第二十九話 タケルの最適解
「なるほど、タケルさんの装束がまだ決まっていないのですね」
ラボに入ってきた夏雄は、タケルたちの話を一通り聞くと、静かに頷いた。
「でしたら、僕にひとつ、思い当たるものがあります」
そう言って、夏雄はスマホで冬野グループに連絡する。
数分後、執事が運んできた細長い木箱をそっとテーブルに置いた。
紐をほどき、蓋を開けると、なかから現れたのは……
「……な、なにこれ?」
タケルが目を丸くして言った。
そこには、まるで毛皮を裂いて束ねたような腰蓑が収められていた。粗く織られた縄と獣の皮が組み合わさり、まるで太古の衣装そのものだった。
「さあ、タケルさん。試着してみてください」
「えっ、ええっ!? これを? 今?」
「もちろんです。これは正統なる竹馬闘戦の伝統に則った装束ですから」
促されるまま、タケルはしぶしぶ更衣室へ向かい着替える。
そして、腰蓑を巻き、上半身は素肌のままラボの中心に立った。
その姿は、どう見ても石器時代の戦士。むき出しの上半身。腰に巻かれた皮と縄だけが衣服の役割を果たしている。
「はだか祭りウマ?」
竹丸が目をむく。
「ちょっと、さすがに布面積が低すぎない?」
ユレルは小刻みに振動しながら目を逸らした。
当のタケルはというと、目を伏せ、頬を赤くして両手で腰蓑を押さえていた。
「な、夏雄……これ、パンツないと、無理……!」
情けない声で訴えるタケルに、夏雄は眉をひそめるどころか、むしろ満足げに微笑んだ。
「ご安心を。これは正真正銘、歴史的意義のある装束です。竹馬バトルの起源は石器時代。祭事の一環として行われた神への舞いです。男たちは竹馬に乗り、腰蓑一枚で踊り、天に祈りを捧げていたのです」
「そ、そんなルーツが……?」
ユレルが驚いて目を見開く。
「こちらは、かつて富士のふもとの神殿跡で発掘された壁画をもとに、忠実に再現したものです」
「なんかスケールがデカいウマ!」
竹丸が目をぱちくりさせる中、タケルはうつむいたまま、ふるふると首を振った。
「無理……無理だって! こんな格好でバトルなんてできない! だって俺、パンツ履いてないんだぞ!」
思わず声を上げるタケル。その頬は羞恥で赤く染まり、肩を震わせていた。
「しかしタケルさん。パンツの概念がなかった時代、人々は羞恥を知らず、自然と向き合っていたのです。今こそ、あなた自身も真の自然と繋がるべきです」
神妙な顔で言い切る夏雄。
ラボの空気が一瞬、凍った。
「……それ、どんなスピリチュアル思想……」
ユレルのツッコミが、ラボの静けさを破った。
「と、とりあえずもっとまともな服を探そうウマ!」
そっとタオルをタケルに渡す竹丸。
そのとき、ラボの台座に鎮座している天馬雷鳴号が言葉を発した。
「……タケルのバトラー装束について、提言がある」
無機質だがどこか説得力を感じさせる口調。ユレルが手を止め、タケルと竹丸も思わず身を乗り出した。
「タケルの過去の戦闘データ、神技発動時の肉体パラメータ、心拍変動、汗腺活動量、筋繊維の弾性分布。すべて記録済みだ」
淡々と語られる情報の羅列に、タケルがぽかんと口を開ける。
「なんか、めっちゃ細かく見られてたんだな、俺……」
「そこから導き出した、タケルの戦闘に最適な装束の構成データをユレルのパソコンに送信する」
ピ、と小さな電子音が鳴ると、ユレルのパソコンが自動的に起動し、ディスプレイに装束の3Dモデルが映し出された。
その瞬間、ユレルの目が見開かれる。
「……え? これ……」
短い沈黙のあと、彼女は素早くパソコンに向かい、いくつかのデータを確認する。
「……了解。明日までに用意するわ」
その声は妙に落ち着いていたが、内心は嵐のようにざわめいていた。
そして翌日。
「ジャーン! できたぞー!」
ラボの中央に立つタケルが、新たなバトラー装束を身にまとって現れた。
それは、驚くほど「いつもの服」と変わらなかった。
赤いTシャツに、カーキのハーフパンツ。少し擦れたスニーカー。強いて言えば、シャツの裾に小さくマークがある程度。
「……あれ? これ、俺が普段着てるやつ?」
タケルが不思議そうに袖をつまむ。
ユレルは慌てて前に出て、即座に説明を始めた。
「ちがうちがう、見た目は似てるけど中身は全然別物! 特殊な繊維でできてて、温度調節、衝撃吸収、神技の出力伝導まで全部組み込まれてるの!」
「へぇーすげぇ!」
タケルは素直に目を輝かせた。
「似合ってますよ、タケルさん」
夏雄が柔らかく微笑む。
「やっぱそれがタケルっぽくて安心するウマ!」
竹丸も頷く。
タケルは照れ臭そうに頭をかきながら、くるりと一回転してみせた。
「ふふん、これなら思いっきり戦えそうだな!」
その姿を見つめながら、ユレルは内心で深く息をつく。
(……どうして、どんな高機能素材よりも、どんなデザインよりも……ユニむらのセールで買ったTシャツとハーフパンツが“最適”って出るのよ……)
言えるわけがない。いや、言ってはいけない。
「ま、まあ……うん、バッチリよ!」
ユレルはぎこちなく笑いながら、タケルの背中をそっと押した。
こうして、“最適”で“最強”なバトラー装束を身にまとったタケルは、新たな戦いへと歩み出すのだった。




