表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/98

6.実際、難しいのだ。

 夕方前になる頃、孤児院からもうひとり男の子が来た。

 名前はロック。

 トゲトゲしい視線で僕のもつ木片の看板を睨んでいる。


「…………」


「…………」


「ちょっとロック。マシューを睨まないでよ」


 クレアが見かねて仲裁に入った。


「だってよぉ。半銀貨1枚って……〈クレンリネス〉は確かに凄いけど、これじゃ俺たちが馬鹿みてえじゃねぇか」


「仕方ないじゃない。私たちは〈クリーン〉しか使えないんだから」


「ちぇ。まあいいや。俺たちは地道にコツコツやるしかないな」


 ロックからたっぷりと妬みを買ってしまったが、根は悪い奴じゃないらしい。

 大人しく待機場に座っていると、続々と冒険者たちが戻ってくる。


「お、新入りがいるじゃねえか……って〈クレンリネス〉!?」


「半銀貨1枚って……でもちょっと興味あるわね」


 槍を持った男性冒険者と杖を持った女性冒険者が、最初のお客さんになった。

 僕は銀貨1枚をもらい、ふたりに〈クレンリネス〉をかけた。


「わ、凄いわ。身体に染み付いていた返り血の匂いまで取れるの!?」


「こりゃ風呂いらずだな。今日はこのまま飲みに行こうぜ」


 結果としてこれが宣伝になった。

 興味本位の冒険者が客になってくれたお陰で、かなり稼がせてもらうことになってしまった。

 ロックとクレアにはやや申し訳ない。

 もちろん生活魔法に半銀貨も払えない、という冒険者も少なくなかったので、ふたりが儲けなしということにはならなかったけど。


 日が暮れる前あたりにロックとクレアが帰ると言い出したので、僕も宿に戻ることにした。


「チクショー、あんなに儲けやがって。おいマシュー、俺たちにも〈クレンリネス〉を教えろよ」


「難しいかな。僕、この街にはあと1週間くらいしかいないから」


「……ちなみに習得にはどのくらい時間がかかるの?」


 クレアの質問に「僕は3ヶ月以上かかったよ」と返す。

 実際、難しいのだ。


「それでも3ヶ月なのか? 練習法とかあるなら知りてえんだが」


「そうね。ひとりで練習できる方法とかない?」


 ふたりが食い下がるので一応、簡単に説明はしておく。

 水属性の〈クリーン〉と違い、〈クレンリネス〉は光属性と水属性の複合魔術であること。

 習得方法自体は〈クリーン〉に光属性を混ぜ込むイメージでいいのだけど、複数の属性を同時に扱うのがそもそも高等技術だ。


 ふたりはこの説明の時点で習得を半ば諦めていた。


「ふたつの属性を同時にって……そんなことできるのかよ」


「できなきゃ習得は無理ってことなんでしょ。マシューは凄いね」


 【生活魔法Lv1】だけじゃ確かに難しいだろうな、とは思っていた。

 僕はまだステータスを開けないけど、魔術師だった父から叩き込まれた様々な技術がある。

 ステータスが絶対ではない、と言うのは容易いが、普通はそんなに恵まれた環境にはないのだ。

 まして孤児であるふたりには難しい話になる。


 僕らは「また明日」と言って、解散した。




 宿に戻る頃には日が暮れていた。

 食堂には明かりが灯されている。

 僕は自身に〈クレンリネス〉をかけて、夕食を頂くことにした。

 今日のメニューは挽き肉のパスタとスープだ。

 通りがかったミアが僕を見つけて話しかけてきた。


「ナアナはちゃんとマシューを雇ってくれたかにゃ?」


「はい。お陰様で結構、稼げました」


「それはそうだにゃん。〈クレンリネス〉なんて普通の人は習得できないからにゃ」


「あ、そうだ。宿泊は3泊の予定でしたけど、もう少し伸ばせますか」


「もちろんだにゃ。気の済むまでいていいにゃん」


「いえ。身分証明証が発行されて旅立つまでですけど」


「分かっているにゃん」


 ミアは仕事に戻っていった。




 夕食を食べ終えてから自室に戻る。

 1日の売上が銀貨で10枚にもなってしまった。

 路銀を賄うには十分な稼ぎだ。

 〈ストレージ〉に銀貨と半銀貨をしまって、僕はベッドに横になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ