第11話 かくて勇者は崩れ落ちた
浮遊魔法は、地面から少し浮くだけで、推進力がない。高さも変わらない。
ここに風を起こす魔法を当てると、魔法には反動がないから、風船に風が吹いて飛んでいくのと同じように、空中を移動できる。なので――どうでもいい事だが――ジェット噴射の反動で進むのとは少し原理が異なる。
だが風を当てる部分が重要で、重心からずれると突き飛ばされたようになってバランスを崩す。その場で回転してしまって、前に進めない。
今回、この問題に対する解決策を思いついた。
「風の防壁」
まず風の防壁で自分をまるごと包む。
それから浮遊魔法と風魔法で飛ぶのだ。
このとき風魔法は全身に均等に吹き付ける。そうすれば重心からずれる心配はなくなる。
そして重要なことは、風の防壁の効果で外部の風に影響されない。自然の風や敵の攻撃によって押し流される心配がなくなり、制御が容易になる。
「おおっ……! おおおーっ……!?」
飛んだ。
ちゃんと飛んだ。
気球や飛行船みたいにゆっくりとした速度だが、確かに飛んでいる。
「さらに風の防壁を外付けして、その中へ水魔法と火魔法っと」
高圧の水蒸気が発生して、風の防壁に穴をあけると噴射が始まって推進力になる。
この方法は前にも考えたが、容器の耐久性と携行性が問題だった。壊れると困るが、かさばるのも困る、と。しかし今回の工夫では、そもそも容器が必要ない。
「ほっほーっ!」
飛行速度がぐんと上がった。
このぐらいの速度で飛べれば、それなりに実用的だ。
「……しかし……うーむ……」
しばらく飛んで、喜びが落ち着くと。
気づいてしまった。
ほとんどの場合、走ったほうが早い。
加速にも減速にも時間がかかるので、長距離かつ地形が険しいという場合を除けば、走ったほうが早い。
ということは。
「防御結界」
物理攻撃を防ぐ魔法を展開し、それを足場にしてしまえば。
空中を走れるのだ。
急加速・急旋回・急停止もできる。魔力の消費も少なく、操作も手順もよりシンプルだ。
「……飛行魔法、終了のお知らせ……」
俺はその場に崩れ落ちた。
せっかく開発した飛行魔法を、自分の手で終わらせてしまった。
しかも足場を作る方法なら、踏んだ足場を加速することでカタパルトのように使えて、移動速度を数倍にするのも簡単だ。
「おい、一文無し。居るか?」
ノックが聞こえた。
「その声はスリモドキか。開いてるから勝手に入れ」
「不用心なやつだな」
呆れながらスリモドキが入ってきた。
そして首を傾げる。
「なに落ち込んでんだよ?」
「かくかくしかじかで……」
「ゲラゲラ! 馬っ鹿でぇー! やーいやーい! ぷぎゃー!」
「この野郎、人の不幸を……。
……はぁ……。
まあ、ありがとう。おかげでちょっと元気出たよ」
「わーお……こいつは重症だな。
けど、乗ったまま加速できるってことは、そのまま飛べばいいんじゃねーの?」
「え?」
「だから、こう……乗ったまま飛べば」
スリモドキが、右手を左手の上に重ねて動かす。
空飛ぶ絨毯に乗るみたいな方式か!
「それだ!」
エレベーターやエスカレーターに乗るようなものだ。
これなら低速・短距離でも実用的じゃあねーか。
「それ、俺がひらめいた事にならんか?」
「ならねーよ。
ま、なってもいいけど。真似できる奴は居ねーだろーし」
「え?」
「あ?」
「真似できる奴がいない?」
「いねーな」
「なんで?」
「逆になんで?
防御結界が動かせるって、どうなってんだ? それじゃあ防御結界の意味ねーじゃん。防壁は動かないから防壁なんだよ。動いたら防御効果なんか無いも同然じゃあねーか」
「それは付与対象を『場所』にするからだろ? 別の『動かせる魔法』にしてやれば動かせるが?」
「何をバカなこと言ってるんだろうコイツは。みたいな顔をしやがって。
そうやって魔法を改造するのは、Sランクの魔術師じゃねーとできねーよ。魔法回路のどこをどうイジればいいか分かんねーからな。
しかもサラッと2つの魔法を同時に使ってんじゃねーか。それも普通はできねーからな?
てゆーか、自分のオリジナル魔法の秘密をそう簡単に漏らすな。バカなこと言ってるのはテメーの方だよ。さっさと魔術師ギルドで登録してこい」
「……魔術師……ギルド……?」
「そこから!?」
魔術師ギルドは、その名の通り魔術師のためのギルドで、魔法専門の特許庁みたいなこともしているそうだ。
なお魔道具などに落とし込んで販売可能な「商品」にした場合には、商業ギルドで特許申請ができるらしい。
「……ほぇ~……そうなのか。勉強になったよ」
「はぁ~……こいつはまったく……」
呆れるスリモドキ。
俺の無知については今更だ。
ブツブツ言われるのは鬱陶しいので、話題を変えよう。
「あー……で、何の用事だ? なんか用があって来たんだろ?」
「あたりめーだ。
誰がわざわざてめーの顔見るだけのために来るかよ。
前に言っただろ? ランクを取ったら俺の仕事を手伝えって」
「ああ、そんなことも言ってたな。
そうか。つまり儲け話か」
「ちげーよ」
「儲からないのか?」
「儲からねーよ」
「儲からねーのか」
「諦めろ」
「儲からねーのか……」
「未練タラタラじゃねーか」
「俺を誰だと思ってんだ」
「一文無し」
「……そういうことだ……」
自分から言わせたけど。
ダメージでかいな。
こうして俺は、再び崩れ落ちた。




