冒険は始まらない
第1話です。
バン!
「いやぁー、今回はもう死ぬかと思ったなぁ」
「お前はあそこで1回死んどけば良かったんだ」
「そりゃないだろセリアス」
「だいたいお前があそこで気を抜いてボーッとしてたから」
「それはおめぇが後ろの敵に気づいてないと思ったからでだなぁ…」
冒険者ギルドの扉が勢いよく開いたかと思うと、2人の冒険者が言い合いをしながら入ってきた。
その途端、さっきまで賑やかな喧騒に包まれていたギルド内が、嘘みたいな静寂に包まれる。
「アスラーン御一行様のお帰りでぇ!」
誰かが声を張り上げ叫んだ。
「よっ、待ってました!」
「何だ今回は随分と長かったんでねぇか」
ギルド内は自然と拍手喝采が沸き起こる。
「なんだなんだこの盛り上がりはよォ」
「毎回こんなことされるんじゃ小っ恥ずかしくってやってられないな」
「あら、気分がいいじゃありませんこと?」
続けざまに3人の冒険者がぞろぞろと入ってくる。
他の冒険者たちはさらに盛り上がりをみせる。
だけど、1人足りない。
アスラーンさんのパーティは、6人組のはずだ。
なんて考えていると、黒い魔物を引きずりながら、もう1人男が入ってきた。
「おいおい、ちょっとくらい手伝ってくれてもいいじゃねぇか!」
「魔物を1番倒してない人が運ぶって決めたのだからしょうがないわね」
「そりゃないぜ、補助職の俺じゃぁ魔物倒すことなんてことほとんどないぜ。
セリアスだって可能性あるんだぜ。
なんとか言ってやってくれよ」
「私だって魔物の1匹や2匹倒せるわよ。一緒にしないでくれる」
「はぁー」
この6人の冒険者たちは、アスラーンさんの率いるパーティの面々だ。
今迷宮の最も最深部まで到達している。
巷では、宵闇の六星なんて呼ぶ人もいる。
そして、その1人。
火星ファンダル・サムルクさんが、僕の憧れの冒険者だ。
「そんで今回は、どこまで潜ってきたんだアスレーン」
「52階層で引き返してきたんだ。ファンダルの剣が折れちゃったしね」
ファンダルさんの剣が折れるなんて……。
やっぱり五十階層とまでなると、すごいや。
「マチスさん!これ今回の戦利品。ブラックウルフです」
ギルドの受付に、さっきの黒い魔物が5体くらいドカッと置かれた。
あれがブラックウルフか、
学校で習って知ってはいるけど、生で見るのは初めてだ。
確か、A級クラスの魔物だったはずだ。
それを5体も。
やっぱり、宵闇の六星の人達はすごい。
換金が終わると、ファンダルさんが叫んだ。
「よし、今日は俺たちの奢りだ!みんなパァーっとやろうぜ!」
「「おーーーー!」」
その一声で、歓声が上がる。
冒険者ギルドの喧騒は、いっそう大きくなった。
僕はこの雰囲気が少し苦手だ。
ここの冒険者たちはいつもこうだ。
何かあるとすぐに祝杯。
冒険者なら、そんなことよりもっと鍛錬の方が必要じゃないか!
僕はギルドを後にした。
·····
次の日も、僕は朝一番に冒険者ギルドを訪れた。
昨日は遅くまで飲み明かしていたのだろう。
ギルドのあちこちで潰れてる冒険者たちがいる。
「おう、兄ちゃん!朝からご苦労なこって。1杯どうだ。ほれ」
「お断りします」
だからお酒は嫌いだ。
冒険者ギルドの壁には、依頼ボードがかかってある。
そのボードには、依頼内容の書かれた紙が何枚か貼られている。
といっても、ここの冒険者は迷宮に潜る人がほとんどなので、この依頼ボードを見る人は少ない。
依頼内容も、猫探しや、おつかいみたいな簡単なものばかりだ。
[メレン草の採集 80ナヤス ランクE]
これだ!今日はいい依頼を見つけた。
メレン草は回復薬にも使う薬草で、オスラの上階層に群生している。
低級の冒険者でも、こなせる依頼だ。
「おう、ノロメ!なんだなんだ、依頼探しかー」
最悪だ。ゲリメル達だ。嫌なやつらに絡まれた。
「また猫探しでもやるんじゃねえのか。お前には迷宮はまだ早いよ」
「ふん、僕だって迷宮くらい潜れるさ」
「でもお前はまだパーティも組めてないじゃないか」
「そ、それは、僕に相応しい冒険者がいないだけだから……」
「おーそうか、なら俺たちが組んでやろうか?お前のお眼鏡にかなうならだけどな」
「え、?まあ、そのどうしてもって言うなら組んで…」
「あー?もしかして本気にしたのか?お前なんかいらねえよ。なあみんな?」
「わはははは」
「へっ、へー、、組んでやらないって言おうとしてたんだよ!」
「ふん。強がりやがって。
おいみんな、そろそろ行こうぜ!あんまりからかってるとこいつが可哀想だからよ」
悔しい。
悔しい…。ちょっと強いからって。
ちょっと強いだけでいばりやがって!
僕も、僕もパーティさえ組めれば!
パーティさえ組めればあいつらなんか!
ゲリメル達なんて絶対にすぐ追い抜いてやる!
そしていつか、ファンダルさんみたいな冒険者になるんだ!
そう心に誓った。
よし、気を取り直してこつこつ依頼に取り組まないと。
僕はさっきの依頼を受けるために、もう一度依頼ボードに向き直る。
依頼ボードの前には、さっきまではいなかった冒険者が1人、依頼を物色していた。
見たところ、30をすぎた辺りだろうか。細身で猫背、見るからに弱そうだ。
やばい、メレン草の依頼を取られる!
僕は急いでその冒険者の横にそっと立つと、さっきの依頼紙を、サッと取り、足早に受付に持っていった。
「これ、お願いします」
「はい、メレン草採集の依頼ですね。おひとりですか?」
「……はい」
「うーん、まあ1階層でもとれる薬草なので大丈夫だとは思いますが……」
「……」
「…気をつけてくださいね。これ、通行許可証です」
「はい!」
よし!依頼を受けることができた!
これで迷宮にいける!
1人だって大丈夫!
僕が依頼を受けて受付から離れると、さっきの冒険者も何か依頼書を持っていっていた。
あの人も1人なのだろうか。
なんて考えながら、僕なギルドを後にする。
久々の迷宮に胸を踊らせながら、通行許可証を握りしめて迷宮へと向かった。
·····
迷宮へはギルドの奥の扉を出ると一本道だ。
ギルドが、迷宮の受付も兼ねているらしい。
だから、迷宮に潜る時には、必ずギルドに立ち寄らないといけない。
迷宮出土品を悪用されないための工夫らしい。
「おー、兄ちゃん、通行許可証はあるかい?」
「これです」
「確認した。1人で潜るのかい?気をつけなよ」
大きなお世話だ。
ソロ冒険者なんか珍しくないだろうに。
僕がまだ小さいからバカにしているのか。
もう学校も卒業して1人前になったというのに。
それにしても、迷宮に潜るのは久しぶりだ。
前に学校の授業で潜った以来だ。
依頼でもないと、新人のソロ冒険者には、中々許可証を出して貰えなかった。
そうか、内部はこんな感じだったなー。
ここら辺はゴツゴツした感じで…
「おい!邪魔だ!入口周辺はは狭いんだ。真ん中で突っ立ってんじゃねえよ」
僕が久々の迷宮を噛み締めていると、後から来たパーティの冒険者に怒鳴られてしまった。
「すみません」
「ふん!気をつけるんだぞ」
そういうと、そのパーティの一団はドカドカと迷宮の奥へと歩いていった。
よし!僕も依頼に取りかかるか。
久々の迷宮に感動しながら、奥へと足を進めていった。
·····
これくらい集めれば十分だろう!
メレン草は持ってきたカバン1杯に詰まっている。
採集はとても順調に進んだ、
面白くないくらいに…。
魔物とも1回も出会わなかった。せっかくの迷宮だというのに。
これじゃあとても冒険とは言えない。
とはいえ、メレン草は集まった。依頼は達成出来たのだ。
だいぶ時間もたったはずだ。
僕は迷宮を後にした。
·····
迷宮からでると外はもう火が傾き始めていた。
ギルドに戻ると中は冒険者で溢れかえっていた。
もうすでに、お酒を飲み始めている冒険者までいて、酒くさい。
僕は足早に受付へと向かい、メレン草の入ったカバンと冒険者カード、そして通行許可証を差し出した。
「うわー、これはまたたくさん集めましたね。
これだけあれば大丈夫だと思います。
依頼達成です!お疲れ様でした。
ちょっと多いのでギルドの方で買い取らせていただきますね。
達成報酬と、買い取り分合わせて、92ナヤンですね」
「ありがとうございます」
よし!依頼達成だ。今日もだいぶ稼げたな。
帰ったらまずは素振りだな。
家に帰ってからの予定を立てながらギルドの扉を開けようとドアノブにかけた手が突然軽くなる。
ドン! ギニャァァァー!
外からもギルドに入ろうとして扉を開けた人がいたようだ。
「痛っててて」
「うわ!あっ、あー、ちょっと待て!」
ニャーー
顔を上げると黒猫が目の前を走っていくのが見えた。
そして目の前には、男の人が四つん這いのまま追いかけようとして、
こけた。
「痛ってて…。あー、逃げられちまったか」
「すっ、すみません、僕がぶつかったばっかりにって、あっ!」
振り向いた男は、今朝の猫背で細身の冒険者だった。
「いや、こちらこそすまなかった。猫に気を取られててな。うん?俺の顔に何かついてるのか?」
「い、いえ。なんでもないです。その、猫、すみません」
「いや、いいんだ。どっちが悪いなんてことはない。運が悪かったんだ。はぁー、それにしてもどうしようかなー……、依頼」
「えっと、猫探しですか?」
「あぁ」
「手伝いますよ。僕得意なので」
ぶつかってしまったのは申し訳ないし。
それに、このさえない冒険者1人よりは、僕も手伝った方が早そうだ。
僕は猫探しを手伝うことにした。
初投稿、拙い文章ですみません。
今日投稿の目標ギリギリ間に合いました。
明日も更新します。
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