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第14話 かくて勇者は焼肉を楽しんだ

「はあああっ!」


 俺は全力で剣を振り抜いた。

 森が吹き飛び、更地に変わる。


「お、おい。落ち着けよ、一文無し」


 スリモドキが止めに入るが、俺はもうしばらく暴れた。

 そして更地がクレーターに変わった。



 ◇



 30分後。


「す、すまん……悪かったよ」


 俺はスリモドキの機嫌を治すのに必死だった。


「ああ、いいよ。気にすんな。今夜は野宿になった。それだけだ。最初から野宿のつもりだったんだから、何も問題はねーよ」


 突き放すように言うスリモドキ。


「ううっ……」


 通りかかった場所に、たまたま村があった。

 今夜は野宿のつもりだったが、じゃあ村で宿を取るか。という話になって。

 しかし村には宿屋がないので、村長に掛け合ってみると、村を襲うゴブリンの群を殲滅してくれと頼まれた。代わりに家に泊めてやると。

 たやすいことだ。すぐさまスリモドキの索敵技術と俺の探知魔法で手分けしてゴブリンを探し、殲滅作戦を始めた。

 1時間ほどして戻ってくると、入れ違いになったゴブリンが村を襲っていて。

 死んだ親にすがる子供を見た俺は、ブチギレた。

 人が死ぬなんて見慣れた光景のはずだが、すがる子供の姿はダメだった。勇者としての自覚がどうとか、そんな能動的な話ではない。もっと受動的な……本能的なものだ。あるいはトラウマを刺激されたようなものか。とにかくダメ。生理的にダメ。なんでダメなのか俺にも説明できない。なんでだろうな? でもダメなんだ。ダメなもんはダメ。


「まあ相手がゴブリンだから良かったんじゃあねーの? 英雄だよ。英雄的活躍だ。オーガだったら、どうなってたか分からんが。ただの冒険者にしちゃあ立派な振る舞いだったぜ。依頼料も取らずにタダで戦ってやるなんてな。かの魔王を倒したという勇者もかくや、ってなもんだ」


 暴れてゴブリンの群を殲滅。

 そこまでは良かった。

 だが、やりすぎて森を消し飛ばした。

 結果、村人が大激怒。おらが村の森を滅ぼした大罪人め、と村から追い出された。木材や山菜その他の資源の源が消えてしまったのだから、村人はこれからの生活に困るだろう。まあ別の森へ行けばいいだけだが。ちょっと遠くなるのが面倒というだけで。


「すまん。悪かったって。なあ、機嫌なおしてくれよ……」


「じゃあ何が悪かったのか言ってみろ」


「やりすぎたよ。確かにやりすぎた」


「それだけか?」


「……というと?」


 俺は首を傾げた。

 するとスリモドキは大きなため息をついた。


「報酬と成功の条件について決めてなかったんだよ。

 いいか? 俺達『冒険者』は、慈善事業じゃあねーんだ。ビジネスとして戦うんだよ。そこンとこ分かってんのか? あ?」


「群の殲滅が条件で、宿を取るのが報酬だろ?」


「どの群を?」


「村を襲うゴブリンの群だろ?」


「じゃあ群が複数あったら? それに殲滅したあと別の群がまた村を襲ったら? 屁理屈だが、それも契約の範囲だとゴネてきたら面倒なことになってたぞ?」


「うっ……」


「宿を取るのだって、どの家を借りるのか、いつまで借りるのか、労働に見合うのか、なにも考えてねーだろ」


「ううっ……ハイ、ゴメンナサイ」


「しかも、やりすぎて依頼人に怒られるとか」


「はい」


「そもそも、森を消し飛ばすとか普通に環境破壊なんだが?」


「はい。すみません」


「一文無し」


「はい」


「バーカ! バーカ!」


「ぐふうっ……」


 しかし野宿の準備は必要なので。

 いつまでも説教ばかり聞いているわけにはいかない。


「だいたい、てめーは――」


「あ、ちょっと待って」


 ここまでの道中でスリモドキの索敵技術を学んで。

 俺はこの瞬間に、魔法なしで獣を探知した。

 どうやら女神が与えた「人類のあらゆる可能性」とやらは、まだ失われていないようだ。

 すぐに攻撃魔法を放って。

 それから現地へ向かい、仕留めた獣を見つけて。


「今夜の飯をゲットしたぜ。

 フッフッフッ。この新鮮さは、お金を出して買ったものじゃあ手に入らねーな」


 持ち帰って、解体した。

 ジビエだ。バーベキューだ。焼肉だ。

 土魔法でかまどを作って、そこらの木を削って串を作り。


「串打ち手伝え、ほら」


「お、おう……」


 解体した獣を切り分けて、時間のかかる串打ちをスリモドキにも手伝わせた。

 あとは、作ったかまどでじっくり炭火焼きだ。

 持参した塩をふりかけて、焼けるのを待つ。

 もちろん、焼けるのを待っている間に飲む酒もうまい。


「飲むか?」


 水筒を取り出して尋ねた。

 俺は飲み水なら魔法で出せる。それでも水筒を持ち歩くのは、酒を入れてあるからだ。本来の目的は消毒液の代わりだが、もともと酒なんだから飲んだって悪くない。

 だが干し肉や薬草がつまみでは、酒がもったいない。

 肉だ。新鮮な肉がいい。肉を焼いて酒を飲むだけの時間は、最高だ。


「ば……バカなッ! ……こ……この俺が………この俺がァァァァァァーッ!

 この誘惑には抗えないッ! 決してッ!」


 バカみたいに騒ぎながら差し出されたコップに、俺は酒を注いでやった。

 それから土魔法を駆使して、即席の小屋を作った。

 もちろん内装はバッチリだ。広めの風呂やふかふかのベッドも作ってある。

 もはや野宿とは言えない。


「このまま朝日を待てば野宿になる……。

 だがこの肉と酒と小屋はッ……!

 てめーの勝因は……たったひとつだぜ……一文無し……たったひとつのシンプルな答えだ………『てめーは俺を喜ばせた』ッ!」


 スリモドキは小袋を取り出した。

 そこにあったのは、黒い粒。

 今度は俺が驚く番だった。


「こ……胡椒、だと……!?」


 塩に胡椒。

 この組み合わせは最強だ。

 しかもメインの食材は肉である。

 そして炭火焼きだ。

 ラムゼイのおっちゃんだって、これには納得だろう。そうに違いない。


「そうだ! お前にはこの『宝』を使うだけの『価値』があると判断した!」


 胡椒は南で育つ。

 このあたりでは栽培できず、輸送コストが高くなるため、同じ重さの黄金に匹敵するとも言われるほど高額だ。

 スリモドキは胡椒を石の上へ乗せて、別の石でゴリゴリと磨り潰した。


「スリモドキ……お前っ……」


「ふふふ……」


「最高だな、てめーは!」


「だろォ!?」


 その夜、俺達は肉を焼いて酒を飲むだけの時間を楽しんだ。

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