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第三話 水と火の美少年

 八百万の神が会場の上空に集うと、フィールドがゆっくりと光に包まれた。

 観客の歓声が渦巻くなか、タケルと冬野夏雄が円形ステージの中央で対峙する。


「竹重タケルさんですね」


 涼やかな声が音楽を奏でるように響く。

 夏雄は濡れたようなまつげの下から優しく微笑み、礼儀正しく一礼する。

 紅と蒼の竹馬を軽やかに操り、その立ち姿は貴族のような気品が宿っていた。


「……ああ。お前が冬野夏雄か」


 タケルも一歩前に出て、軽く会釈する。その目には闘志の光が宿っていた。


「あなたの戦いは予選で拝見しました。とても情熱的な竹力をお持ちですね」

「な、何をいきなり……」


 突然の称賛にタケルがわずかに動揺する。


「でも、今日は僕が勝ちます。水と火のダンスをお見せしますよ」


 夏雄の竹馬がきらりと輝く。


「上等だ! 全力でぶつかるぜ!」


 タケルの拳がぐっと天馬雷鳴号の柄を握った。



 ブオオオオオオオッ……!」


 開戦の法螺貝が大気圏ギリギリまで響き渡る。

 観客席の熱気が一斉に爆ぜたかと思うと、バトルフィールドに緊張が走る。


「いくぞ……天馬!」


 タケルが叫ぶやいなや、天馬雷鳴号の蹄が地面を砕き、突風のように飛び出した。

 重力を無視したような加速、それは開幕全力の無謀ともいえる突撃。


「タケル、冷静になれ。その突進、無策だ」


 天馬雷鳴号がタケルの動きに反応し、即座に警告を飛ばす。


「構うもんか! 神技が使えないんだ。勢いで押し切るしかないだろ!」


 タケルは叫びとともに高く跳ねる、だが……。


「……残念です。あなたの竹さばきには気品が欠けています」


 失望の色をはらみ、冷たく微笑んだ夏雄が左の竹馬「紅翼」を地に叩きつけた。


「炎の舞、纏火まといび


 ゴウッ

 燃え上がる紅蓮のベールが夏雄の身体を包み込む。

 まるでダンスを踊るような優雅な構え。

 タケルの突進が、その炎の壁に衝突した。


「うわぁぁぁぁ……!」


 炎の反発で吹き飛ばされるタケル。

 どうにか空中で体勢を立て直し、辛うじて竹馬で着地するも足元がぐらつく。


「くうぅ……!」


 タケルの全身から煙が上がる。


「強い突撃こそ、柔らかく受ける。それが美しいバトラーの所作です」


 まるで闘牛士の姿を幻視させる夏雄は、あくまで静かで余裕すら漂っていた。

 炎に当てられ、タケルの汗が蒸気に変わる。


「あなたの舞いはもう終わりですか。次は僕の番ですね」


 夏雄が優雅に右足を前へ踏み出す。その竹馬「水蛇」が青く光った瞬間、空気が震える。


「濁流――水牙すいが


 ズオオオオオッ!!


 轟音とともに、突如としてフィールドを覆う濁流が出現した。

 水が蛇のようにうねり、タケルに襲いかかる。

 冷気を帯びた大量の水が、まるで凶暴な生き物のように勢いを増す。


「くっ、避けきれない!」


 タケルは跳び退るも、足場が濡れ、バランスが崩れる。

 天馬雷鳴号が警告を飛ばす。


「相手の攻撃を見極めろ。タケル、冷静になれ!」

「分かってる……でもどうすりゃいいんだよ!」


 焦りがタケルの胸を締めつける。

 その時、脳裏にジョニー・コキザミの言葉が蘇った。


 《神技ッテノハ、神サマヲ楽シマセルコト、ナノダヨ!》


 タケルは記憶力があまりよくない。

 ジョニーの言葉を正確には思い出せなかったが、言われたことはそんな感じの内容だった。


「神様を……楽しませる?」


 視線が一瞬、フィールドの障害物を捉えた。

 段差、跳ね台、回転柱――そこに竹馬の「遊び」が詰まっている。


「そうか……分かったよ、ジョニー!」


 タケルが笑った。


 次の瞬間、濁流の中へと竹馬を突っ込ませる。ステップを刻み、回転柱に飛び乗る。竹馬が弾み、着地、反転した。滑り台状の傾斜を滑り降り、着地した直後、跳ね台で大ジャンプ。


「ハハッ……これだ! 竹馬ってのは、楽しいんだ!」


 水飛沫の中、タケルが舞う。

 障害物を駆け、空を跳び、まるでフィールド全体で踊るように、はしゃぐように。


 会場の遥か上空から風の音に混じり、声が聞こえた気がした。


『いいね、その舞い。ボクたちは好きだよ……』


 八百万の神の数体がタケルに微笑む。


 タケルが身体を預けている天馬雷鳴号がまばゆい青に輝く。


「八百万の神々の歓声を確認! 神技、使用可能。今だ、タケル!」

「……来たか、ついに!」


 不敵な笑みを浮かべたタケルの周囲に風が巻き上がり、空が鳴る。


「美しい……ですが、僕の舞いの方が優雅です」


 夏雄が紅蓮のベールを展開する。だがタケルは臆することなく蹄を強く踏み込んだ。


「いっけぇー! 『天馬の蹄』!!」


 蒼光が爆ぜ、竹馬が空を駆ける。荒々しい天馬の幻影を纏ったタケルが神速の一撃を繰り出す。 

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