第二十八話 タケルにも衣装
この数日、第六試合の入電がなく、ラボの空気は緊張感のかけらもなくなっていた。
モニターが並ぶ壁際で、タケルは椅子にだらしなく座り、携帯ゲームに没頭している。
タケルの服装はいつもの通り。
色あせた赤いTシャツに、カーキ色のハーフパンツ。
そのどちらも、バトルの激しさを物語るかのように、裾や肩口がところどころ破れている。
「……タケル、また同じ格好なの?」
その背後で端末を操作していたユレルが振り返り、じろりと睨むように言った。
「え? 別にいいじゃん。動きやすいし、慣れてるし」
タケルは気にした様子もなく、笑って肩をすくめる。
「でもボロボロだよ。竹馬バトラーなんだから、もう少し見た目も気を使いなさい」
「そーだウマ! ちゃんとしたバトラー装束を着るべきウマ!」
竹丸もトコトコと近づき、タケルの裾をつまみ上げた。
「いやいや、俺、兄さんの代わりに竹馬闘戦に出るって決まったの急だったからさ。そういうの用意してなかったんだよ」
タケルが手を広げて答えると、ユレルはため息をつく。
「だったら、作るしかないわね」
「えぇー。面倒くさそう……」
「見た目って意外と大事よ。神々の歓声って、実力だけじゃなくて印象にも左右されるんだから」
ユレルが鋭く指摘すると、タケルは一瞬「うっ」となり、口を閉じた。
彼女の言うことに一理あるのは、さすがにタケルもわかっている。
そこへ、ラボのドアがウィーンと音を立てて開いた。
「ヘイヘイ! バトラー装束、いるデースカ?」
ジョニーがサングラスをキラリと光らせながら、軽やかに登場する。
「えっ、あるの?」
タケルが身を乗り出すようにして問うと、ジョニーは親指を立ててにやりと笑う。
「モチのロン! ジョニーの秘密倉庫に、バッチリ完備ダヨ! 実用性とカッコよさ、兼ね備えた、夢のバトラー装束デース!」
「おおっ!」
思わずタケルの目が輝いた。
「ちょっと待って。ジョニー兄さんが選ぶってことは……」
ユレルが眉をひそめるが、タケルはもう聞いていなかった。
ジョニーが持ち込んだ大きなキャリーケースがラボの床にゴトリと置かれる。
「フフフ……ついに日の目を見たデス! ジョニー特製、次世代型バトラー装束・第一号ッ!」
得意げな笑みとともに、ジョニーがケースを開けると、中から現れたのは艶やかな黒を基調とした、ダイビングスーツのようなタイトな装束。
肩と胸、そして膝にはメカニカルな意匠のプロテクターが装着されており、どこか近未来の戦闘服を思わせる。
「え……意外と……まとも?」
ユレルが目を細め、まじまじと装束を見つめた。
「ジョニー兄さんが、変なコスプレ衣装じゃなくて……ちゃんとしたの持ってくるなんて……」
「失礼な! これは実戦用デース!」
ジョニーは胸を張り、タケルたちに説明を始めた。
「表面素材は、衝撃吸収ジェル繊維を内包した多層構造! 耐熱・耐圧・防水・さらには通気性もバッチリ! 肩と胸部のプロテクターは内部にアシスト機構があって、竹馬の操作を加速する補助力を……」
「うおー! すっげーじゃん、それ!」
タケルが目を輝かせて飛びついた。
「これ着たら、タケルはパワーアップ間違いなしウマ!」
竹丸もピョンと跳ねて装束の上に飛び乗る。
「よっしゃ、さっそく着てみようっと!」
タケルは勢いよく装束に手をかけて持ち上げ――
「うっ……ぐっ……お、おも……」
装束はびくともしなかった。
「え? 動かない……?」
両手で持ち上げようとしても、装束は床にへばりつくようにびくともせず、タケルは顔を真っ赤にしながらふんばった。
「ちょ、ちょっと待って……これ、マジで重い……!」
「そ、そんなに!?」
ユレルが慌ててタブレットで計測を始めた。
「これ、乾燥重量で42キロ超えてるわよ! 12歳のタケルが着て動けるわけないじゃない!」
「そんなはずないデース! 重量分散用のナノスタビライザーも内蔵してるのに……あっ、壊れてマース」
ジョニーが頭をポリポリ掻いた。
「……いつも通りだったウマ」
竹丸がぺしっと装束を叩いてため息をついた。
「仕方ないわね……」
ユレルは少し迷ったあと、奥のロッカーを開いた。
「私が以前、気まぐれで作った装束があるから、使う?」
「えっ、ほんとに?」
タケルが駆け寄ると、ユレルはそっと取り出した――
ひらひらと揺れる、極端に布面積の少ない紐のような装束。
露出が多すぎて、どこをどう着るのかわからないそれに、タケルは顔をひきつらせた。
「うわっ……これって、どこが前?」
「アダルトすぎるウマ!」
竹丸が慌てて装束を奪い取り、ロッカーにしまい込んだ。
「いや、ちょっとセクシーにしようとは思ったけど、そこまでは……」
ユレルが頬をかきながら照れ笑いしたその時、
ラボのドアが、静かに開いた。
「何やら……騒がしいようですね」
スーツ姿の夏雄が、落ち着いた足取りで現れた。
「おおっ、夏雄!」
タケルが振り返って手を振る。
タケルに激甘な夏雄。果たして彼は何を提案するのか――。




