第1話 かくて勇者は金欠になった
気づくと白い空間にいた。
目の前には、女神と名乗る女性がいた。
「あなたは勇者として異世界に召喚されました。
人類のあらゆる可能性と、最後に訪れた拠点で復活する祝福を与えましょう」
そして風景が代わり、謁見の間。
国王と名乗る男性がいた。
「今、我がバスター王国は――いや、この世界の全人類は、滅亡の危機に瀕している! 暴虐なる魔王軍の侵略を受けているのだ!
勇者よ、国王コール・バスターの名において命じる! 魔王軍を蹴散らし、魔王を討伐せよ!」
戸惑う俺を騎士たちが引きずるように連れていき、檻のような馬車に押し込まれて最前線へ輸送された。
目の前に迫る魔物の群。戦わねば死ぬ状況だ。
「こうなりゃ破れかぶれだ! うおおお!」
否応なく戦わされ――
「ぎゃあああ!」
――そしてあっさり死んだ。
武器なんて実際に持ったのは初めてで、喧嘩もしたことがないのだから、当然の結果だ。
「……はっ!? ここは……?」
ところが俺は死んでも復活した。
女神が言っていた通り、最後に訪れた拠点――つまり最前線の前哨基地で。
「う……うわあああ! もう嫌だあああ!」
自分がどうやって殺されたのか。どれほどの痛みを経験したのか。しっかりと覚えている。
恐慌状態になった俺は、逃げ出した。
「脱走だ! 撃て撃て!」
弓矢や魔法が飛んできて、俺はあっさり死んだ。
そして復活。もちろん前哨基地に逆戻りだ。
「もっと計画的に逃げないと……」
死ぬという特殊な体験。しかし2度目となると、いくらか頭が冷静に働いた。
俺は素直に戦うふりをしながら、周囲の地形や兵士たちの動きを観察した。
結果、分かったことは、逃げ出すのは絶望的ということだった。
「……無理じゃん。詰んでるじゃねーか、これ……」
逃げ出そうにも周囲は魔物だらけ。しかも脱走兵には王国軍からも攻撃が向けられる。生きて逃げ延びることは不可能で、死にたくなければ戦って勝つしかなかった。
「畜生めええええ!」
戦って、死んで、復活して、また戦う。
その無限ループだ。
しかし何度も死にながら、少しずつ覚えていく。敵の動きのパターン、効果的な攻撃の方法、武器の使い方……幸いにも「お手本」は周囲にたくさん居る。
そして女神が言った通り、俺には「人類のあらゆる可能性」が備わっていた。剣術の才能も、弓矢の才能も、魔法の才能も。
やがて俺は死ななくなった。
◇
「ぐはっ……! み、見事だ、勇者よ……お前の、勝ちだ……ぐふっ」
魔王城。
10年かけてここまで攻め込み、ついに魔王を討ち果たした。
魔王城周辺の魔物は強力で、王国軍では手も足も出ない。ここまで来たのは、俺1人だ。それでも逃げ出さずに戦い続けたのは、ある意味やけくそになっていたからだ。
「終わった……これで日本に帰れる。
ここまでやったんだから、報酬をがっぽり貰って帰らないと」
俺は王国へ凱旋した。
だが、一抹の不安があった。
そして、その不安は的中した。
「元の世界へ帰りたい? 無理だ。送り返す方法はない。
だが心配することはないぞ。魔王討伐の功績をたたえ、生活に困らぬだけの褒美を与え――ぐはっ!?」
とりあえず殴った。
「何をするか、貴様! 気でも狂ったか!?」
「それはこっちのセリフだ。
元の世界に帰れないだと? じゃあ家族も友人も故郷も、何もかも奪われたって事じゃあねーか」
仕事や財産や地位や名誉は、もともと大したものではないし、転職したと思えばいいのだから、替えがきく。
だが家族や友人や故郷は、替えがきかない。
「それは必要な犠牲だ。お前は全人類を救ったのだぞ?」
「この期に及んで謝りもしねーとは……。
お前こそが魔王だ! 吐き気を催す邪悪だッ! 無関係の他人を、てめーの利益だけのために利用しやがって……!
10年前、お前は『魔王軍を蹴散らせ』と……『魔王を倒せ』と言ったな? いいだろう! 蹴散らしてやる! 倒してやる! それがお前の望みだろう!?」
怒りに任せて、全力の攻撃をぶっ放した。
倒した魔王から鹵獲した魔剣を一閃。
その攻撃の余波が爆発となって広がり、王都全体が一瞬で吹き飛んだ。
舞い上がった土埃が風に流され、視界が戻ったとき、周囲は荒野に変わっていた。
「……ふんっ。くそったれめ」
失ったものが大きすぎて、報復してもスッキリしなかった。
だが、これ以上ここに居ても仕方ない。
これからどうしようか……。
今は何も思いつかないが、とりあえず近くの町へ移動しよう。
これからやりたい事を考えながら歩き出し、王都だった場所を出ていく。
最初にやりたい事は、10年ぶりの休暇を満喫することだ。町についたら宿をとって、とりあえず数日はのんびり……あ、待てよ? 戦ってばかりでお金がない。
「しまったな……慰謝料もらっとけば良かった」
振り向いた「元」王都は、今や何も残っていない荒野だ。
宝物庫の中身でも貰っておくんだった……。もう探しようがない。完全に後の祭りだ。
こうして俺の金欠サードライフが始まった。




