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第15話 かくて勇者は希望を見つけた

 山を登る。

 ドラゴンのイグニスが居る山を迂回して、町から見ると「斜め後ろ」にある別の山だ。

 そのふもとまで来ると、山頂に棒が立っているのが見えた。


「あれが天空の塔だ」


 スリモドキが言う。

 その表情は複雑だ。仲間の死の悲しみがあり、仇討ちの恨みがあり、攻略の野心があり……。

 一方で、俺も複雑な気分だった。


「あれが天空の塔……」


 それは、あまりにも異常だった。

 この世界で「塔」というのは、必ず円錐形だ。土台は円形で、上へ行くほど細くなる。それは建築技術の問題で、そうしないと塔それ自体の重さに耐えられないからである。

 だというのに、山頂に見える「塔」は、どうやら四角柱だ。ナイフで切ったようにまっすぐな壁面が2つ見えている。しかも上から下まで太さが変わらない。あり得ない形をしているのだ。

 しかし、この異常な「塔」を……俺はよく知っている。

 見慣れている。

 なぜなら、あれはどう見ても――


「高層ビル……だと?」


 その瞬間、頭の中で点と点がつながった。

 見えない攻撃、爆発音とガスが管を通るような音。

 爆発する玉。

 スリモドキが仲間を失ったそれらは――


「銃と手榴弾だった……?」


 調べたい。猛烈に調べたい。居ても立っても居られないほどに。

 だって、あれは……どうにかして、この世界に来た、別の世界の代物だろう? どうやって来たのか分かれば、どうやって帰るのかも分かるかもしれない。


「おい、一文無し? どうかしたのか?」


 スリモドキが怪訝そうに言う。

 ……そうだ。今はコイツの仲間を回収しに来たんだ。


「いや、何でもない。

 ただ、珍しい形だから、興味深くてな。どういう建築様式なのか……できれば、あれを攻略して、詳しく調べてみたいな、と……そう思っただけさ」


「ああ。いつか攻略してやろう。昔の仲間の、弔いのためにも」


 今はまだ、その時ではない。

 どう見ても50階はありそうな高さだ。人類の最高到達記録が10階だというから、いくら俺が復活できるといっても――復活したときには町に戻ってやり直し――これは攻略など不可能だろう。

 現代地球レベルの戦場を想定するべきだ。それに耐えられる仲間が必要になる。スリモドキも、鍛えてやらないと戦力にならない。索敵能力だけで耐えられるようなものではないし、そもそも敵の姿さえ見ていないという話ぶりだったから、肝心の索敵さえ役に立っていない。

 何から手を付けていいのか分からないほどの、はるか高みだ。魔王城なんて目じゃない。だが俺は、いつかここへ戻って来るだろう。攻略するために――地球へ帰る方法を見つけるために。


「……今は……とりあえず、墓を移さないとな」


 山を登り、塔の前へ。

 その脇に埋葬された、スリモドキのかつての仲間たち。

 墓は、天空の塔を恨めしそうに見ているかのようだった。



 ◇



 それから来た道を戻り、山を下りた。

 天空の塔は、中に入らなければ攻撃されないようだ。近付くだけでは反応がなかった。スリモドキは過去の恐怖体験のせいで随分と警戒していて、俺に盾を構えて防御結界も張っておけと強く訴えたが、結局まったく攻撃されなかった。

 スリモドキの話から察するに、中に入るかどうかが鍵なのだろう。そして、いったん中に入ると逃げ出しても追撃される。だが、スリモドキは生還している。侵入者を追い出したら、あとは追撃してこないということか。

 深追いしてこないところが、獣よりも機械的というか、拠点防衛を命じられた軍隊のようだ。


「おい、一文無し。見ろよ」


「ん? ……あれ?」


 考え事をしている間に、来る途中で泊まろうとした村までやってきたようだ。

 見覚えのある風景だ。俺がクレーターに変えてしまった「森だった場所」が見える。だが、その近くにある村は、台風でも来たのかというほど荒廃していた。家々の屋根壁は剥がれ、崩れ落ち、吹き飛んでいた。かろうじて残っている壁材が、風に吹かれてブラブラと揺れていた。

 何があったのか不思議に思いながら、村に近づいてみた。

 村は異様な静けさだ。

 そのまま村の中に踏み込んだが、あれだけ激怒していた村人たちも、今や俺たちに無反応だった。

 村はボロボロで、そこかしこに死体が転がっている。しかも、その死体には獣のそれとは違う、もっと人工的な傷があった。剣で切られた傷や、魔法を食らった傷だ。


「……盗賊団にでも襲われたか?」


「似てるが、これはちょっと違うようだぜ。

 あれを見ろ。女たちが残ってる。盗賊団なら、さらっていく」


「……たしかに」


 ドアの奥や路地裏に、女たちが倒れている。

 動かないが、他の明らかに死んでいる連中と比べると「血まみれ」とは言えない。

 おそらく生きているのだろう。

 だが、無事ではないようだ。

 衣服は破られ、顔には殴られたような痕跡があり、その目は虚ろだ。

 何があったのか、察するに余りある。


「軍……それとも傭兵団か?」


 軍だとすると、どこの領地の軍隊だろうか? 覇権争いを始めるための口実として「自領の村が襲われた」という事実を「作った」のか? それとも他領の軍が挑発としてこの村を襲って、この領地の軍を待ち構えているのか?

 あるいは募集を知った傭兵団が、雇われようと駆け付ける――その行き掛けの駄賃にか、景気づけのつもりか、ろくに抵抗できない村を襲っていい気になっているのだろうか?


「マルコ! マルコぉぉぉ!」


 孫を失った老人か。

 子供の死体にすがりついて泣いている。

 異様な静けさに包まれた村に、老人の声だけが響く。


「……気に食わねーな」


「暴れるなよ、一文無し」


「暴れる相手がいねーよ。

 それが余計に気に食わねぇ」


「よくある事だ。

 関わっても利益にならねーぞ」


「わかってるよ。だから、わざわざ探しには行かねぇ。

 けど、もし見つけたらボコる。これは決定事項だ」


「はぁ……なんでてめーは、そう熱いのかねぇ。

 英雄でも気取ってるのかと思ったが、あのキレ方はちょっと違うようだし……何がお前をそこまで?」


「わからねーのか、スリモドキ? お前だって仲間を失っただろう? しかも意味のわからない攻撃で、一方的に」


「なるほど……同じか」


「同じ? そんなわけねーだろ。バカ言ってんじゃあねーよ」


「なんだと?」


「お前はいいよな? 自分で報復できる。その意志も、そのための強さも――今はまだ足りないにせよ、ちゃんと持ってるんだからよ……。

 だが、彼らはどうだ? 襲ってきたのが傭兵団にしろ盗賊団にしろ……自分たちで復讐できるか? やろうと思えるか?」


「…………」


「家族や友人を失って悲しんでいる。

 その理不尽を嘆き、恨んでいる。

 しかも彼らは、自分ではどうにもならない」


 本人がひどい目に遭ったのを見ても……むごい話だとは思うが、それだけだ。同情は湧くが、怒りは湧かない。俺だってさんざん殺された。毎回激痛だった。致命傷なんだから当たり前だ。けど、身を守れなかった自分が悪いのだ。弱いから悪いのだ。次はもっと強くなって勝つ――そうやって前を向ける。

 だが、周囲の人を失った姿は、ダメだ。我慢ならない。だってそれは努力しても、どうにもならないじゃあないか。ひたすら相手が悪い。自分には落ち度がない。なのに泣き寝入りするしかないなんて。


「――あれは、まるで俺だ」


 異世界に召喚されて家族や友人を失った俺のように。

 彼らには何もできない。

 泣き寝入りだ。

 そしてこれから、もっと沢山こうなる。

 欲深く覇権争いに乗り出したバカどものせいで。


「そして俺は、何もできねぇ……」


 気に入らないから貴族を片っ端から殺して回る。

 実行は可能だが、やっても無益だ。

 結局新しい支配者が決まらないと、安定しない。そして俺には、王国を支配する正統性がない。俺では支配者になれないのだ。無理になっても反発する連中が出て不安定になるだけ。

 つまり、放っておくしかない。俺には何もできない。日本に帰ることも、彼らを同じ理不尽から救うことも。

 ただ悔しさを手に、拳を握るしかない。


「いや……そうでもないようだぜ」


 スリモドキがどこかへ歩いていく。

 そして何かを拾った。


「見ろよ」


 それは紋章だった。

 貴族の家紋か、傭兵団のロゴマークか……いずれにせよ、手がかりだ。


「どうやら見つけてボコるぐらいは、できるようだぜ?」


 スリモドキは、ニヤリと笑って、紋章をひらひら振った。

 こうして俺は、少しだけ希望を見つけた。

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