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第20話 かくて勇者は蘇生魔法をかけた

「嘘だろ……おい……」


 スリモドキは絶望した。

 魔王城が見えてきたところだ。

 しかし同時に、ドラゴンが多数跋扈しているのも見えてきた。

 わかりやすく言えば、それは台風がダース単位で同時上陸したようなものだ。


「さあ行くぞ」


「一文無し……てめー、こんな光景でも平常運転かよ」


 もらい事故の被害者みたいな顔をするスリモドキ。

 俺を加害者みたいに見てくる。

 このビビリめ。威勢がいいのは口だけか。

 死ぬかもしれない場所へ行くのに、慎重になるのは良いことだ。恐れ知らずは早く死ぬ。だがビビって動けないのでは話にならない。怖いと感じながらも慣れて効率的に動けるようになることが大切だ。車の運転と同じである。

 まあ、それで言うと、初めての土地ではベテランドライバーでも緊張するものだ。その点俺は――


「2度目だからな」


「そうだった……コイツ勇者だった……」


 スリモドキが、がっくりとうなだれだ。


「グズグズしてる時間はない――おっと、さっそく時間切れだ」


「「ギエエエ!」」


 ドラゴンどもが俺たちを見つけて襲ってきた。

 さて、それじゃあ、いっちょやるか。



 ◇



「――はっ!?」


 意識を取り戻したスリモドキが、慌てて周囲を確認した。

 自分の短剣を握りしめて、ホラーハウスにビビりまくる客のように周囲をキョロキョロと凝視する。その姿は、完全に新兵のそれだ。

 目つきが完全に「1000ヤードの凝視」になっている。自分が生きていることに現実感がない顔だ。


「おいおい……Bランクのスカウトがなんてザマだ」


「一文無し、ドラゴンは?」


 周囲を警戒しながら、声を潜めて言う。

 まだ近くにドラゴンがいると思っているわけだ。

 怖いんだよな、アレ。自分では安全かどうか分からないから。


「倒したよ」


 そうでなければ、スリモドキを蘇生させてもすぐ殺されるだけだ。リスキルみたいになってしまう。

 こうしてのんびり話す時間も取れない。


「倒した? じゃあ死体は? どこにもねーじゃねーか」


「食ったからな。美味いんだ、コレが。

 ちなみにほとんど魔力でできていて、物理的な肉じゃないから、まるごと食ってもほとんど腹が膨れないんだぜ。知ってたか?」


 サイズはクジラみたいに大きいのに、食べ切れてしまう。ほぼ魔力の塊なので、食べたら即座に吸収される。超強力なMPポーションだ。


「知らねーよ……知るわけねーだろ」


 覇気がないスリモドキ。

 しかし、やっと安全だと理解したらしく、深いため息をついて短剣を鞘に納めた。


「何が起きたんだ?

 俺はドラゴンの群に襲われて……死んだと思ったが……?」


 スリモドキは、自分の体を確認し始めた。

 ボロ雑巾みたいになった装備から、まったく無傷の体が覗いている。それは自分が死んだ痕跡だ。なぜか何も起きていない体という矛盾が、むしろ死んだという認識を強くする。


「ああ、死んだな。

 けど死にたてホヤホヤだから、蘇生魔法をかけたら治ったぞ」


 蘇生魔法を覚えたのは、魔王軍四天王の最後の1人を倒したときだった。

 人質を取られたので、見捨てる覚悟で倒したら蘇生魔法を覚えて、その場はハッビーエンド的に収まった。


「そんなお前、買ったばっかで未使用だから返品できるぞ、みたいに軽いノリで言いやがって……死んで復活なんて、そんな簡単じゃねーだろ」


「簡単だよ。俺を誰だと思ってんだ」


 使う事自体は簡単だ。必要なだけの魔力があればいいし、俺には魔力が有り余っている。しかもドラゴンの死体が大量にあって、魔力の回復もすぐできる状況だった。


「勇者だよ……こいつ勇者だったわ……」


 スリモドキがうなだれる。

 とはいえ、さすがに死んでから時間が経ったものは無理だ。あくまで心肺蘇生法の代わりみたいなものだからな。

 もしかすると本職の僧侶なら出来るかもしれないが。俺は無理だ。蘇生魔法を覚えたあと、すぐに単独で魔王城へ突入したからな。王国軍はリスキル状態になるので、ついてこられなかった。だから蘇生魔法はあまり鍛えてない。


「さあ、動けるようになったなら、もう一回行くぞ」


「鬼かテメエ!?」


「それとも天空の塔あきらめるか?」


「行くよ、畜生め!

 まったく……何かってぇと天空の塔、天空の塔……親バカかよ。天空の塔はてめーの子供かっつーの」


 ブツブツ言いながらスリモドキは再び魔王城に向かって歩き出した。

 そしてあっさり殺された。


「やれやれ、先は長いな」


 気配を読んで動く練習をしてきたのに、すっかり忘れているようだ。

 やはり付け焼き刃。いざとなると熱心に積み重ねてきた、今までの技術に頼ってしまう。だがその付け焼き刃を、これからは熱心に積み重ねていかねばならない。

 もちろん、それはとても難しい事だ。俺も知ってる。呆れちまうのは、俺たちにはそれしか道がないってことだ。歩くしかない。いくらゴールが遠くても。

 こうして俺は、再びスリモドキに蘇生魔法をかけた。

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