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第12話 かくて勇者はチェックアウトした

「それで、どーゆー仕事なんだ?」


 俺の仕事を手伝えと言うスリモドキ。

 だが聞けば「儲からない仕事」らしい。


「俺の仕事から報酬を8割もぶんどった奴が、儲からない仕事のために、好きでもねー俺を頼るっていうのは、逆に興味が湧いたぜ。どんな仕事なら、そんな事になるんだよ?」


 スリモドキなら。

 儲からない時点で、やらないだろう。

 コイツの方から俺を頼ろうなんて、しないだろう。


「昔、俺には仲間が居た」


 ひどく苦いものを無理やり食べているような顔をして。

 スリモドキは話し始めた。



 ◇



 当時、俺達は新進気鋭のパーティーだった。

 スカウトとしてBランクになった俺は、仲間のサポートを受ければAランク並の仕事もできるほどだった。

 もちろん冒険者ギルドの規定で、自分のランクより上の仕事は受けられない。だから毎日が余裕で、俺達はちょっと退屈していた。

 何もかもうまく行っている。だから次の仕事もうまく行くだろう。それは俺達にとって、もはや当たり前の認識だった。


「天空の塔に挑戦してみよう」


 仲間の1人が言い出した。

 天空の塔は、その名の通り空高くそびえ立つ塔の形をしたダンジョンだ。内部には他では見ない強力な魔物がひしめき、挑戦者が到達できた階層の最高記録は、わずか10階。

 洞窟型のダンジョンでは地下50階という記録がある時代に、10階が限界なんだ。そのヤバさが分かるだろ? ……なに目ぇキラキラさせてんだ? ダンジョンが実在するのか、だと? てめーは、まったく……。

 とにかく、だ。そのやべーダンジョンに俺達は挑んだ。


「どこまで行けるか、実力を試すいい機会だ」


 仲間は乗り気だった。

 けど俺は、なんだか嫌な予感がした。


「心配すんなよ。ヤバけりゃ逃げ出せばいい。どんなにヤバくたって、俺達なら逃げるぐらいできるはずだ」


 倒せるのはAランクまでだろうけど。

 逃げるだけなら。

 たしかに俺達なら、Sランクの魔物からでも逃げられるだろう。

 それに「やっておけばよかった」という後悔は、「やらなきゃよかった」という後悔よりも尾を引くものだ。チャンスを見てもためらう癖がついちまって、自分から負け犬人生に突っ込むことになる。

 それに、俺の「嫌な予感」は、この時点では何の根拠もない。何がどう嫌なのかも説明できない、具体性のない話だ。なんとなく嫌な感じがするというだけ。引く理由としちゃ弱すぎる。


「太く」


 リーダーがジョッキを掲げた。

 俺達もジョッキを掲げた。


「「短く」」


 乾杯してその日は飲み明かし、そして翌日から準備して、数日後。

 俺達はついに天空の塔へ挑んだ。


 ズキュゥゥゥーン!


 天空の塔に1歩――たった1歩、踏み込んだ瞬間に。

 爆発音とともに、細い管からガスが吹き出るような音が聞こえた。


 ドサッ


 何か荷物を落としたような音がして。

 振り向くと、仲間が1人、死んでいた。


「なっ!?」


「攻撃!?」


「どこからだ!?」


 とにかく、その場にとどまるのはマズイ。

 俺達は塔から離れるようにして、その場から距離を取った。敵の位置は不明だが、攻撃が来るとしたら塔の中、例の「他では見ない魔物」だろう。

 直後、黒いボールのようなものが転がってきた。

 塔の中からだ。

 やはり塔の中の魔物による攻撃か――そんなことを思った直後、黒いボールは爆発した。


「ぎゃあああっ!」


「ぐわあーっ!」


「くっ……!」


 吹き飛ばされて。

 追撃を警戒し。

 すぐ起き上がろうとした。


「っ……!?」


 だが、バランスを崩して転んでしまった。


「……え?」



 ◇



「見たら――」


 スリモドキは足元へ視線を落とし。


「――こうなっていた」


 ズボンのすそをめくってみせた。


「義足……」


 あるべき脚がなく。

 樹皮がついたままの木が、靴を履いていた。


「俺は幸運だった。

 たまたま前にいた仲間が盾になって、これだけで済んだ。

 だが、仲間は……えぐれていた。体の前側がえぐれて……まるで屠殺場さ」


 頭と内蔵と皮がなくなって吊るされた家畜の姿が思い浮かんだ。

 何かの映画かゲームで見たっけ。


「それで、仇討ちにもう1回挑もうと?」


「いや、そいつはもっと仲間を集めてからだ。さすがに俺とお前だけじゃあ、どうにもならねーよ。

 俺はあの後、もう1回天空の塔へ行った。そして放置されていた仲間の死体を埋めてきた。義足になったばかりで、まだ連れ帰ってくるのは無理だったから、その場で……だが、ちゃんと弔ってやりたい。今度は連れ帰って、あいつらの故郷に」


「つまり配送依頼か。

 しかし、墓を引っ越すとは、羨ましい話だな」


「あ?」


 スリモドキは俺の胸ぐらをつかんで、血走った目を向けてきた。


「もういっぺん言ってみろ」


 仲間の死を、羨ましいと言われては怒るのも当然か。

 だが、俺が羨ましいのはそこじゃない。


「俺は弔うこともできねぇ」


 隣で戦っていて混戦の中で死んだアイツ、撤退戦の中で敵の追撃を遅らせるために特攻したアイツ、待ち伏せ作戦の伏兵になったが見破られて広範囲魔法で殺されたアイツ……他にも大勢。弔ってやりたい仲間が、あまりにも多すぎる。

 それに、日本にいる家族や友人は――あれから10年だからまだ誰も死んでないと思うけど――死んだら弔うこともできない。


「……すまん」


 スリモドキが、つかんでいた手を離した。

 気まずそうに視線を落とし、力なく椅子に腰掛ける。

 反対に俺は立ち上がり、壁に立てかけておいた盾を背負った。


「じゃあ行くか」


 ドアを開けて。

 首だけでスリモドキを振り返り。


「ああ」


 スリモドキが立ち上がるのを見た。

 こうして俺は、数日ぶりに宿屋をチェックアウトした。

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