もう一人の転生者と出会ったら中二病だった件!
翌朝。
目覚めた俺は、清潔な部屋でしばし呆然としていた。
(……ベッドってすげぇな。こんなにもありがたいもんだったのか)
昨日までは鎖に繋がれてた身。
寝返りも打てなかったのに、今じゃふかふかの布団でぬくぬくだ。
だが、ぬくぬくしてる暇はない。
「おい、起きているな。行くぞ、転生者」
ドアがノックもなく開き、衛兵がやってくる。無骨な顔に感情はない。
「……おはようございます」
「黙ってついてこい」
(相変わらず雑だな、この世界の接客は……)
連れて来られたのは、訓練場のような広場。そこに立っていたのは、一人の青年。
黒髪、痩せ型、ボサボサ頭。背丈は俺より少し低いくらい。
(こいつが、もう一人の転生者?)
「……ふふ、ついに会ったな、“同胞”よ」
「……え?」
「貴様の目……世界の歪みを見てきた者の眼差しだ。間違いない、我らは選ばれし存在、次元の調律者……」
(……え、こいつやべぇ?)
「えっと……名前は?」
「俺の名は“黒き残響のアーク・レイヴン”……だが、お前には特別に、本名の“斎藤優斗”と教えてやろう」
(中二病だぁぁぁぁぁぁぁ!!)
38歳の俺と、明らかに高校生くらいの優斗。
この時点で色々な意味で格差がある。
「えーっと、優斗くん。もしかして君も……」
「そう、転生者だ。元の世界では俺は“孤独な召喚士”として裏社会を渡っていたが、この世界でその力がついに解放されたようだな……」
「なぁ、真面目な話、君って引きこもりだった?」
「……否定はしない」
(だよな!)
「でさ、あの白い空間にいたとき、誰かの声、聞いたよな?」
「“魂を選ばれし者”ってやつだろ?あれは神か、あるいは世界そのものの意思だったのかもな」
「……まぁ、たぶん似たような体験してるな、俺ら」
そう言って、互いに軽く笑った。
(こいつ、めんどくせぇけど、悪いやつじゃなさそうだ)
「で、俺らってこれからどうなるんだ?」
「“魔王を討伐せよ”だとさ。……なぁ健人、聞いたか? 魔王の配下には“転生者を殺せる力”を持つ者がいるらしい」
「は?マジかよ……」
「しかもな、そいつら、“失敗作”の転生者って噂もある。つまり俺たちと同じように来たのに、捨てられた者たちだ」
「……失敗作?転生って、そんなシビアなもんなのか?」
「知らねぇ。でもな、“誰が敵か”は、ここじゃわからないぜ。味方のフリして裏切る奴も、きっといる」
(この中二っぽい言い回し、案外核心ついてるのが怖ぇな)
「そういやさ、優斗。君の“能力”ってなんなんだ?」
「ふふ……見せてやるよ、“闇に舞う影よ、我が手に宿れ——シャドウ・チェーン!”」
すると、彼の影から黒い鎖のようなものがスルスルと伸び、地面の石を握りつぶした。
「えっ、何それ超こえぇ!」
「影を操る能力……この世界では“深淵の系譜”とか呼ばれてるらしい。使い方次第じゃ、町一つ潰せるぞ」
「なぁ、それもう絶対パーティーに入れてほしい系能力だろ!てか俺まだスキル判明してねぇんだけど!?」
「大丈夫さ健人。“最初に開花する能力が弱くても、魂が強ければ進化する”って、昨日のおっさん(=魔術師)が言ってた」
「おいその理論、RPGっぽくて安心するやつじゃん!」
その後、俺と優斗は“転生者特別隊”に編入されることになった。
同じように集められた何人かの転生者がいるらしい。
“失敗作”たち、
“魔王”、
そして“この世界に転生者を送り込んだ存在”。
わからないことだらけのまま、俺の“異世界ライフ(囚人スタート)”は、仲間とともに少しずつ動き始めた——。
見てくれてありがとうございました。
次回もお楽しみに