第二十三話 ヒロインがいっぱい
見渡す限りの机と椅子が並ぶフィールドに、神々の歓声が渦巻いていた。その多くが対戦相手のコメオに向けられている。
「……おかしい。あいつ、神技を使う気配がない」
タケルが小声でつぶやくと、天馬雷鳴号の冷静な声が耳元に届く。
「タケル、あの青年の挙動には注意せよ。神々の歓声が集まっていながら、それを行使しないのは不自然だ」
「なにか、隠してるってことか……」
サポート席のユレルも不安げにモニターを見つめながら言った。
「気をつけて、タケル。今のところ、神技の兆候は見えないけど、あれだけ歓声を集めてるんだから、何かあるはずよ」
その言葉に夏雄が頷いた。
「客席の女性たちの反応も特異です。通常のバトルとは明らかに異なる雰囲気が生じている。タケルさん、ここは一気に異様な流れを断ち切るべきです」
タケルは息を吸い込み、前を見据えた。
「いくぞ、天馬! 天馬の翼、展開!」
タケルの叫びと同時に、竹馬の左右からオーラの翼が広がる。光の粒が空間に弾け、鮮やかな輝きがフィールドを照らした。
「いっけぇ!」
タケルが再び叫ぶ。
翼が羽ばたき、そこから舞い上がった無数の光の羽根が音を立てて放たれる。羽根はまるで意思を持つかのように、空気を切り裂きながらコメオに迫っていく。
「これは避けられないだろ!」
フィールドの空気が熱を帯びたその瞬間、眩い爆発が起こる。
ドォォン!
轟音と共に炎が弾け、机と椅子が吹き飛ぶ。爆煙がタケルの視界を遮る。
しかし――
「えっ……!?」
タケルの目に飛び込んできたのは、爆煙の中でもなお倒れることなく立っているコメオの姿だった。
その周囲に、幾つかの小柄なシルエットが彼を囲うように佇んでいる。
タケルは唇を噛みしめる。
「何だよ、あれ……。一体、何が起きてるんだ?」
フィールドに静寂が戻ったとき、爆煙の奥から異変の気配が漂い始める。
「ふう……ギリギリで発動できた……」
爆煙の中からふらりと姿を現したコメオは、額の汗を拭いながら深く息をついた。その姿はかすり傷ひとつなく、爆発の衝撃などまるで受けていない。
「な、なんで無事なんだよ……?」
タケルが眉をひそめてつぶやく。
「僕の神技だよ。発動にはかなりの歓声が必要なんだ。だから、これまでなかなか発動できなくてね」
そう言うと、コメオは両手を軽く広げた。
すると彼の周囲を、ふわりと何かが浮遊しはじめた。よく見ると、それは宙に浮かぶ4人の少女たちだった。一定の距離を保ちながら、ゆるやかに円を描くように彼のまわりを回っている。
「僕の神技の名前は――“ハーレム・ビット”」
「は、ハーレム……ビット……!?」
タケルが思わず聞き返す。
「僕の想いに応えて、4人のヒロインが現れてくれるんだ。タイプはそれぞれ違うけど、どれも恋に生きる乙女たちさ」
自慢げにコメオが口角を上げる。
「……なんなの、あのセクシャルな防御装置は……」
思わずユレルが顔をしかめた。
「それでは彼女たちを紹介しよう!」
コメオは親指を立てて続けた。
「まずはトモヨ。黒髪ストレートで清楚な正統派ヒロイン。『ずっと好きだった』が口グセだよ」
ふわりと微笑む黒髪の少女が、優しくコメオを見つめる。
「次はスズカ。赤いリボンのツンデレ系。怒りながらも照れててさ、『べ、別にあんたのためじゃないんだからね!』って言うんだ」
そっぽを向きながらも、頬を染めてコメオの横に寄り添う。
「マリアは金髪巻き髪のお嬢様ヒロイン。語尾に『ですわ』をつける高貴なキャラ。でもドジな一面もあるギャップが魅力なんだ」
優雅にティアラを直しながら、マリアはくすりと笑う。
「そしてラン。末っ子ポジションの妹系。小柄で甘えん坊で、僕を『にぃに』と呼ぶ破壊力抜群の存在さ」
小さな手でコメオの腕を掴みながら、ランがぴったりと寄り添う。
その様子に、客席の女性たちから悲鳴のような声が上がった。
自分もコメオのヒロイン候補になりたいと泣き叫んでいる。
「ヒロインが、防御装置……?」
タケルが目をぱちくりさせている。
サポート席の夏雄が端末を確認しながら静かに呟く。
「……ラブコメ的な展開が神技として顕現するとは……これはまた異例ですね」
「ハーレム、リアルにあの状況にナッタら、修羅場デース!」
ジョニーがモニターに額をぶつけそうな勢いで叫ぶ。
タケルたちの視線を一身に集めながら、コメオの神技――4人の美少女たちは、柔らかい光に包まれながら彼のそばを旋回し続けていた。




