【02】
その青年は身を清めることに拘泥していた。
「ハァハァ……落ちない落ちない」
手を幾度となく洗って…いや清めていた。
その青年の手に何ら汚れは見当たらない。
それでも青年は手洗いを続けた。
まさにそれは地獄だった。
青年にとって。
何度も何度も繰り返し洗えば洗うほど手は荒れていく。
それに何度も確認しているとその確認方法自体がゲシュタルト崩壊を起こし確認がまた確認を呼ぶ。
何度も何度も繰り返し洗えば洗うほど手は荒れていく。
そして、精神も荒んでいく。
かといって手洗いを減らそうとすれば枝葉末節な確認作業が増えていく《儀式行動》
結局手を洗ったという確証が得られるまで、納得いくまで繰り返した。
今、確認することをやめれば後は楽
しかし、今はずっとそれに苛まれる。
今とことん確認すれば今は楽
しかしこれをずっと続けていかなければならない後が地獄。
そんな中間に着地点を見つけ今日もなんとか軟着陸させ終わらせていく。
それを解決してくれるのは時間だけだった。
そしてまた手洗いの時間がやってくる。
手を洗う。
そんな事に1日が費やされていく。
手が洗い終わった後も、もう手洗いをしない様にと手を清めたことを何度も確認していた。
そして今日も手洗い/確認をする事に1日を追われていた。
青年は何かに強迫されていた。
見えない何かに。
そんな1日を終えようとしていた時息がつまらない様にテレビをつけた。
何度もの確認で心理的に、息を殺しての確認で生理活性的に息が詰まって過呼吸にならない様に。
つけたチャンネルではちょうど国際魔剣士大会が放映されていた。
といっても8チャンネル中4チャンネルで垂れ流し。
その輝かんばかりの戦闘が画面いっぱいにあますことなく映し出され選手が讃えられていた。
ふと沸き起こった怒り。
こいつらは、この力が何のために使われるのかわかって“おままごと”に興じているのか?
いやわかっていない。
だからこんな事が出来るのだ…と。
いや分かっていて白々しくも使う側に回っているというのか?
そしてその怒りと共にこいつらの夢、理想をぶっ壊してやりたいと。
この世の中に真の意味での平和など存在しない。
この世の中にある平和は誰かの犠牲があって何処かの誰かにとって都合の良い平和だけだと。
そんな何処かの誰かにとって都合の良い平和はどこかの誰かにとっては押し付けられた平和であり平和などではないことを。
そしてその平和とやらの為にお前らの力が使われるということも。