第三十二話 持久戦
斎藤のミサイル群が空を裂く猛禽類のように急降下してタケルへと殺到する。
轟音と爆炎が連続し、フィールドはまるで戦場のようだ。飛散した障害物の破片が降り注ぐ。
その爆発の中心で、タケルは竹馬の蹄を踏み締めて立っていた。
左右の竹馬から展開した翼から撒き散らされる光の羽根が円環を描き、迫りくる爆炎を受け止める。
ミサイルの破片が羽根に触れた瞬間に霧散し、閃光が瞬くたびに羽根は一枚、また一枚と消えていった。
観客席からは悲鳴と歓声が入り混じる。視界は爆煙に遮られ、誰もが「次こそ直撃だ」と息を呑む。
しかし煙の中から現れるたび、タケルはまだ立っていた。
「これが天馬の翼の力……」
汗を滴らせながら、タケルは神技が生み出した新たな可能性に驚きを感じていた。
それと同時に、その身体を覆う疲労は重く、神技の維持にかかる負担は確実にタケルを削っている。
サポート席のユレルがモニターを見つめながら顔を歪める。
「タケルに蓄積されている神々の歓声エネルギーが、どんどん消費されてるわ! このままじゃ、枯渇して神技が消えてしまう!」
彼女の隣で、夏雄が指先を顎に当てて冷静に分析した。
「これは持久戦ですね。タケルさんの歓声エネルギーが先に尽きるか、あるいは斎藤のミサイルが底を突くか……まさに消耗の戦いです」
ユレルは思わず声を荒げた。
「消耗なんて、タケルに不利すぎるじゃない! 斎藤はミサイルを撃ちきってもほかの攻撃手段があるはず。でもタケルは……」
「ええ、しかし……」と夏雄は苦く笑みを浮かべた。
「タケルさんがミサイルを防ぎ切れば、それは八百万の神々の興味を引きつけることになる。そうなれば、必ず次の展開につながります」
会場を震わせる轟音の中、タケルの耳に天馬雷鳴号の落ち着いた声が届く。
「耐えろ、タケル。我らはすでに神々の心を惹きつけている。決して下を向くな」
「わかってる……! 負けてたまるか!」
タケルは叫び、爆風を正面から受けながらも竹馬を強く握りしめた。
ミサイルは途切れることなく襲い掛かる。
地面は爆撃痕でクレーターだらけになった。羽根は次々と散り、残された光の数は目に見えて減っていく。
タケルの呼吸は荒く、喉は焼けつくように乾いていた。足も痺れ、筋肉は悲鳴を上げる。
「クソッ、俺の身体も限界だ!」
「諦めるな、タケル! お前が神技を信じないと、神技も味方にはならない」
追い詰められているのはタケルだけではない。斎藤もまた限界に近づいていた。赤いセンサーが点滅し、無機質な声が響く。
「……弾薬残量、僅少。学習効率、低下」
観客の歓声が一段と高まる。誰もが決着の時を感じ取っていた。
さらに数十発。最後の弾幕が光の羽根に叩き込まれる。
爆炎が渦巻き、タケルの視界は白く焼かれた。残る羽根は、わずか三枚。
「やばい……もう身体が……それでも!」
そして――。
斎藤が冷徹に告げた。
「ミサイル残弾……ゼロ」
フィールドに一瞬の静寂が訪れた。
観客が息を呑む。
煙が晴れ、まだタケルは無傷で立っていた。
体中に汗と煤をまとい、光の羽根は数枚しか残されていない。それでも彼の瞳は決して揺るがなかった。
タケルは深呼吸し、天馬雷鳴号へ問いかける。
「天馬……『天馬の蹄』は発動できそうか?」
天馬雷鳴号は荘厳な声で答えた。
「可能だ。タケルは斎藤の猛攻をすべて防ぎ切った。その粘りと勇気は、神々の心を大いに震わせた。今、この瞬間――神々の歓声は、さらに強くお前に集まっている!」
「よし……!」
タケルは天馬雷鳴号の柄を握りしめ、叫んだ。
「だったら一気に決めるぞ!『天馬の蹄』で!」
タケルは竹馬を強く踏み込み、全身に集めた力を解放した。
「うおおおおおおっ!!」
次の瞬間、竹馬の脚が爆ぜるように輝き、天へと跳躍した。
障害物を遥かに越え、天に浮かぶ太陽を背にしたその姿は、まさに伝説の天馬そのもの。
左右の竹馬から展開する翼がさらに大きく広がり、タケルの身体を持ち上げる。
下から見上げる観客は誰もが息を呑み、サポート席の竹丸が小さな拳を握る。
「タケル、頑張るウマ!」
夏雄は瞳を輝かせ、紳士的な口調で呟いた。
「ここからが決戦の一手……!」
ユレルは祈るように両手を握り、目を閉じた。
「タケヤスさん、タケルを守って!」
みんながタケルを見守っていたが、ラボのジョニーだけは違った。
「ワオ! 試合に夢中になり過ぎマシタ。自慢のミートパイ、少ーしコゲてマース!」
慌ててオープンからミートパイを取り出していた。
そしてタケルは、煌々と輝く竹馬の脚を振り下ろす構えを取った。
「決めるッ! 『天馬の蹄ッ』!!」
戦場は静まり返り、次の瞬間を待つ熱狂と緊張に包まれた。




