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50.どうやら無意識に息を止めていたらしい。

 試合場に出る。

 向かい側から出てきたのは、黒のロングウェーブの髪が特徴的な女子生徒。

 クレイグの弟子、三年生のアイリンダ・ガーディフだった。

 アイリンダは僕が試合場に出てきたことに特段の驚きも見せず、ゴーレムを自然に闘技場に上げた。

 ゴーレム操縦の上手さを見せつけられたようだ。

 僕も遅れてゴーレムを闘技場に上げた。


「準決勝、第二試合。西から出てきたのは三年生のアイリンダ・ガーディフ選手。そして東から出てきたのは一年生のマシュー選手です。一年生で準決勝まで来たマシュー選手は昨年のルーバット選手を彷彿とさせますね。そしてこのふたり、実は共にこのクレイグ教授の弟子であるということです。どうですかクレイグ教授、弟子同士の対戦ですが」


「どう、とは一体なんと答えて欲しいのか知らんが……そうだな。敢えて言うなら、とっとと試合を始めろ。結果がすべてだ」


「ありがとうございました。――それでは試合、開始!!」


 アイリンダと僕のゴーレムが同時に詠唱を始めて完成させる。


「〈ストーンスキン〉」


「〈ストーンスキン〉」


 奇しくも同じ防御魔術。

 果たして彼女はクレイグからどのような指導を受けているのだろうか。

 季節ひとつ分程度しかクレイグの弟子をしていないアイリンダに、2年以上も弟子であった僕が負けるわけにはいかないだろう。


 ゴーレムたちが詠唱を完成させる。


「〈バーストレイ〉」


「〈コールドレーザー〉」


 炎属性と光属性の複合属性、熱線を放つ攻撃魔術〈バーストレイ〉。

 対するは氷属性と光属性の複合属性、凍結光線を放つ攻撃魔術〈コールドレーザー〉。

 似て非なるふたつの魔術がぶつかり合う。

 ふたつの光線は互いに互いを喰らい合い、相殺された。


 一歩、横へと移動しながら詠唱を始める。

 アイリンダのゴーレムも位置を変えるべく一歩だけ横へと動いた。


 そして同時に詠唱を完成させる。


「〈ラヴァアックス〉」


「〈アイシクルピアサー〉」


 投げ斧の形をした溶岩が投射される。

 炎属性と地属性の複合魔術、溶岩の斧を撃ち出す攻撃魔術〈ラヴァアックス〉。

 対する僕は氷でできた投槍を射出させる。

 氷属性と風属性の複合魔術、氷の投槍を撃ち出す攻撃魔術〈アイシクルピアサー〉。


 ふたつの魔術がぶつかり合う。

 縦回転する溶岩の斧が、高速で飛翔する氷の尖槍と互いを破壊しあった。


 魔術の選定、魔術の構築から詠唱の速度、そして魔術の威力に至るまでここまで互角。

 クレイグが弟子に取っただけのことはある。

 かの魔術馬鹿が合格とした魔術戦のセンスがあるのだ、準決勝に進んで当たり前の才能ある魔術師。

 まったく、こんなのがいるのに優勝して当たり前みたいな言い方するかね、クレイグ?


 僕は知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。

 対面のアイリンダが怪訝そうに目を細める。


 ならばここで違いを見せつけるまで――!!


「〈レールガン〉」


 僕がゴーレムに行使させたのは、地属性と雷属性と光属性の三属性の複合魔術、金属の礫を超加速させて撃ち出す〈レールガン〉。


「〈ヴォイドスフィア〉」


 対するは無情にもあらゆるものを削る虚無の球体、闇属性の攻撃魔術〈ヴォイドスフィア〉。


 僕のゴーレムが放った金属の礫は真っ直ぐな光跡を描き、漆黒の球体に飲み込まれた。


 舌打ちしたくなるのを堪えて次の一手を考える。

 虚無を打ち消す手段は限られている。

 素直に回避行動をしてもいいが、後手に回るのは避けたい。

 恐らくだが回避を選択すればアイリンダは〈ヴォイドスフィア〉で押してくるだろうから。


「〈シャインフィールド〉」


 闘技場が光に満ちる。

 光属性で戦場を満たす戦術魔術〈シャインフィールド〉は、闇属性を極端に減退させたり消滅させたりする。

 完全な虚無である〈ヴォイドスフィア〉は消滅対象である。


「――――っ」


 アイリンダが詠唱に詰まった。

 ならば光属性を中心に組んで仕上げといこう。


「〈コンデンスレイ〉」


 光属性の収束光線を放つ攻撃魔術だ。

 幾つもの光線を束ねて撃ち出す光属性の数少ない攻撃魔術である。


「〈リングプロテクション〉」


 対するアイリンダは石の小盾を周囲に配置する地属性の防御魔術を展開する。

 しかし〈シャインフィールド〉で強化され貫通力に優れた〈コンデンスレイ〉を防ぐには値しない。

 一条の光線がアイリンダのゴーレムを撃ち抜いた。


 ゴーレムだから動けなくはないが、致命傷だ。

 あとはバラバラになるまでこれを撃ち続ければ勝ちだな。


 そう思って魔術を練り始めたところで、対面のアイリンダが片手を挙げて「降参します」と告げた。


「おっと、アイリンダ選手が降参!! 試合終了です!!」


 僕は思わず息をついた。

 どうやら無意識に息を止めていたらしい。


「これにより一年生が決勝戦への進出を決めました!! 記録によれば、クレイグ教授以来の快挙です!!」


「快挙というからには、優勝までしてから言うものだ」


「厳しいぃ!! しかしこれも師匠の愛の鞭、遠回しな激励ということでしょう!!」


 実況席には目をやらないが、きっとクレイグは今もの凄く苦い顔をしていることだろう。

 僕はゴーレムを闘技場から下ろした。


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