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海の神様と僕の出遭い

作者: Koyura

夏のホラー2025の為書き下ろしました。これの以後の詳細を書いた話をすでに載っけてましたが、期間中の投稿じゃないといけないようなので、祥一郎が海の神様と出遭ってしまった経緯を書きました。

やっぱり怖くない…

潮が引いていたから、てっきり浅瀬が続くと思ってたんだ。

僕は小学一年生になった夏に、近所の海岸に家族でやって来ていた。

ここは怪しい気配が一切しない珍しい場所だった。


と言うのも、僕は普通の人は見えないモノが見える。黒い、固まった煙のようなモノで、人の形をしていたりもするが、大抵よくわからない形だ。

他の人は素通りしているが、僕には時々当たって来るから鬱陶しい。

当たるとチリッと静電気の強いような痛みがある。その後消えてしまう。

つい「痛っ!」と声に出てしまい周囲に不審がられる。わかってても痛い。


それが、ここ御厨海岸には一切無い。波間から手が伸びてるなんてのも無い。

僕は一緒に来た近所の男の子、透矢と浮き輪を片手に寄せる波に逆らって海に入って行く。

最初温かい水が、段々と底から冷たくなっていく。


「もうちょっと行こうぜ」

まだ、夏休みは始まった所なのにすでに真っ黒に日焼けしている透矢に頷く。

僕は色が白くて、日に当たると赤くなって痛くなるので顔には日焼け止め、水着は長袖、膝まである。


2人とも毎年ここに泳ぎに来るし、スイミングに3歳から通って25メートルも余裕なので、溺れるとか考えてなかった。

得意な潜水で、底の砂地に居る小さな巻貝を取ると、息継ぎのために海上に顔を出した。


「透矢、ほら、貝取った!」

戦利品を掲げて見渡したが、姿が見えない。透矢の浮き輪が浮いていたので、まだ潜っているのかと待ったが、現れない。

「透矢⁈どこだよ、ふざけてんのか?」

くるっと身体ごと一周したが、やはり浮いてもこない。

次第に不安になって胸がドキドキしてきた。

もしかして底に沈んでいるかも、と海の中も潜ってみたが、それらしき姿は無い。


何回か潜って顔を出した時、たまたま沖の方へ顔を出した。

2メートルくらい先、少し離れていたが、頭が見えたのだ。

どうして気付かなかったのだろう。

「透矢!!」

僕は焦っていたせいで何の疑問も持たずに、波をざぶざぶと掻き分け、近寄った。

急いで大股で歩いてるのに、近付いた気がしない。

後一歩で手が届く!

「透矢!」一歩踏み出して頭を掴もうとした瞬間。


ずるっと足が滑り、あっという間に深みにハマった。

口を開けていたので思い切り海水を飲んでしまい、早く海の上に出たくて足をジタバタさせた。


ヒヤッと足首が冷たいモノで覆われる。

見ると。


透矢が僕の足首を掴んでいた。


僕はハッとして足を止め、透矢の手を掴もうと上体をを折り曲げた。

透矢の顔は恐怖で引き攣っていた。

僕は安心させようと親指を立てて突き出した。

透矢は首を横に振り、もう片方の手で下を差した。

釣られて下を見た僕は、同じ顔になっただろう。


透矢も誰かに足首を掴まれていた。

多分背が高い、男だ。長い黒髪が後ろで結ばれているがゆらゆら揺れている。目は少し光っていた。少し微笑んで、優しい整った顔立ちだ。


3人でどんどんと底無しでは無いだろうかと思えるほど下へ引きずられていく。


『息が、続かない…!』

透矢を見ると目が閉じられ、口が半開きになっている。僕より前に水の中にいたのだ。当然だろう。

ずっと我慢していたが、気が遠くなってきた。目を閉じても下へ落ちる感覚がする。


あの男の人は何を考えて僕達を…




「ようこそ、僕の海の底へ。苦しかったかい?ごめんね」

僕はハッと口を開けて息を吸い込んで、慌てて口を押さえた。

あれ?

気付くと僕は岩肌の上に立っていた。


「他の人は死んじゃうのに、君は凄いな、まだ生きてる」


まだ?

「うん、まもなく死ぬだろうね。このままじゃ」

え?透矢、透矢は⁈

「死んじゃったかな?いつもこうなる。どうやっても」

そんな!当たり前だろ!人は空気が無いと生きていけない。

「そうみたいだね。だから君の周りは空気で囲ってみた。透矢とやらは君の横に居るだろう?」


僕は反射的に横を見ると、透矢がぐったりと目を閉じて横たわっている。

「透矢!しっかりしろ!」

僕は慌てて透矢の身体を揺すり、顔を近付けて息を確かめる。


息をしてない!!


じ、人工呼吸って、どうやるんだ?口から息を吹き込んだらいいのか?

「そんなことやってる場合じゃ無いよ。君ももうじき同じようになる」

え?

空気のある所が狭まっている。

早く海の上に出ないと!

「ここに居てよ、いつの間にか1人で寂しいんだ」

嫌だよ!水の中にいたら死んじゃうのに。


上を見ると、はるか彼方に海面が見える。日の光がチラチラと照らしていて、小さな魚まで見えるのに、遠かった。


「じゃあ、僕に君を頂戴。代わりに透矢を助けてあげる。君は普通の子と違うね?僕をはっきりと認識している」

透矢を助けて!でも僕もこんな所に居られない!

「じゃあ、名前を教えてくれたら取り敢えず陸に返してあげる」


透矢の名前は知ってるのに何故僕の名前は知らないのだろう。

「読めないんだよ、君の心の奥が。こんなの初めてだ」

それだけ僕の名前は価値がある。名前を知られたら捕まるのだろう。


僕は少し迷ったが、名前をやるだけだ、全部は奪われないと思いたい。少なくとも今は。

「どうする?」

選択肢は、ない。

「古川、祥一郎です」

「しょーいちろー?」

「吉祥の祥におおざとの一郎。教えたから、地上に返して!」


男はニンマリと笑った。その笑顔に早くも後悔した。

「よろしくね、祥一郎」

「お前は?」

「そうだね、海の神様と呼んで?」

海の神様?神様がこんな酷い事するの?訳わからない。

何故僕なんだ?何故僕はこいつが見える?


いつの間にか抱きしめられている。

「ああ、やっと1人じゃなくなる。嬉しいな」

男は身を屈め、僕の額に口付けた。

途端に痺れたような痛みが広がった。

ひぃっと声が出て、もがいたが離してくれない。

身体の中に直接水を注ぎ込まれたような、全身が冷たい水に浸かった感覚がして、息が詰まりそうだ。

頬を身体に押し付けられ、男が着ていた絹らしい着物の布の感触が冷たいな、と思ったがその後の記憶は無い。

「君はもう僕のモノだ」



気が付くと病院のベッドだった。

両親は泣いて喜んでいる。

聞いた話では2人して溺れたらしい。

何ともなかったので、透矢に会いに行った。

「祥一郎⁈」


透矢は僕の顔を見るなり真っ青になってガタガタ震え出した。

「無事だったんだ、良かった」

透矢の目から涙が溢れ出す。

「ごめん、ごめんなさい、祥一郎、許して、俺のせいだ、俺のせいで化け物になっちゃった」


「な、何を言ってるの!透矢、祥一郎君は化け物なんかじゃ無いわ!」

透矢の母親が叫んだ。

「違っ、俺を助けようとして、海坊主に乗っ取られたんだ!見ろよ、青くなってるじゃないかっ!化け物にされたんだよ」


僕は慌てて自分の手を見た。

じっと見てると青く透明になってきたではないか!

もしかして、身体を取られた⁈

透矢はその後泣き喚いて暴れ出したので、僕はやむ無く退室した。


「母さん、僕って変になってる?」

母さんは僕を抱きしめた。

「なってる訳ないでしょ!透矢君はちょっと混乱してるだけだから!落ち着いたら元に戻るから!

「そう、だよね?」


僕は母さんに縋ったが、安心できなかった。透矢の言う事は合っている。

海の神様に名前をやったから、僕は彼に囚われてしまったんだ。

そして、海の神様は強い。海岸周辺で変な気配がなかったのは神様が全部消しているからだ。

僕は神様の言う通りにするしかない。

透矢を助けられたからいいか。


その後透矢一家は引っ越して行った。透矢は相変わらず情緒不安定で、特に海を見るとパニックを起こすようになったかららしい。

せっかく助けたのに、最後に会う事も叶わず、残念でならない。




僕はその後。


時々胸の中から波音がしてくるようになった。

神様の呼び出しだ。放っておくと、息が苦しくなってくる。

急いで海岸に行くと、海の神様が待っている。

抱きしめられて「会いたかった」と言われる。


小学校にいる時は呼ばないでと言ったら聞いてくれたので、放課後は1人海へ行く。

もう誰も巻き込みたくないからだ。




ある日、青年が1人やってきた。長い間海の彼方を見ていたが、服を着たまま海の中へ入って行く。

腰を過ぎたところでおかしいと気付き、声をかけたが、振り向きもせず、どんどん沖へむかう。


「海の神様!その人を浜に戻して!」

思わず叫んだが、そばで笑い声がして驚いた。

「どうして?」

横で神様は笑いを堪えながら立っていた。

「振られて傷心で死のうとしてるのに?そのままで良いよ。僕が貰うから」

「駄目だ!えっと、僕が居るんだから、もういらないでしょ⁈返そうよ!」

僕は必死で言い募ったが、青年はその間も歩みを止めず、首のところまで水が来ている。

「もう、誰の声も聞かないだろう」

「じゃあ、預かって!誰か迎えに来るまで!」


とぷん、と頭が沈んでしまった。

「ああ!!」

海の神様はまだ笑いながら

「仕方無いなあ、祥一郎がそれほど気にするなら、しばらく預かるよ。でも、誰も来なかったら僕のモノにするけど」

「絶対相手が探しに来るよ!死なせないで」

「どうだろう?まあ、祥一郎の頼みは聞いてあげるよ」


それから青年は海の底で眠っていた。



振られた相手(も男だった!だから振られたのかな)が御厨海岸に現れるようになったのは3日後くらいからだった。


僕らが見守っていると、毎日通い続けて来る。

僕の懇願が成ったのは、青年が海に入って49日目の事だった。


ちょっと僕とは違うけど、青年は蘇り、無事想いは通じたようで、帰りは2人で帰って行った。



「祥一郎は、ずっとそばにいてね」

海の神様はにっこり笑って僕を抱きしめた。

『今はね』


波が打ち寄せてきて、僕の足を濡らした。

僕は逃げる為に頑張ろうと誓った。



拙作『夕凪の帰り道 怪異と古川祥一郎』の外伝が元になってます。

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