猫探し
2話目です。
猫の捜索が始まった。
目の端にさっきの黒い猫が路地裏へと入っていくのが見える。
「あの、路地裏に入っていってしまいましたけど、
どうします?」
「ああ、そうだな」
「早く追いかけましょう!」
「あー、もう追いかけても間に合わねえよ」
なんだこの人は、探す気あるのだろうか。
「じゃあ、僕行きますよ!見失っちゃうじゃないですか」
「そうだな」
なんでこの人はこんなに余裕があるんだろう。
当人がやる気がないんだ。僕がやる気出してもしょうがないか。
「分かりました。それで、どうやって猫を探すんですか?猫の特徴は?」
「あー、待てよ、今思い出すから。白だっけか黒だっけか。ちょっと待てよ」
どうやって探してたんだこの人は。
ゴソゴソとポケットを漁ると、しわくちゃになった紙を出してきた。
「あー、えーっとな。白だ。そんでもって首輪に何かぶら下がってるらしい」
ちょっと待て、さっきのは黒猫だったはずだ。
「あの、さっきのは多分黒でしたよ?」
「ん?まあ、そのなんだ、首輪がついてただろ?
飼い猫であることに変わりはねえさ」
「探してる猫とは違ったんじゃないですか?」
「そうだな」
この人は依頼を達成する気があるのだろうか。
それに待てよ、僕がぶつかってなくても違う猫だったんじゃないか。
どっちにしても依頼は達成できなかったんだ。
なら僕が手伝う必要も無いんじゃないか。
目の前の無気力な男は、のんきに大きなあくびをしている。
「都合よく飛び出てきたりしねえかな」
そんなうまく行くわけない。
仕方ない。この人ひとりだと一生見つけられなさそうだ。
ここは、僕が一肌脱ぐしかないだろう。
「あの、ここでボーッとしてても見つかんないですよ。とりあえず、僕心当たりがあるので、そこに案内します」
「ああ、助かる」
·····
猫探しは、何回か経験がある。
猫のたまり場といえば、この町では2ヶ所くらいしかない。
そのうちのギルドから近い場所、料理屋の裏にある路地裏に来てみた。
案の定、何匹かの猫がいる。白猫も何匹かいる。
「あっ!」
さっきの黒猫がいた。
他の猫たちと一緒にゴミを漁っている。
ただ、どうやら目当ての白猫はいないみたいだ。
「どうやらいないみたいですね」
「ん?ああ、痛っ!ちょっ」
んに゛ゃぁぁぁーー
さっきの黒猫を捕まえようとしている。
「いっ、痛てて、う、あー、……よし」
捕まえれたみたいだ。
顔中引っかかれて傷だらけになっている。とても痛そうだ。
「さっきも言いましたけど、その猫白くないですよ」
「ん?あぁ、これさっきのやつか」
「どうするんですか?」
「誰かが飼ってたんだろう。困ってるだろうから持っていってやろう」
「どこにですか?」
「あー……。ギルドじゃねえか?」
·····
しょうがない。
とりあえず1度ギルドに届けることにした。
「あの、すみません、猫を捕まえたんですが」
「お疲れ様でした。依頼達成ですね」
「えっと、依頼のとは違ってですね、ただ捕まえただけなんです」
「えっ?えっと、あー、分かりました。こちらで預かっておきます。依頼に来られる方がいるかもしれませんし」
「お願いします」
「えーっと、この場合、報酬はどうしましょうか、依頼という訳でも無いですし……」
「いや、いらないですよ」
「いえ、でもせっかく捕まえてきたんですから!
報酬差し上げますね。ちょっと少ないんですけど、30ナヤスです。他の方には内緒ですよ」
「ありがとうございます」
受付のお姉さんは優しい。
依頼でもないのに報酬をくれるなんて。
人差し指を立てて、しーってする仕草がこれまた可愛かった。
いつもこのお姉さんのおかげで元気がでる。
いや、そんなことより依頼だ。まだ依頼の猫を捕まえたわけじゃないのだ。
「あの、もう一度猫探しに行きますよ」
「そうだな」
探しに行こうとギルドを出たが、もう火はほとんど沈んでしまっていた。
「これじゃ無理ですね、明日探しましょう」
「そうだな。……明日も手伝っくれるのか?」
「そうですね。乗りかかった船ですし。当然じゃないですか」
明日も猫探しを手伝う約束をして、今日は解散することにした。
·····
次の日になった。
ギルドに行くと、彼はもう来ていた。
「おはようございます」
「ああ。本当にすまないな」
「いえいえ、任せてください」
とりあえず、2人で昨日の路地裏に行ってみる。
何匹か猫はいるが、やっぱり目当ての白猫はいなかった。
「いませんね」
「そうだな」
「もう1ヶ所心当たりがあるので、そこに行きましょう!」
「助かる」
今度は街の中心街にある協会の裏だ。
あそこの神父さんは、優しいので、野良猫にもよく餌をやっている。
そこにも案の定、数匹の猫がいた。
そして、探している白猫はというと………
いない。
「いませんね」
「そうだな」
「神父さんにも聞いてみますか。よく餌を上げてるので。その白猫も見たことあるかもしれません!」
「ああ」
·····
教会には何度か来たことがある。
母さんは熱心なナヤン教徒なのだ。
神父さんにも、何度か会ったことがある。
「あのー、すみません」
「どうかなされましたか」
声をかけると、すぐに神父さんが出てきてくれた。
「最近、首輪のついた白猫を見かけませんでしたか?」
「白猫ですか…。うーん………。
首輪の着いている子はみたことありませんね。
首輪の着いてる子はすぐに保護するようにしているのですが……。
力になれず申し訳ありません。」
「いえ、ありがとうございます」
「はい、みつかるといいですね。私も少し気にかけてみます。
風神様も、きっと御助けなさって下さると思いますよ」
神父様も知らないとなると、これ以上の心当たりは無い。もうお手上げだ。
「すみません、僕の力じゃここまでです」
「そうか」
どうしよう。路地裏をしらみ潰しに探すしか無いだろうか。
彼も諦めたのか、目を閉じて固まっている。
「聞こえる」
彼がボソッと呟いた。
「何がですか?」
「猫の鳴き声、聞こえないか?」
「そりゃそこの教会裏にはたくさんいますから」
「いや、違う、別のとこからだ」
「はい?」
耳をすましてみるが、分からない。
「こっちだ」
「え?」
急に走り出したので、急いで着いていった。
どんどん路地裏の奥の方へと入っていく。
「ほんとにこっちにいるんですか?」
「ああ、たぶん 」
半信半疑でついていく。
にゃー
確かに、微かに猫の鳴き声が聞こえる気がする。
さらに奥に進んでいく。見覚えのない場所まで来た。
あっ!いた!猫だ!白猫だ!
「いた」
「はい!」
ほんとにいたんだ。
疑ってごめんなさい。
よく見るとちゃんと首輪が着いていて、金属の板みたいなものも着いているのが見えた。
「急いで捕まえましょう!」
にゃああーー!
捕まえようと近づくと、白猫は、僕たちの脇をすり抜けて、逃げ出してしまった。
僕らも、急いで追いかける。
でも、猫の方がちょっと早い。
少しずつ差が開いてしまう。
「風の神ウェレダスゲリーム様よ。我に風の力を授けたまえ。
空中浮遊」
魔法を使って飛ぶように走る。
少しずつ、少しずつ猫との差が縮まってきた。
あ!前に人影がいる。猫はその間をスルスルと抜けていく。
「す、!すみません!どいてください!!」
大声で叫んでのいてもらって、急いで猫を追いかけた。
遂に、路地の角まで追い詰めた。
行き止まりだから、もう猫に逃げ場は無い。
「よし、追い詰めたぞ」
じりじりと猫に近づいていく。
後一歩というところで、猫は置かれていた木材や窓枠を伝ってひょいっと上へと登っていってしまった。
ええーいこうなりゃやけくそだ!
精一杯魔力の力をあげてみる。
少し体が浮いた!このままいければ!
んに゛ゃあ゛ぁぁぁ!
よし、掴んだ!
と思った瞬間、体が落ちていく。
浮力が足りない。地面が近づく!
落ちると思い目を瞑った。
ドン!
「大丈夫か?」
目を開けると、さえない彼が、僕の体をしっかりと抱きかかえてくれていた。
猫探しだけで話が終わってしまいました。世界の設定の説明なんかもおいおいしていく予定です。
今後もよろしくお願いします!
明日は第3話、ルッシルさんです
ブックマーク等してくれたらうれしいです!