表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/33

第11話 かくて勇者は崩れ落ちた

 浮遊魔法は、地面から少し浮くだけで、推進力がない。高さも変わらない。

 ここに風を起こす魔法を当てると、魔法には反動がないから、風船に風が吹いて飛んでいくのと同じように、空中を移動できる。なので――どうでもいい事だが――ジェット噴射の反動で進むのとは少し原理が異なる。

 だが風を当てる部分が重要で、重心からずれると突き飛ばされたようになってバランスを崩す。その場で回転してしまって、前に進めない。

 今回、この問題に対する解決策を思いついた。


「風の防壁」


 まず風の防壁で自分をまるごと包む。

 それから浮遊魔法と風魔法で飛ぶのだ。

 このとき風魔法は全身に均等に吹き付ける。そうすれば重心からずれる心配はなくなる。

 そして重要なことは、風の防壁の効果で外部の風に影響されない。自然の風や敵の攻撃によって押し流される心配がなくなり、制御が容易になる。


「おおっ……! おおおーっ……!?」


 飛んだ。

 ちゃんと飛んだ。

 気球や飛行船みたいにゆっくりとした速度だが、確かに飛んでいる。


「さらに風の防壁を外付けして、その中へ水魔法と火魔法っと」


 高圧の水蒸気が発生して、風の防壁に穴をあけると噴射が始まって推進力になる。

 この方法は前にも考えたが、容器の耐久性と携行性が問題だった。壊れると困るが、かさばるのも困る、と。しかし今回の工夫では、そもそも容器が必要ない。


「ほっほーっ!」


 飛行速度がぐんと上がった。

 このぐらいの速度で飛べれば、それなりに実用的だ。


「……しかし……うーむ……」


 しばらく飛んで、喜びが落ち着くと。

 気づいてしまった。

 ほとんどの場合、走ったほうが早い。

 加速にも減速にも時間がかかるので、長距離かつ地形が険しいという場合を除けば、走ったほうが早い。

 ということは。


「防御結界」


 物理攻撃を防ぐ魔法を展開し、それを足場にしてしまえば。

 空中を走れるのだ。

 急加速・急旋回・急停止もできる。魔力の消費も少なく、操作も手順もよりシンプルだ。


「……飛行魔法、終了のお知らせ……」


 俺はその場に崩れ落ちた。

 せっかく開発した飛行魔法を、自分の手で終わらせてしまった。

 しかも足場を作る方法なら、踏んだ足場を加速することでカタパルトのように使えて、移動速度を数倍にするのも簡単だ。


「おい、一文無し。居るか?」


 ノックが聞こえた。


「その声はスリモドキか。開いてるから勝手に入れ」


「不用心なやつだな」


 呆れながらスリモドキが入ってきた。

 そして首を傾げる。


「なに落ち込んでんだよ?」


「かくかくしかじかで……」


「ゲラゲラ! 馬っ鹿でぇー! やーいやーい! ぷぎゃー!」


「この野郎、人の不幸を……。

 ……はぁ……。

 まあ、ありがとう。おかげでちょっと元気出たよ」


「わーお……こいつは重症だな。

 けど、乗ったまま加速できるってことは、そのまま飛べばいいんじゃねーの?」


「え?」


「だから、こう……乗ったまま飛べば」


 スリモドキが、右手を左手の上に重ねて動かす。

 空飛ぶ絨毯に乗るみたいな方式か!


「それだ!」


 エレベーターやエスカレーターに乗るようなものだ。

 これなら低速・短距離でも実用的じゃあねーか。


「それ、俺がひらめいた事にならんか?」


「ならねーよ。

 ま、なってもいいけど。真似できる奴は居ねーだろーし」


「え?」


「あ?」


「真似できる奴がいない?」


「いねーな」


「なんで?」


「逆になんで?

 防御結界が動かせるって、どうなってんだ? それじゃあ防御結界の意味ねーじゃん。防壁は動かないから防壁なんだよ。動いたら防御効果なんか無いも同然じゃあねーか」


「それは付与対象を『場所』にするからだろ? 別の『動かせる魔法』にしてやれば動かせるが?」


「何をバカなこと言ってるんだろうコイツは。みたいな顔をしやがって。

 そうやって魔法を改造するのは、Sランクの魔術師じゃねーとできねーよ。魔法回路のどこをどうイジればいいか分かんねーからな。

 しかもサラッと2つの魔法を同時に使ってんじゃねーか。それも普通はできねーからな?

 てゆーか、自分のオリジナル魔法の秘密をそう簡単に漏らすな。バカなこと言ってるのはテメーの方だよ。さっさと魔術師ギルドで登録してこい」


「……魔術師……ギルド……?」


「そこから!?」


 魔術師ギルドは、その名の通り魔術師のためのギルドで、魔法専門の特許庁みたいなこともしているそうだ。

 なお魔道具などに落とし込んで販売可能な「商品」にした場合には、商業ギルドで特許申請ができるらしい。


「……ほぇ~……そうなのか。勉強になったよ」


「はぁ~……こいつはまったく……」


 呆れるスリモドキ。

 俺の無知については今更だ。

 ブツブツ言われるのは鬱陶しいので、話題を変えよう。


「あー……で、何の用事だ? なんか用があって来たんだろ?」


「あたりめーだ。

 誰がわざわざてめーの顔見るだけのために来るかよ。

 前に言っただろ? ランクを取ったら俺の仕事を手伝えって」


「ああ、そんなことも言ってたな。

 そうか。つまり儲け話か」


「ちげーよ」


「儲からないのか?」


「儲からねーよ」


「儲からねーのか」


「諦めろ」


「儲からねーのか……」


「未練タラタラじゃねーか」


「俺を誰だと思ってんだ」


「一文無し」


「……そういうことだ……」


 自分から言わせたけど。

 ダメージでかいな。

 こうして俺は、再び崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ