問題が1位、頻発しない大問題が2位、頻発する小問題が3位――これはしょっちゅう修理が必要になるけれども、壊れたまま使っても一応使えるというようなものですね。コストに直結するので、売り出しても人気がありません――そして頻発しない小問題が4位です」


「勉強になるなぁ。引き受けてよかった」


 開発は俺がやっても、検証は仲間に頼むというのが良さそうだ。

 大いに参考にさせてもらおう。

 こうして俺達は、魔法省を社会見学することになった。

 そして今回の仕事が、天空の塔を攻略するための重要なヒントになることを、俺はまだ気づいていなかった。

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