【15】
――君は自分の命に幾らの値段を付ける?――
そんな自分の命にさえ値段を付けるのすら躊躇われる、難しいのに他人に、他人の命に値段をつけなければならない者がいた。
テロの犠牲者に、だ。
政府が被害者遺族に補助金を出すことを決めた。
私はその会議の議長に任命され、遺族に対する説明責任を負った。
最初は将来生み出せたはずの収入から算出した。
しかし投資家として暮らしていた人物と消防士、警察官、医師、魔剣士は後者の方が命を救い出せたかもしれない。
その分、命の価値は重いと反論が説明の場であった。
私の心は公平と平等の狭間で揺れていた。
平等では将来産み出されるであろう価値を無視し、
公平では将来産み出される価値を考慮する。
が、そこに救えるかもしれなかった命は反映されていなかった。
そこを批判されたのだ。
そして、その間を縫いつつなんとか納得のいく形で収めた。
―はずだった。―
私の電話番号と住所はすぐに割れた。
そして酷い嫌がらせが始まった。
シネ。死ね。タヒね。アホ。まぬけ。殺すぞ。カス。と家の壁に書かれたり、卵を玄関ドアに投げられるしまつ。
ネットでは誹謗中傷の嵐、電話口では暴言を吐かれあろうことか襲われることさえあった。
そして案の定息子は虐めのターゲットにされてしまう。
今にして思えばただ単にスケープゴートが欲しかっただけだったんだと思う。
理解を放棄したかった。
それでも突きつけられる現実にやるせない思いが、やり場のない怒りが私に向かってきた。
本当は当の本人、テロリストに向けられるはずが、もうテロリストはこの世にいない。
だが、どんな事があろうと死ぬわけにはいかないのだ。
息子をいかさなければ。
苦しみから救ってやらねばその一心で生き続けてきた。
だが、もう……。
そんなある日。
「なぁ、父ちゃん。俺、信じてる。父ちゃんが上手くやったって。救ったって信じてる。
それでもまだ、補助金給付に際する命の値付けで二次的に殺されたっていうなら俺がそれより多くを救ってみせる。」
「何を言って…。」
「俺、魔剣士になる。そんでもって沢山の人を救うよ。そうすれば父ちゃんへの嫌がらせも減るかもしれないじゃん。だから俺、魔剣士になる。
嗚呼。
心配しなくても良かったのかもしれない。
何だかそう思うと心が軽くなった。
(あぁ、いつのまにこんなにデカく、逞ましくなって。いい瞳をしているな。)
「強くなったな。」
「あぁ。」
「だが、お前の人生だお前の好きな様に生きなさい。」
「もとからそのつもりだよ。
これを整理してやっと前へ進めるんだ。
だから心配しないでよ、父ちゃん。」