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48.エドワルドはギフトを使っている。

 控え室に戻ると、随分とガランとしていることに気付かされる。

 試合ごとにひとりずつが脱落していくトーナメント方式だから、当然と言えば当然だ。

 変わらずに残っているルーバットの隣に戻る。


「お、勝ってきたな」


「はい」


 今回は写し身ゴーレムにダメージらしいダメージはない。

 魔力消費の大きめな〈ヴォイドスフィア〉を撃たざるを得なかったのが痛いくらいかな。

 実際問題、〈ヴォイドスフィア〉を防ぐ手段はかなり限られているから、切り札のひとつと言えるのだよね。

 二回戦でそれを早々に使わされたのは、予想外だった。


 これでもう〈ヴォイドスフィア〉でゴリ押しする戦法は使えない。

 というのも、クレイグから切り札級の魔術に使用制限を課せられているからだ。

 なんでも同じ手段でゴリ押しするのは観客が嫌うから、だそうである。

 強敵揃いの闘技大会でそんな縛りを設けて優勝しろというのだから、酷い話だよね。


 ルーバットが試合に向かう。

 三回戦ということは4試合しかない。

 僕が呼ばれるのもすぐだろう。


 しばし待っていると、腕章を付けた生徒に呼び出された。

 僕は控え室を出る。


「お、試合か。頑張れよ」


「ルーバット先輩、勝ったんですね」


「おう、今年は優勝を狙っているからな」


 すれ違う。

 そしてトーナメント表の組み合わせを思い出した。

 ルーバットが三回戦を勝利したということは、ジュリィは確実に敗退していることに。


「第三回戦、第四試合。西から出てきたのは一年生のエドワルド・ヘイムダル選手。そして東から出てきたのは同じく一年生のマシュー選手です。一回戦、二回戦を激しい戦闘で勝ち上がった両者、どちらに勝利の女神が微笑むのか?」


 エドワルドのゴーレムは綺麗に修復されていた。

 しかしその分だけ、魔力を消費しているようだ。


 エドワルドの得意属性は地属性だ、ゴーレム修復はお手の物だろう。


 互いにゴーレムを闘技場に上げる。


「それでは試合、開始!!」


 合図とともにエドワルドのゴーレムが走り出した。

 近接戦闘狙いかよ!


「〈ストーンスキン〉」


 僕のゴーレムは表面を硬化させる。

 しかしこれは面倒だな、エドワルドのゴーレムがボロボロになるわけだ。


「〈ストーンピラー〉」


「〈アイスピラー〉」


 石柱と氷塊がぶつかり合う。

 砕けた石と氷の礫が互いのゴーレムに当たる。

 僕のゴーレムは防御力を上げているから大したダメージにはなっていないが、エドワルドの方は衝撃でたたらを踏んでいるぞ。

 無茶な戦い方をするものだ。


 しかし常に一手、遅れるエドワルドが勝利してきた理由が見えない。

 上級生だってゴーレムを操縦して接近戦に対応できるはずだし。


 エドワルドのゴーレムは果敢に接近戦を狙い、距離を詰めてくる。

 ここまで接近されるとやり辛いな。

 ならばお望み通り、近接戦闘で相手をしてみようか。


「〈シャインセイバー〉」


 光属性の武器作成魔術を僕のゴーレムが行使した。

 エドワルドは徒手でそのまま僕のゴーレムを右腕で殴りつけてきた。

 いや、殴ったのではない、拳を押し付けて――?


「〈ダークボム〉」


 ドォン!! という音とともに僕とエドワルドのゴーレムが爆発炎上する。

 黒の炎、あれは闇属性と炎属性の複合魔術……自爆の魔術だ。

 エドワルドのゴーレムの右手の親指が無くなっていた。

 僕のゴーレムは大きな衝撃と炎でかなりのダメージを負う。


「エドワルド選手、一回戦と二回戦と同様に自爆していく!! マシュー選手は耐えられるのか!?」


 ……は?


 実況の意味が分からない、エドワルドはこの戦法で勝利しているというのか?

 ダメージは明らかにエドワルドのゴーレムの方が大きいはず。


 しかし実際には、右親指を自爆させたエドワルドのゴーレムは、制服がボロボロになった以外にダメージらしいダメージはない様子だった。


 ……これはまさか。


 エドワルドの必勝パターンに入っている可能性に気づき、慌てて光剣で斬りつける。

 しかしエドワルドのゴーレムは素早い動きで光剣を避ける。

 これはかなりゴーレムの操縦に習熟している動きだ。


「〈バーストジャンプ〉」


 僕のゴーレムが勢いよく飛び上がる。

 風属性の跳躍魔術だ。


 エドワルドのゴーレムを飛び越えて、闘技場の中心に降り立つ。

 エドワルドとてそれを眺める理由はない。

 僕のゴーレムに再度、接近すべく走り出している。


 振り向きざまに光剣を振るう。

 それが牽制になり、エドワルドのゴーレムは動きを止める。


「〈サンドシールド〉」


 エドワルドのゴーレムが砂の盾を作り出して構えた。

 そして盾を突き出すように構えて突進してくる。


 意地でも自爆戦法に持ち込みたいらしい。

 相手のフィールドで戦う理由はない。

 僕は光剣を振るわせつつ、ゴーレムを後退させる。


「〈ストーンウォール〉」


 地面から石の壁が生えてきて、エドワルドのゴーレムの接近を拒む。


「さてマシュー選手、接近を危険と判断したか? 石壁の魔術でエドワルド選手の接近を阻んだぞ!」


 だがエドワルドのゴーレムは今度は左手を石壁にペタリと付けた。


「〈ダークボム〉」


 爆発があっさりと〈ストーンウォール〉を破壊する。

 相変わらずの自爆戦法。

 そして、エドワルドのゴーレムは左親指を失いつつも健在。

 もうこれは確定でいいだろう。


 エドワルドはギフトを使っている。

 恐らく【炎無効】あたりだろう。


 なんて有用なギフトを持っているんだ。

 自分は自爆でゴーレムの身体を損耗していくものの、爆炎のダメージは相手にだけ与えていく戦術。

 〈ダークボム〉の威力は自爆するというデメリットがあるだけあって、消費魔力に対する効率が破格に良い攻撃魔術だ。

 自身のゴーレムの一部を自爆させていくだけで、相手のゴーレムだけを破壊することも難しくはないだろう。


 ほぼノーリスクでハイリターンな戦法だった。


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