表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/33

第19話 かくて勇者は正体がバレた

「今の魔法って、攻撃力を下げて、防御力を上げるわけだろ?」


「そうだな」


 衝撃を分散する魔法。

 相手にかければ攻撃力を下げ、自分にかければ防御力を上げる。


「だったら訓練に使うには最適じゃねーの?」


「ん~……」


 難しい問題だ。

 俺はどう答えたものか迷った。


「なんだよ? 違うのか?」


「答えが一定ではない」


「はぁ?」


「確かにスリモドキの言う通り、訓練に使うには有用な魔法だ。

 ただし、その訓練が『それなりの努力でそれなりの結果を出すため』であれば、だがな」


「どういうことだ?」


「天空の塔を攻略する。これは『それなりの結果』か? 人類の最高到達階層が10階なんだろ? 他のダンジョンなら50階なのに、天空の塔はわずか10階。それほど高難度のダンジョンということだ。それを攻略するのが『それなりの結果』か?」


「……違うな」


「そんな目標を達成するための努力が『それなりの努力』か?」


「違うな」


「そういう目標で、そのための努力をするには、こんな魔法では役に立たない。

 なぜなら、この魔法を使った訓練は『死なないこと』が前提だからだ。

 天空の塔を攻略するなら、死んで当然の戦いを日常的に繰り返さないと足りない」


「たしかにな。そうかもしれない。

 けどよ、途中で死ぬならそれまでだ――とは言えねーだろ」


 どうしろってんだ、と言わんばかりのスリモドキに。

 俺は深々とため息をついた。


「そういう所だ。お前は」


「なんだよ?」


「途中で死んだなら、必ずやアンデッドになって続きを成し遂げる。

 そのぐらいの気概がなけりゃ……あの塔を攻略など、とてもとても……」


「アンデッドになるかどうかなんて、時の運じゃねーか」


「その運を根性で引き寄せ掴み取る気概が必要だ。

 魔王軍四天王の1人が初めて人類の前に姿を見せたとき、接敵した王国軍の大部隊は壊滅して、その中の小部隊がひとつ、魔王軍に捕まった。奴らが捕虜をオモチャとして見ていることに気づいた部隊長は、奴らにひとつの提案をした」


「提案?」


「部下を1列に並べて、その端で私の首を切り落とせ。

 首が落ちた後、私は必ずや部下の前を駆け抜ける。私が1人の部下の前を通過できたなら1人を、全員の前を通過できたなら全員を、何もせずそのまま解放してほしい」


「バカな。首が落ちたあとで走るなんて」


 ああ……奴らも、そう言って笑ったな。

 だが隊長は――


「走ったよ」


「は?」


「隊長は、自分の首を両手で抱えて、走ってみせた。

 10人並んだ部下の前を駆け抜け、そのままさらに10mほども走ってから、やっと倒れた」


 奴らは隊長の勇姿に度肝を抜かれ、一言も発しなくなっていた。

 奴らだけではない。俺達部下も、隊長の勇姿に言葉を失っていた。

 そして俺達は解放された。

 俺が本当に覚悟を決めたのは、その時からだ。何度死んでも魔王を倒し、必ず日本へ帰るのだと……逃げ出さずに正面突破する覚悟を、あのとき隊長から受け取った。


「…………」


 ごくり。

 スリモドキがつばを飲む音がした。


「てめー、そんな環境を求めて魔王城へ行こうってのか?」


「そうだ。目的は遂げる。自分の身も守る。両方やらなくっちゃあならないってのが、冒険者のつらいところだな」


 いっそ軍隊なら楽なのだ。

 仲間の礎になって死ねば、目的は残った仲間が遂げてくれる。

 だから、目的を遂げるか、身を守るか、どっちか片方だけでいい。

 だが少数精鋭の冒険者では、そういうわけにはいかない。自分の代わりが居ない。自分が抜けた穴を埋めてくれる仲間がいない。1人でも欠ければ、パーティーは機能不全に陥るのだ。


「覚悟はいいか? 俺は出来てる」


「おいおいおい……死ぬ気か? 一文無し、てめー……。

 意味わかんねーよ。なんで仲間を失った俺より、建築様式に興味があるだけのてめーのほうがガンギマリなんだ? どうなってんだ? てめーの、その覚悟はよォ」


 スリモドキは呆れたように言った。

 そして大きく息を吸うと、真剣な目で俺を見た。


「これでてめーが1人で天空の塔を攻略でもしてみろ、畜生め。

 俺はいったい、どんな顔して生きていきゃあいいんだ?」


「無いんじゃあねーの? そんな顔は。

 だから『面目ない』というんだろーぜ」


「だろうな。

 だからよ、やってやるぜ。魔王城だってどこだって、必要なら行ってやる。

 だが説明しろよ。想像がつかねーからな。魔王城へ行って、どうするんだ? 死ぬのが当然の強敵だらけで、ひたすら戦おうってのか? それは『できるようになる』よりも前に、普通に『死ぬ』だろ?」


「そうだな……魔王城へ行く前に、もう1段階、訓練しておくか」


 次の瞬間、意識の中だけで、俺はスリモドキを斬った。


「……ッ……」


 スリモドキが青ざめ、大量の汗をかく。

 冷や汗も脂汗もごちゃまぜだ。

 しまいには関節の固定がおかしくなったように、ガクガク震えだした。


「……な……なんだ……今のは……?

 斬られた……よな? 体の中を通っていく刃の感触まで、リアルに感じたぜ……」


「今のを、当たる前に察知して避けろ。

 魔王城の魔物は、そのぐらいの強さだ」


「……待て……待て待て……。

 え……? ど……どういうことだ?

 まさか……嘘だろ? ……そういう事なのか?

 お前は……お前が、勇者……?」


 スリモドキは戸惑っている。

 今の今まで考えてもいなかったという顔だ。

 まあ、そうだろうな。魔王を倒した偉人。世界を救った勇者。そんなのが、たまたま隣に居たんだから。

 こうして俺は、正体がバレた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ