第二十五話 ラブコメの本質は“選ばないこと”
サポート席の夏雄が腕を組み、画面に映るタケルとコメオの戦いを分析している。
画面の中では、コメオの周囲を取り巻く4人の美少女が、タケルの攻撃からコメオを庇い、時にはビームで反撃するという異様な展開が続いていた。
その様子を一瞥した夏雄が、口を開く。
「やはり現実的じゃないですね。あのように同じ男性を好きな女の子たちが、揃って仲良くしてるというのは」
隣にいたユレルが目を細めて、首をかしげる。
「フィクションのラブコメってだいたいそういうのが多いけど……実際はドロドロするわよね、絶対」
ユレルの言葉に夏雄は眉を動かす。
「ラブコメは“くっついたら最終回”がセオリーですから、本命を決めないで引き伸ばすことで連載を続けています。……少年漫画では特にその傾向が強い」
夏雄の呟きに、ユレルはピシャリと返した。
「でもそれって、男として最低じゃない? 本命を選ばず、全員にいい顔して、関係を引き伸ばすなんて……」
その言葉に、夏雄の目がきらりと光った。
「それだ」
「え?」
「つまり……引き伸ばせばいいんです、こちらも」
ユレルが眉をひそめる。
「どういうこと?」
夏雄は端末を操作しながら素早く分析データを確認し、タケルの通信に切り替えた。
「タケルさん。長期戦に持ち込んでください。時間をかけて、じわじわと彼のラブコメ展開を煮詰めるんです」
通信越しに、タケルの困惑した声が返る。
「え? 長期戦? でも、あいつのガード固いし、俺の攻撃、通ってないんだけど……」
ユレルも口を挟んだ。
「待って。ラブコメが長引くってことは、それだけ人気があるってことよ。読者人気が高いラブコメ展開は、神々の歓声も増える。つまり、コメオがどんどん有利になるってことじゃないの?」
だが、夏雄は動じなかった。
「いえ、あえて長期戦にするんです。ラブコメの本質は“選ばないこと”――僕はそこを逆手に取りたい」
画面の向こうで、タケルが深呼吸をひとつ。
「……マジかよ。でも、夏雄が言うなら、信じてみる!」
「信じて」と静かに告げる夏雄の声に、タケルは頷いた。
「よっしゃ、やってやる!」
タケルの目に闘志が戻る。
あえて低出力で天馬の翼を放ち、力の温存とヒロインたちの足止めをすることにした。
「行くぞ、天馬!」
「了解した、タケル。神技の出力、牽制圏内に設定。展開、天馬の翼!」
ふたたび左右の竹馬にオーラの翼が現れ、羽ばたいた瞬間、無数の光の羽根が舞い上がる。
「きゃっ! また来たわ!」
先頭にいたトモヨがすぐにバリアを展開し、淡い光のバリアが羽根を受け止めた。羽根はひとつひとつポンと音を立てて砕け、爆ぜる。
「コメオ様、守りきりましたわ!」
マリアが胸を張って報告する。
「コメオ! 私にだけ、特別って言ってよねっ!」
スズカが頬を染めながら叫び、
「こ、こんな攻撃、ぜんぜん怖くないもん……! にぃに、私のこと……好き?」
ランが泣きそうな目で、コメオを見上げた。
攻撃のたびに、美少女たちがさらに激しくコメオに愛情をぶつけている。
だが──コメオはそれに対し、首をかしげながら、どこか曖昧な笑みを浮かべていた。
「えっと……いや、その、みんな大切なんだよ、うん。だから、順番とか決めなくていいよね?」
ヒロインたちは不満を言わず、ヒロイン同士で励まし合ったりしている。
「やっぱりコイツ、最低ウマ……」
竹丸が顔をしかめる。
「本命を選ばないで引き伸ばすなんて……ラブコメ男子の中でも、かなりのクズ寄りじゃない?」
ユレルが目を細め、吐き捨てるように言った。
そのときだった。
「え……あれ……?」
弱々しい声が響いた。
タケルが視線を巡らせると、ランの姿がかすかに揺らぎはじめていた。まるで、靄のように形を保てず、薄れていく。
「や、やだ……消えたくない……! にぃにっ! なんで、なんでランだけ……?」
泣き叫ぶラン。
その身体は透明になり、やがて、光の粒子となって宙に散った。
「っ……!」
タケルも思わず言葉を失う。
バリアでコメオを守っていたはずの美少女のひとりが、姿を消したのだ。
コメオは一瞬だけ目元を歪めた……ように見えたが、その表情の真意は前髪の陰に隠れて読み取れない。
「……やはり、僕の推測通りです。コメオの優柔不断にこそ勝機がある……」
夏雄が測定を続けながら、静かに呟いた。




