第九話 タケル、奏でる、恋する
カモメの神技『ミラクルスパークル・ボンデージ』が発するピンク色の電流を流され、タケルは苦しげに息を吐いた。
しかし、その瞳はまだ負けていない。
(神様たちを楽しませる……カモメさんが昔、美少女戦士バンブーンとしてみんなを楽しませたように……!)
タケルはゆっくりと、竹馬の蹄に意識を集中させた。
拘束されたままでも、足先はわずかに動かせる。タケルの竹馬が、小さくリズムを刻み始めた。
トン、トン、タン、トン、タン
その音は、妙に懐かしい旋律を奏で出す。
観客席がざわめき始めた。カモメの眉がピクリと動く。
「まさか……そのリズムは……!」
そう、それはかつてカモメの活躍を題材に作られたテレビアニメ『竹馬美少女戦士バンブーン』の主題歌のビートだった。
すると、どこからともなく流れ出す歌声……。
♪ 竹馬キラリと 立ち上がれ
夢と希望と体重を 竹に乗せ
悪を蹴散らせ バンブーン!
悶絶必死のチェーンアクション!
竹と平和を 守るため
跳べ! 殴れ! バンブーン!♪
懐かしいメロディがフィールドに響き渡った。
ちなみにタケルやユレルは再放送世代だ。
「な、なにこれ……」
カモメは動揺した。
神々の光が少しずつ、彼女からタケルへと移り始めていたのだ。
天馬雷鳴号が状況を冷静に解析する。
「観測、神々の歓声の一部が渚カモメから竹重タケルへ移動開始。原因、懐古的共鳴による感情移入と予測」
夏雄は静かに微笑んだ。
「その調子です、タケルさん。神々は“楽しい”を求めています」
フィールド上では、タケルがチェーンに巻かれたまま、竹馬のステップをどんどん軽快にしていく。
拘束を逆手に取ったダンスのような動きに、神々の歓声がさらに高まっていく。
「ま、待って……私の神様たち……!」
カモメは焦燥感に駆られながら、タケルを見据えた。
タケルの身体を取り巻く神々の歓声の光は、次第にピンクから青白く輝き始める。
「これが……神様たちを楽しませるってことなんだ!」
タケルの竹力が、さらに強く燃え上がっていった。
タケルの竹馬が胸躍るリズムを刻むたび、神々の歓声はさらに増していく。青白い光が天馬雷鳴号の全身を包み込み、やがて機体そのものが震え始める。
「タケル! 神技、発動可能だ!」
天馬雷鳴号の声が響いた。
タケルは歯を食いしばり、両脚に力を込める。
「いくぞ……天馬の蹄!」
ブワァァァン!
青白い光が一気に膨張し、竹馬の両脚がまるで天馬の後ろ脚のように輝く。拘束していたチェーンが爆風に弾き飛ばされ、タケルの身体が解き放たれる。
「なっ……!?」
カモメは驚愕の声を上げる暇もなく、タケルがフィールドの障害物をステップで駆け上がる姿を目にした。
タケルの竹馬がまるで舞うように跳躍し、空中から彼女を捉える。
「これが俺の竹馬だあああっ!!」
ズドォォォォォン!!
青白い衝撃波を伴う一撃がフィールド中央に叩き込まれた。着地と同時に起きた衝撃波が、カモメの足元の地面を爆ぜさせ、バランスを崩したカモメの身体を宙に浮かせる。
「きゃああああっ!!」
カモメは制御を失い、舞い上がった瓦礫の間を翻弄されるように飛ばされる。
そして後方にそびえ立つハート型の岩に、背中から激突した。
ドガァンッ!!
舞い上がった粉塵の中で、地面に崩れ落ちるカモメ。
チェーンは完全に断ち切られ、ミラクルバンブーの装甲も小さく火花を散らしていた。
フィールドが静まり返る。
そして、法螺貝が鳴り響いた。
ボォォォォォーーーッ!!
『勝者、竹重タケル!』
タケルは荒い息をつきながらも、勝利の余韻を噛み締めていた。
夏雄と竹丸、ユレルもそれぞれ満面の笑みで手を取り合う。
「やりましたね、タケルさん!」
「やったウマ! ウマウマ!」
「また小刻みしちゃう!」
カモメは崩れ落ちたまま、肩を震わせて泣いていた。
敗北の悔しさ、そして長年抱え続けてきた孤独が、一気にあふれ出したのだ。
「はぁ……はぁ……私……ダメだった……若返るどころか……」
そのときだった。
フィールドの端からゆっくりと歩み寄る長身の男が現れた。
緑のタキシードに竹をモチーフにしたシルクハット、顔の半分を仮面で隠し、マントを翻す。
だが、マントの下から覗く腹部は年齢を物語るようにふくよかで、少々締まりを欠いていた。
「バンブーン……」
男の低く甘い声が響いた。
カモメは涙で濡れた目を見開く。
「あなたは……タ、タキシード・カメレオン!」
そう、彼はかつてバンブーンと共に悪と戦った伝説のヒーロー。カモメの相棒であった。
カメレオンはゆっくりと跪き、カモメの手を優しく取る。
「長い間、言えなかった……ずっと君のことが好きだった」
カモメの胸が大きく波打った。涙の粒が頬を転がる。
「カ、カメレオン……」
「年齢なんて関係ない。君の青春は、今ここから始まるんだ」
カメレオンの言葉に重なるように、上空から神々の小さな祝福の光が降り注いだ。まるで二人の新たな門出を祝福するように。
「……私、恋しちゃっていいの? これからの人生、あなたと……」
カモメは頬を赤らめ、乙女のように微笑んだ。
その様子を少し離れた場所から見つめるタケルは、ぽかんと口を開けていた。
「え、ええっと……これは……何が起きてるんだ?」
タケルの戸惑いに、天馬雷鳴号が静かに応じる。
「新たなラブ・ロマンスの発生を確認」
完全に置いてけぼりのタケルたちをよそに、大人の恋は静かに始まろうとしていた。




