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42.ウルザには舌打ちで出迎えられた。

 朝のホームルームを終えた僕は早速、最初の競技の行われる運動場に向かった。

 運動場は広く、本日は様々な競技が順番に行われる。

 僕も今日はここで過ごすことが多くなるだろう。


 最初の競技は100メートル走だ。

 無属性魔法の身体強化は当然として、属性魔法の使用なども自由である。

 如何に魔術を駆使しながら、100メートルを疾走するかを比べる競技だ。


 一度に走る人数は4人だ。

 無属性の計測魔術でスタートからゴールまでの時間を測り、秒数を記録する。

 秒数の短い順に一位から五位までが入賞者ということになるらしい。


 僕は六番目の組で走る。


 最初の組にはウルザがいた。

 ウルザ以外は上級生のようだ。


「位置について!!」


 合図を出すのは教師のひとりだ。

 4人がスタートラインに一直線に並ぶ。


「用意、開始!!」


 そして魔術の準備を始めた。

 この競技の難しいところは予め用意時間内に魔術を準備しておいてから、スタートの合図とともに遅延発動する技術が問われるところだ。

 スタートの合図がされてからいちいち詠唱していたらその間に他の出場者はゴールしている。

 そういう競技らしい。


 ウルザも複数の魔術を唱え、発動を遅延させている。

 そして数秒の後、教師が小さな計測魔術で準備時間が来たことを見て取り、片手を上に振り上げる。


「始め!!」


 合図と同時に、大きく手を振り下ろす。

 同時に魔術の遅延発動が始まり、4人の選手が飛び出した。


 疾走する出場者たちのマントが向かい風にはためく。

 ちなみに女子生徒はスカートではなく予め運動用のズボンに着替えていた。

 黒と青の制服を身に着けた4人が疾走する。

 風に各出場者の髪が流れる。

 速い速い。

 100メートルはあっという間だった。


 計測魔術がゴールしていく出場者の秒数を記録していき、それを手伝いの生徒が用紙に書き留めていく。

 そして4人の記録が、拡声の風魔術で読み上げられていくのだ。


「4秒12、一年生、ウルザ・イーヴァルディ」


 観客がざわめく。

 同時に走った4人の記録は時間が短い方から読み上げられる。

 つまり先ほどの4人の中で最も速かったのはウルザだった。

 上級生を抑えて一年生がまずトップを飾ったことに、小さな拍手が起きる。


 ウルザは手櫛で髪を整えながら、こちらに歩いてきた。


「……練習じゃ4秒ジャストだったんだけどね。本番だから緊張したのかしら」


「十分な記録だと思うよ。上級生たちより速かったし」


「……そうね。じゃあお手並み拝見といくわよ、首席様?」


「頑張ってくるよ」


 二組目がスタートラインに就き、魔術を詠唱し始めた。




 六組目、僕の出番がやって来た。

 暫定一位はウルザの記録で、未だに破られていなかった。


「位置について!!」


 スタートラインに並ぶ。

 特に走者たちは構えることなく、まっすぐに立ち魔術の行使のために集中する。

 僕も集中する。


「用意、開始!!」


「〈フィジカルブースト〉〈スピードロード〉〈パンプアップ〉〈ウィンドブレイカー〉〈アイススケーティング〉〈ナーヴアクセル〉〈ラピッドグリーブ〉」


 早口言葉のように魔術を立て続けに詠唱する。

 もちろんすべて遅延発動のために魔力を消費しつつ、しかししっかりと己の内側に留める。


「始め!!」


 視界の隅で教師の手が振り下ろされる。

 魔術を全て発動する。

 身体強化、縮地、血流操作、空気抵抗破壊、氷結滑走、神経加速、俊足。

 バフがすべて乗った一歩目が、大きなストライドとともに滑り出す。

 二歩、三歩、四歩……飛ぶように地面を駆ける。

 大きく100メートルを越えたところで、ゆっくりと速度を緩めて足を止める。

 バタバタと後から遅れて後続の3人がゴールした。


「さ、3秒01、一年生、マシュー」


 シン、と運動場が静まり返る。

 しかしすぐにパチパチとひとりの拍手が鳴り、遅れてまばらな拍手が鳴り響く。


 観客の方を見れば、やはり最初に拍手をして沈黙を破ったのはイスリスだったようだ。

 満面の笑みの彼女に小さく手を上げて、ウルザのもとへ歩いていく。


「…………チッ」


 ウルザには舌打ちで出迎えられた。

 いや酷いな、僕がなにをしたっていうんだ。


「やっぱりマシューの方が速かったわね。幾つか知らない魔術があったわ」


「そうか。日々、勉強している甲斐があったよ」


 思いっきり睨みつけられた。

 真面目に競技に参加したのに、こうして八つ当たりされるのは割に合わないなあ。


 僕がそんなことを思っていると、ウルザは唐突に両頬を自分で叩いた。


「ごめんなさい。ちょっと言動を取り繕えなかったわ。侯爵家の娘としては失格ね」


「いや、悔しければそれをそのまま素直に表情にしても構わないと思うけど」


「いいえ。淑女たるもの、常に楚々として優雅でいなければならないわ」


 ウルザは「さあ、次も勝負よ」と告げた。


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