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15/98

15.うん、覚えておく。

 村に到着して、僕はようやく今日のお役目を終えた。


「ユーリ、ルカ、怪我はしていない?」


「おうよ。大丈夫だ。俺たちなら余裕だったぜ」


「うん。私も騎士たちに守られていたから、怪我はしていないわよ」


「そうか、良かった。馬車の中からだと外の状況が分からなくて」


「そりゃ災難だったな」


 聞けば賊は野盗に扮したどこかの貴族の手下だったらしい。

 騎士たちからは詳しい話を聞けていないが、わざわざ貴族の事情に首を突っ込む必要もないだろうということで、敢えて聞かずに距離を置いたそうだ。


「そういえばイーヴァルディ家が侯爵家だって知ってた?」


「侯爵家? そうか、やけに練度の高い騎士たちだと思ったが、とんでもないお嬢様だったんだな」


「確か王国にはよっつしかないよね、侯爵家って。そのうちのひとつのご令嬢かあ」


 四侯爵家。

 王国に古くから仕え、王族の信頼も厚いよっつの家だ。

 そのうちのひとつがイーヴァルディ家だと知ったのは今日のことだが、ウルザに失礼なことを言ってないよな、僕?

 いや礼儀作法はなってなかったから失礼ばかりだったかもしれないけども。

 僕がグルグルと考えていると、ユーリが笑いながら「まああと1日の辛抱だ」と言った。


「次の街がイーヴァルディ家のお膝元らしい。領地の名前もまさにイーヴァルディ領だからな。侯爵家とは知らなかったが、あのお嬢様の旅は明日で終わりだとよ」


「そっか、ならこの心労も明日で終わりかあ」


「マシューくん、やっぱりお嬢様の相手は大変なの?」


「うーん、いや礼儀作法にはうるさく言われないし、お喋りするだけなんだけど。変なことを言って興味を引かれないように気をつけているのが大変かな」


「ははは。マシューは10歳にもならないのに優秀な魔術師だからな。もう興味を引いているんじゃないのか? そもそも同じ馬車に乗っているのがその証拠だ」


「えええ!? そうなのかなあ……」


 話をしている間も野営の準備の手は止めない。

 ふとユーリが持っていた、盗賊のブロードソードがなくなっていることに気づいた。


「あれ、ユーリ、ブロードソードはどうしたの?」


「ん? ああ、あれな。騎士が買い取りたいっていうんで売っぱらっちまったよ。やっぱなんかあるんだろ。事情は聞かなかったが、色をつけて支払ってくれたから懐が潤ったぜ」


「そうなんだ」


 ウルザを狙った賊の正体に繋がる証拠品だといいな。

 そんなことを思った。




 翌日もウルザの馬車でお喋りをした。

 質問攻めだった前日と前々日とは異なり、これから到着する予定のイーヴァルディ領の領都について詳しく聞かされていたのだ。

 お忍びで出かけたときに食べたどこの屋台が美味しかっただの、領都に行けば両親に会えるだの、とりとめもない話を聞かされ続けていた。

 きっとウルザは次の街に着いて家族に会えるのが嬉しいに違いない。


 馬車の旅は順調で、無事に領都に入れた。

 身分証明証を確認されることもなく、門に並ぶ人々の列を無視して横を通り過ぎたときは流石、自分の家の街なんだなあ、と思わされた。


 どこまでついて行けばいいのかな、と思っていたら、領主様の館の前まで一緒だった。


「マシュー、旅の間、話に付き合ってくれてありがとう。マシューがいなかったら退屈だったところよ」


「こちらこそ。ウルザに会えて良かったよ。また会おう、なんて軽はずみには言えないけど……元気でね」


「ええ。でも王都に着いたら手紙くらい出しなさいよ」


「うん、覚えておく」


 出す、とは約束しなかった。

 敢えてウルザも約束はさせなかったのだろう、別れのときはすんなりと終わり。

 僕はユーリとルカと一緒に領主の館に入っていく馬車を見送った。


「よし、宿を探そうぜ」


「うん、そうだね」


「護衛料だって騎士たちから金一封が出たから、ちょっと良い宿に泊まりましょう。マシューくんもお疲れ様」


「ありがとう」


 宿は領主館からほど近い場所にある高級宿をふたりに奢ってもらった。

 夕食は美味しかったし、部屋も綺麗だ。

 イーヴァルディ家の領都は栄えているとのことなので、1日くらい観光してもいいかな、と思えた。


 実際、買い物などで一日は滞在する予定だから、観光もできると思うのだ。


 僕たちの旅はまだ続く。


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