疑惑と確認
送られてきた写真とホテル側から提供された映像を見比べた結果、鷲見は遺族担当へ連絡を入れた。それから間もなく
「すみません、鷲見刑事、髙橋刑事いらっしゃい――あのっ」
本部まで遺族担当が足を運んだ。船上から証拠品が到着するまで時間がある。咄嗟に最悪の想像をした二人は顔を見合わせるまでもなく彼女のもとへ駆け寄った。
「リュックサックの確認、いつできますか?」
「数時間は必要ですね。何がありました?」
「白河由弦さん、こちらに到着するまであと三十分もかからないそうなのですが、どうしましょう?」
「え、早すぎません? 高速使って数時間、新幹線だって一時間くらいはかかるはずですけど」
「ちょうど熱海のホテルに宿泊しているそうです」
「どこのホテルかわかりますか?」遺族担当の返答を受けて「被害者が宿泊してたとこですね」髙橋が確認するような口調でつぶやいた。
「リュックサックが署に到着しても、指紋や付着物の確認を終えた後になります。それまで対応願います」
「わかりました」
遺族担当の背を見送り、一拍置くと
「なぜだと思います?」
「お前はどう思う?」
「何にしろ自殺されるよりはまだ良いですね。じゃ、俺、車回してきます」
髙橋の言葉にうなづき、本部の人間に軽く指示を出してから鷲見は会議室を出た。
助手席に乗りこみ当該ホテルの駐車場に到着するまで、車内は無言だった。ホテルの人間に手帳を見せて防犯カメラの映像を確認できるよう協力を要請した。
チェックイン時刻周辺から確認していくと
「お。いましたよ、とんでも眼鏡くん」
「変な渾名つけるな」
最初にエントランス防犯カメラに被害者の兄の姿を確認した。赤と白の縞模様の眼鏡フレームは唯一無二、鮮明とは言い切れない画質でも容易に見つけやすかった。
青年が逐一スマートフォンの画面を気にしながらホテル中を歩き回っているのを観察する。
「何してんですかね、彼」
「……時間だ。それぞれどれくらいで歩いて行けるか、時間を見ている」
「ああ、確かに高校生たちが行ったと話してたところ巡ってますね」
鷲見は椅子に背を預けて一息ついた。
「彼は被害者の友人らに話を聞いている。このホテルを宿泊先に選んだのも偶然ではないんだろう」
「……なぜだと思います」
「お前はどう思う?」
「二択ですね。復讐計画か証拠隠滅か……。この映像あれば歩容認証いけますよね?」
鷲見は思わず髙橋の横顔を固い笑みとともに見つめた。
バイクにしろ電車にしろ、被害者の兄には自宅と熱海との往復手段がある。学生は夏季の長期休暇に入った時期である。強い日差しのもと帽子を目深にかぶっていても違和感は少ないし、感染症対策としてマスクをつけて出かけている人々は多い。とくに夏場は海水浴を目的にした熱海への来訪客はかなりの数に上る。それに紛れることは難しくない。関東で望月が兄を判別できたのはひとえにその特徴的な眼鏡のためだった。外して、帽子とマスクを装着していればわかるかどうか定かではない。
専ら、殺人という犯罪は顔見知りの間で実行される。
「そうだな」
一言だけ、掠れた声で答えた。




