第三十一話 サイボーグの斎藤
竹馬闘戦、第六試合。
標準的な障害物が設置されたフィールドにタケルと対戦相手が配置に着くと、観客席からはどよめきが広がった。
タケルの前に立つのは、サイボーグ社員・斎藤。
銀のメタリックボディが陽の光を反射し、不気味な輝きを放つ。
腕や脚からは油圧音と電子音が混ざり合った駆動音が鳴り響き、その存在感はただの人間とは明らかに異なっていた。
「なんだよ……こいつ、本当にロボットなのか?」
タケルが目を見開く。
「八百万の神々が息づく世界です。サイボーグがいたとしても不思議ではありませんよ、タケルさん」
サポート席にいる夏雄が涼やかに答えた。
夏雄の言葉に続くように天馬雷鳴号の電子音声がタケルの耳に響く。
「対戦相手の公開データを受信完了。彼は皇コンツェルン所属のサイボーグ社員・斎藤。全身に兵装を搭載し、身体能力は人間を凌駕。使用竹馬はスメラギ改02。端的に言うと高性能危険個体だ』
「皇コンツェルン……なんか聞いたことあるような……?」
タケルが眉を寄せる。
「予選最終戦で戦った相手が所属していた企業よ。まさかサイボーグまでエントリーさせていたなんて……。うちのラボでは人間型ロボットはまだ開発段階なのに」
ユレルが悔しそうに親指の爪を軽く噛む。
タケルはにやりと笑みを浮かべ、竹馬の柄を握り直した。
「人間だろうがロボットだろうが関係ない! 倒すだけだ!」
ブオオオオオオオッ……!
開戦の法螺貝が大気圏ギリギリまで響き渡る。
それと同時にタケルは一気に前へ跳び出し、右の竹馬を槍のように突き出す。
風を裂く轟音とともに攻撃が叩き込まれ、斎藤のメタルボディに激しい金属音が響き渡った。
火花が散り、観客席からは「おおっ!」と声があがる。
その様子をラボのモニターで観戦していたジョニーが、身を乗り出しながら語り出した。
「特訓の成果出てるヨ、タケル! 竹馬は棒術の正統ナ祖先デース!」
「……は?」とユレルが思わずモニターに映るラボのジョニーを見る。
ジョニーは両手を胸に組み、厳かに頷いた。
「棒術は一本の棒、万能の武器。突キ、薙ギ、受ケ……その始まりは竹馬デス! 二本ノ棒、握リ、操ル。左右の竹の連携、無限ノ変化。タケルのストロングな竹力が棒術ノ真髄を会得シテイル! これは必然……運命的融合デース!」
ユレルは額に手を当て、ため息をついた。
「……こじつけにもほどがあるわよ、ジョニー兄さん」
だが、試合場のタケルはジョニーの解説を聞く余裕もなく、果敢に斎藤へ連撃を浴びせていた。
右の竹馬を叩き込めば、左で防御を崩し、すぐさま回転して蹴りと同時に突きを加える。竹馬を手足の延長のように扱うその戦いぶりに、観客席もますます熱気を帯びる。
斎藤は初め、防戦一方だった。
金属の腕でガードし、シールドを展開して凌ぐが、タケルの猛攻にじりじりと押し込まれていく。銀色の装甲にはすでにいくつか凹みが刻まれていた。
その時、斎藤の目が赤く点滅した。
「攻撃パターン学習完了」
刹那。
タケルが突き出した竹馬が、するりとかわされた。
空を切る竹馬。反撃とばかりに、斎藤の金属の拳が鋭くタケルの間合いへと突き込まれる。
「なっ……!」
タケルは反射的に竹馬で防御に回ったが、衝撃は重い。骨まで痺れるような振動が腕に伝わった。
さらに斎藤の声が無機質に響く。
「次の攻撃も回避可能」
斎藤の言葉に苛立ちを覚えたタケル。
「可能かどうか受けてみろ!」
右の竹馬を真横に振るうが、その攻撃は虚しく空を切った。
「チッ、またかわされた!」
返す竹馬で放たれるのは、斎藤の鋼鉄の拳。重い衝撃が竹馬を通じてタケルの腕を痺れさせる。
斎藤の両目にある赤いセンサーが冷たく瞬き、機械的な声が響いた。
「学習進行中……反撃効率、向上」
その宣告通り、タケルが攻撃を重ねるほど反撃を受ける割合は増えていった。
観客席もざわめき、押されるタケルに焦燥が漂い始める。
そのとき、天馬雷鳴号が淡々と助言した。
「タケル、冷静になれ。距離をとり、体勢を立て直すのだ」
「……了解!」
天馬雷鳴号の言葉に落ち着きを取り戻したタケルは一気にバックステップ。天馬雷鳴号の蹄がフィールドを擦り、土ぼこりを散らしながら数メートル後退した。
だが間合いを開いた刹那、斎藤の声が轟く。
「反撃開始します」
直後、金属音を伴って斎藤の胸部や肩部、太腿の外殻が開く。
ぎっしりと詰め込まれた小型ミサイルがポッドから覗き、赤い光を瞬かせて起動した。
その攻撃の予備動作を分析していた夏雄が鋭く警告を放つ。
「タケルさん! あのミサイルは神技ではない! 神々の加護によるダメージ軽減がありません! 直撃すればただの物理的破壊を受けます。避けてください!」
「マジかよッ!」
夏雄の警告と同時に、斎藤の全身から無数のミサイルが乱射された。
火炎と白煙を吐き出しながら四方八方に飛び散り、空を裂く轟音と共にタケルを包囲する。
タケルは竹馬を操り、鋭いステップで弾幕をすり抜ける。
だが、連続する爆発による風圧が彼の身体を翻弄した。耳を裂く衝撃音、視界を白く焼く閃光。
「ぐっ……うわあッ!」
爆風に煽られた体勢が大きく崩れ、足元が浮く。
バランスを取り戻そうと竹馬を突き立てるが、次の瞬間には更なる爆炎が背後から迫った。
夏雄の隣でミサイルの軌道パターンを必死に分析していたユレルが顔を蒼白にして声を上げる。
「まずいわ……! 今のタケルじゃ、避けきれない!」
竹丸も泣きそうな声で叫んだ。
「タケルが吹き飛ぶウマ!」
観客席も悲鳴とざわめきに覆われ、試合場全体が炎と煙に包まれた。
爆煙が濃く渦巻き、誰もがタケルの敗北を疑わなかった。
――だが。
爆煙が風に流され、視界が晴れたとき、そこに立っていたのは無傷のタケルだった。
タケルの左右の竹馬からオーラの翼が展開されていた。
半透明の光の羽根が何十枚も空中を漂い、彼の周囲を守る結界のように配置されている。
光の羽根はミサイルの破片や爆炎を受け止め、次々に霧散しては新たに生み出されていく。
タケルは額の汗を拭い、息を整えながら笑みを浮かべる。
「ふぅ……コメオとのバトル後に思いついた天馬の翼の応用技だけど、ちゃんと形になったみたいだな」
光の羽根がひらめき、周囲に幻想的な光景を描く。まるで戦場に舞い降りた天馬を思わせた。
サポート席で夏雄が目を輝かせながら感嘆の声を上げる。
「……なるほど。あの“ハーレム・ビット”から着想を得て、羽根を防御のフィールドに転用したのですね! やはりタケルさんの竹馬は想像以上に面白い!」
炎と破壊の雨を凌ぎ、光の羽根を纏う少年。
観客席の熱狂は最高潮に達し、タケルの反撃の時を誰もが期待していた。




