第18話 かくて勇者は傭兵団を追った
リンゴにペンを突き刺した。
簡単に刺さった。
「おぉーん」
納得した。当然の結果だ。
次に、パイナップルにペンを突き刺した。
こちらは少し苦労した。パイナップルは皮が固いので、ペンの強度では突き刺すのが難しい。とはいえ魔王を倒せるパワーを持つ俺なら、強引に突き刺せる。
「おぉーん」
これも納得だ。当然の結果だ。
スリモドキが不思議そうな顔をして見ていた。
「……何やってんだ、一文無し?」
俺はアップルペンとパイナップルペンを差し出して尋ねた。
「リンゴには簡単に刺さるのに、パイナップルに刺すのはちょっと難しい。なぜだろう?
ましてや、このアップルペンとパイナップルペンをお互いに突き刺してペンパイナップルアップルペンにするのは非常に困難だ。なぜだろう?」
「なぜもクソも……当たり前じゃねーか」
「その当たり前を詳しく説明してみようぜ。
まずパイナップルに刺さりにくいのは、皮が固いからだ。リンゴは柔らかいから簡単に刺さる。そうだろ?」
「そりゃそうだ。当たり前じゃねーか」
「うむ。しかし本当にそうか? 実は『逆』なんじゃあねーのか?」
「逆?」
「固いから刺さらないのではなく、刺さらないから固いと評価されるのだ。ていうのは、どうだ?
たとえば普通より筋力が弱い人は、リンゴに刺すのも苦労するかもしれん。そしたら『固い』と言うだろう?」
「あー……まあ、たしかに。鋼鉄だろうとドラゴンのパワーなら紙くず同然だろうしな。そしたら鋼鉄も『柔らかい』わけだ」
「そういうことだ。
つまり、固いか柔らかいか、刺さるか刺さらないか、これはリンゴかパイナップルかという違いではなく、パワーが足りているかどうかという問題なのだと分かるわけだ」
「ふむ……? それで?」
「次に、リンゴとパイナップルをぶつけても刺さらない。これはなぜか?」
「刺さる形じゃあねーだろ。見るからによ」
「その通り。丸いからな。鋭くない。
ところが同じように『丸いもの』でも、砂粒のように小さい場合は、どうだ?」
俺はリンゴを落とした。
地面に落ちたリンゴを拾うと、砂粒がめり込んでいた。
「この通り。めり込む、つまり刺さるわけだ」
「そうだな」
「鋭いものは、パワーを加えると、そのパワーが集中する。つまり面積あたりにかかるパワーが強くなるわけだ。
そして鋭い必要はない。当たる面積が小さければいい。だから砂粒でも刺さる」
「うむ……だんだん言いたいことがわかってきたぜ」
「さっきパワーが足りるかどうかで、固いか柔らかいかが決まると言ったな。
そして小さいほどパワーが集中する」
「つまり、武器を使うときはパワーが集中するように使うべきで、防具を使うときはパワーが集中しないように使うべきだ、という事だな」
「そうだな。
だから、どんなに強力な攻撃だろーと、十分なパワーが加わらないように、そのパワーを分散させてしまえば、防げるということだ」
「防具の話だな」
「だから、こういう魔法を作ってみた」
リンゴにその魔法を付与して、ナイフを突き立てる。
だがナイフはリンゴに刺さらず、切れなかった。
「ダイラタンシーという流体がある。水に小麦粉を混ぜるだけで作れるが、受けた衝撃を効率的に分散する。
土嚢でも原理は同じようなものだ。土砂の粒が、隣にある複数の粒へ衝撃を分散する。
この原理を、魔法で再現したものだ」
「ふむ。強力な防御魔法だな」
「半分正解」
「もう半分は?」
「これは防御する側に付与するばかりではなく、攻撃する側にも付与できるものだ」
「相手の攻撃力を下げる魔法ってことか」
「その通り。そして防御のためだけに使うものでもない。
スリモドキ。例の村を襲った連中の紋章は、まだ持ってるよな?」
「これだな」
スリモドキは紋章を取り出した。
「うむ。
では、あれを見ろ」
「あれ? どれだ?」
「4kmほど先にいる集団だ。奴らの旗に、同じ紋章がある」
「4kmって……ほぼ地平線じゃねーか。
見えねーよ、そんな遠くまで」
「……そうか。すまん」
「なんだ、今の間は? てめー、ついに俺を索敵で上回ったとか思ってんじゃあねーだろーな?」
「いやいや……視力だけで勝てるほど単純なものじゃあないだろう。……けど、今度スカウトの試験受けてみようかな」
「思ってんじゃねーか! ぶん殴るぞてめー」
「まあまあ……とにかく、奴らを見つけた。そして面白い魔法ができた。重要なのはそこだ」
「奴らの攻撃力を下げてやろうと?
ボコる前の準備ってことか?」
「いや。魔法をかけて、あとは捨て置く」
「次の戦いで死ぬだろう、ということか。
お前にしちゃあ、甘くねーか?」
「村人はさんざんな目にあった。
奴らもさんざんな目にあうべきだろう。
そして、それは半分すでに達成している。イグニスが国王になったせいで、奴らは稼ぐチャンスを失った。覇権争いが終わったからな。
せっかく来たのに、すごすご帰るしかない。しかも帰り道で『行き掛けの駄賃』なんか狙おうものならドラゴンが飛んでくる可能性があると思うわけだ。
これで奴らを経済的にぶん殴ることができた」
「なるほど。
そして次の戦いで剣が切れなくなっていて、一方的に殺される。
まさに踏んだり蹴ったりということか」
「奴らがどう思うかわからんが、少なくとも、自分から突っ込んでいった戦場で死ぬことになるわけだから、少しは『自分がまいた種』ってことを思い知るだろう。
突然なんの関係もない俺にボコられるよりは、いくらか身に染みるはずだ」
「なるほどな。そうかもしれない」
というわけで、俺は傭兵団を追った。
もちろん仕込みはバッチリだ。
結果は、確認するまでもないだろう。




