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1.ときめきの再来

 あのとき、私はときめきを見たんだ。まるで別世界に連れていかれるみたいな、そんなときめきを!


「明日香、いいかげん機嫌直しな?」


「・・・」


「せっかく旅行に来てるんだから楽しまないと損だよ。確かに明日香が楽しみにしてたジェットコースターが点検中で乗れないなんて災難だけど」


「そうだよ明日香。ほら、あそこのステージでライブしてるみたいだよ。行ってみようか」


 ライブなんてどうでもいい、ジェットコースターを楽しみにしてたのに。


 野外ライブの会場につくと、ステージの上で笑顔で踊るアイドルがいた。


 可愛い衣装、曲。全てが私の心をときめかせた。アイドルと目があって私にウインクしてくれた気がした。


「すごいすごい!決めた!私もアイドルになる!」


 そうして、アイドルに。





「ぶへっ」


 目の前に現れたのはステージではなく黒板だった。


「あれ、ステージは」


「天城さん?一番前の先で寝て、どんな楽しい夢を見てたのかしら?」


「ごめんなさいーー!」


 授業も終わり、明日香は先生に課せられた罰の漢字の書き取りを放課後にやっていた。


「ひどいよね!いくら寝てたからって漢字の書き取りって。私もう高校2年生だよ!小学生以来だよこんなの!」


「おうおう荒れてるねー。まあでも寝てた上に寝ぼけてあんなこと言った明日香が完全に悪いね。一体どんな夢見てたの」


 明日香の幼馴染、親友の三浦あかねは宥めながらそう言う。


「あ、そうだ!アイドル!アイドルやる!」


「またまたいきなりだねえ、でも最近はサポートとかもあって学生がユニットを組んで活動してるのもよく見るけどさ」


「へぇーそうなんだ。いやー子供の頃の思い出をすっかり忘れてて。私も人にときめきを与えたい!アイドル始めるよ!あかねちゃん!」


「そうかいまあ頑張って、って私も!?いつ私がやるって話になったの」


「やっぱりアイドルはソロじゃなくてユニットじゃないと!初ライブはいつにする?メンバーはどうやって集める?」


「話を聞けー!っまあいいか、楽しくやるくらいなら全然付き合うよ。明日香、いっつも急に何か言い出すけど何かをやろうとすることはそこまでなかったしね」


 あかねは少し呆れながらも楽しそうにしている。


「よーし!じゃあ早速メンバー集めだ!学校に残ってる人のスカウトに行くよ!」


「その前に漢字の書き取りね」


「あー!そうだった、すぐ終わらせるから待ってて!」


 はいはいと言いながら笑うあかね。明日香にはもうアイドルしか見えていなかった。


 漢字の書き取りを急いで終わらせた明日香たちは、校舎の隅にある教室を目指していた。そこはダンス部の練習場所らしい。


「やっぱアイドルやるなら、ダンスは絶対いるよね!ダンス部からスカウトだ!」


「アイデアとしては悪くないけど、迷惑になるから練習終わるまでは待とうね」


「はーい。……そういえばさ、あかねちゃん。今ってアイドルってそんなに流行ってるの?」


「まあね。個人で活動してる人も多いし、学生でもユニット組んでイベント出たりしてるよ。もちろん事務所所属のプロもたくさんいるけどね」


「へぇ〜。楽しそう!」


 そんな会話をしているうちに、教室からぞろぞろと生徒たちが出てきた。練習が終わったらしいが、中からはまだ音楽が聞こえている。


 こっそり覗いてみると、長い髪の女の子がひとり、鏡の前で踊り続けていた。明日香はピタッと止まるその動きを見て直感した。


「あのっ!一緒にアイドル、やりませんか!」


「ちょっ、明日香っ!」


 明日香の声に、その子は驚いたようにこちらを振り返り、眉をひそめた。


「……嫌です。練習の邪魔なので、出ていってください」


 ぐいぐいと押されて、明日香たちは教室の外へ追い出される。


「わかった!じゃあ、練習が終わるまで待ってる!」


 その子は嫌そうな顔をする。


 あかねは呆れた顔で笑っていた。


「では今話をしましょう。アイドル、でしたか?やりません。以上です」


「えぇ〜〜!?なんでっ!」


「初対面の人に言うのもなんですが、第一、この学校でアイドルをやってる人なんて聞いたことありません。今から始めるって言うんですか?」


「そう!私、昔ライブを見て、ものすっごくときめいたの。それを今度は私が誰かに与えたいの!だからアイドルになるの!」


「……」


 その子は少し黙り込んだ。けど、まだ顔は険しい。


「あなた、踊れるんですか?」


「へ?」


「曲は?振り付けは?本気でやるって言うならまだしも、ただの思いつきなら、私は関わりません。それに……アイドルなんて、」


「アイドルなんて?」


 明日香とあかねは声を揃えて尋ねた。


「……恥ずかしいです」


「え〜なんで!そんなに可愛いのに!」


 明日香が思わずそう言うと、彼女はビクッと動揺し出した。


「か、可愛い……!?そ、そうですか?たしかに、可愛くてダンスもできる私を誘う気持ちは、まぁわからなくもないですが」


「明日香ちゃん、なんか急に調子に乗り出したよ」


 あかねがぽつりとつぶやくと、その子はハッと我に返った。


「と、とにかく。そんな思いつきでやるなら、私は絶対にやりません!」


「……思いつき、かもしれないけど、でも気持ちは本気だよ!中途半端にやるつもりなんてない!本気でアイドル、やるんだから!」


 明日香の目を見つめたまま、その子は一拍置いてから小さく息をついた。


「……わかりました。では、今度八月に行われる地域イベントで、あなたの本気を見せてください。そうしたら……考えます」


「やったっ!絶対見にきてね!名前は?」


「……澄。朝霧澄です」


「よーし、澄ちゃん!絶対来てね!」


 こうして、明日香とあかねの最初の目標が決まった。


   八月のステージで、本気を見せること。

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