第21話 かくて勇者は魔王城に入った
「オラァ!」
スリモドキが、ついにドラゴンを倒した。
「蘇生……おっと? 効果がないぞ。今回は死ななかったか」
どうせ今回も死ぬだろう、と蘇生魔法を飛ばしてみれば、ついに死なずにドラゴンを倒したではないか。
「小さな一歩みたいに言いやがって……」
「そりゃあそうだ。たかが1匹倒しただけじゃあ、この魔王城で生き延びるのは無理だからな」
「チッ……てめーはいいよな。まさかドラゴン相手に無双するほど強いとは。さすが勇者は伊達じゃねーってことか」
「はっはっはっ。もちろんだとも」
◇
一文無しの口車に乗せられて魔王城の近くへ来たのはいいが、ここは俺の想像以上にやべー場所だった。ゴブリンの代わりとでも言わんばかりに大量のドラゴンが出てくる。俺は何度も死んだ。そのたびに一文無しが蘇生させてくる。
訓練開始から何日たったのか分からないほどの濃密な時間だった。いっそ死んだままにしておいてくれと思った。
だが、そのうちに少しずつ生き延びられる時間が増えた。そして今日、ついにドラゴンを倒した。何日たっていようと、たかが「何日か」程度でドラゴンを倒せるようになったのだから、この無茶な訓練は相応の効果があったということだ。
こんな地獄の特訓をやらせやがって……俺は一文無しを恨んだらいいのか、感謝したらいいのか、訳がわからねえ。
「たかが1匹倒しただけじゃあ、この魔王城で生き延びるのは無理だからな」
一文無しが言う。
バカにして言うのではない。淡々と事実を言う。それが逆につらい。やっと俺が1体のドラゴンを倒したのに。こんなの冒険者ギルドに報告したら表彰ものだ。
だが、その間に一文無しの奴は、周りのドラゴンをみんな倒していた。ここでは、ドラゴンぐらい倒せて当然なのだと、見せつけられた。
息絶えたドラゴンの頭の、その向こうから顔だけ見えていた一文無しが、こっちへ近づいてくる。
「な……!? お前……」
「どれ……怪我を治してやろう。ははは。手酷くやられたな、スリモドキ」
「て……てめーの方が、よっぽど重傷じゃあねーか!」
両脚と片腕がなくなり、顔や胴体も半分焼けただれて、一部が炭化している。
浮遊魔法で浮いて、歩いたように見せかけていただけだ。
「なぁに、かすり傷だ。俺はまだ死んでねぇ」
激痛のはずなのに、ケロッとしたまま俺に回復魔法をかけてきやがる。
なんだ、コイツは? 何なんだ? 俺が死んでる間に、毎回こんな事になってやがったのか?
「どれ、こんなもんか? 痛いところはないか? 違和感は?」
回復魔法をかけ終わった一文無しが、なおも俺を気遣う。
バカなのか、こいつは?
「てめーの方がよっぽど痛ぇだろーが!? 早く治せよ!」
「後でな。
で? 体は? 大丈夫なのか? 回復魔法はあとから古傷を治すのが難しいからな。今のうちだぞ」
妙に実感がこもった言い方だ。
そりゃあ、こんな大怪我してもケロッとしてやがるんだから、古傷の1つや2つあるだろうな。
「大丈夫だよ! さっさとてめーの傷を治せや! 見てるこっちが痛ぇよ!」
「はっはっはっ。やられたこっちは、もっと痛ぇよ」
「だろうな!? 畜生め! 納得しかねーわ!」
「しばらく周りの警戒たのむぞ」
言うなり一文無しがぶっ倒れた。
そして回復魔法に集中している。
他の魔法が使えないほど集中しないと治せないということか? でも蘇生魔法は片手間に使ってなかったか? それほどの重傷……ということか。
◇
治りが悪い。
仕方がない事だ。古傷を治すのは厄介だと、俺が言ったばかりである。そしてそれは事実なのだ。
俺はかつて、ここへ攻め込んだ。まともに回復する暇もない激戦で、動けばよし、と雑に治して無理矢理に進んだ。
だが、その後遺症で、俺は老人のように体が不自由になった。俺の体は、まるで錆びついたロボットのようだ。
治す方法は、分かっていた。もう一回同じところを怪我して、新しい傷として治せばいい。だが自傷行為はためらわれた。どんなに痛いか、すでに体験して知っているのだから。
そして今、この大怪我だ。チャンスである。まさにビッグチャンスだ。周囲の警戒を任せる仲間もいる。僥倖である。
「……周りは大丈夫か?」
「大丈夫だ。心配すんな」
細かい作業なので、集中しなければならない。
周囲を警戒する余裕がない。
だがドラゴンを倒せるようになったスリモドキなら、周囲の警戒を任せても大丈夫だろう。
骨から始めて、神経、血管、筋肉、皮膚の順に再生していく。だが、実際にはもっと細かく、細胞単位で調整しながらの作業となる。
回復にかかる時間は、1時間を超えた。
「……よし、こんなもんか」
治療を終えて、体を動かしてみる。
素晴らしい。
実にスムーズだ。
まるで錆びついた機械をピカピカに磨いて油をさしたように、実になめらかに動く。
体が軽い。若返ったような気分だ。
「やれやれ、やっと治ったぜ」
軽く腕を振る。
手刀から斬撃が飛んで、魔王城の門が切り落とされた。
「よし、絶好調。
じゃあ行くか。いよいよ魔王城に突入だ」
「……一文無しがますますやべー奴になっちまった」
「ほら、行くぞ」
動かないスリモドキを、掴んで引っ張っていく。
「分かった分かった。引っ張るな。腕がもげちまう。マジで」
「おや? やけに素直だな。変な物でも食ったか?」
「うっせーわ……」
なんだ? スリモドキがなんか疲れたような反応だ。
「疲れたのか? 蘇生してやろうか?」
「蘇生したら疲れも取れるのか? じゃねーよ。一回死ぬ前提の解決法やめろ。ドン引きだわ」
にじりよる俺と。
後ずさるスリモドキ。
だが、ふと逃げるのをやめたスリモドキが、俺を怪訝そうに見た。
「つーか、てめーよ……」
「うん?」
「それ、やめろよ。さっきから、その、妙に優しげなやつ」
「なんで?」
「気持ち悪ぃんだよ! てめーは俺のオカンか」
「むむっ!? マジか……そうか。あれは気持ち悪いな。よし、やめよう」
お前は俺のオカンか。
かつて俺からスリモドキに言ったことがある。
うん。たしかにアレは気持ち悪かったな。反省だ。今度からは自分の傷を先に治そう。
「まあ、とにかく行くか」
「おう」
こうして俺たちは、魔王城に入っていった。




