【10】
彼、薄墨 黒也は強迫されていた。
(ハァ…ハァ…苦しい…苦しい)
終わらない手洗い。
ジャーーーと水と時間だけが虚しく流れていく。
時間をかけて手洗いを終えた。
ふと思う。
――
「黒也君もよかったら花見行かない?」
「……」
無言。
――
(行きたかったのか?)
自分でもよくわからなかった。行きたいのか行きたくないのか。
こんな風じゃなきゃ行きたかったのだろうか?と、ふと考えてしまう。
(ふんっ、馬鹿バカしい)
友達や学校だけが全てじゃない。そう思った。
それに…
――
「ふんっ、優しくしてる自分かっけぇてか?勝手に酔いしれてろよ」
――
そう強く言ってしまった手前なかなか承諾しにくいものが心理的にあった。
「はぁ…苦しいな…」
ため息を吐きながら手を眺める。
自分の手が血に塗れている錯覚に襲われ眩暈を覚える。
(最悪の気分だ…)
そして窓を見やる。
外には蒼穹に広がる天。
そんな空の下鎖で雁字搦めにされている自分。
いつか青空の下…そう思い…
それだけが全てじゃない事は理屈では分かっている。
でも…と花見の日、一日を終えていく。
◇◇◇◇◇
公安部から検察へ被疑者が送致される。
そんな一報を受けたマスコミが群がる中、鉄柵に覆われた車両が地下から出てくる。
先程まで実況していたマスコミがカメラを一斉に向けフラッシュをたく。
「中には先の第一魔剣士学校襲撃事件のテロリストが乗っているものと思われます。」
そんな映像がモニターを通して流れている。
ここはとある一室、豪華絢爛とは程遠い質素な部屋。
そんな一室に人影が…
「まったく、メディアは水に溺れている人間を叩くのが好きですね。」
そう言って男がモニターを見ながら苦笑する。
「番組に演者を出させて適当に話し合わせとけば良い、コスパが良いんだろう。」
「世間もこれを望んでいる節がありますね。」
「ここ30年間にわたる不況が不安なんでしょうね。」
「ならば、我々の様に人生を豊かにする行為に時間を割くべきだ。
他人を叩いている暇などないはずだ。」
彼らに守るべきもの、失うものなどなかった。
そんな彼らにとって人生を豊かにする為に、自分が生きてきたことに意味はあったんだそう世間に示すために寄り集まった者たちだ。
そんな彼ら彼女らはテロに精を出すという努力の方向性を間違えていた。
超越民主主義解放戦線
窓 深海地位
末端構成員の集まり場所の一つであった。
本来ここ太陽国家は民主主義国家である。
そのため主権は国民にある。
なので選挙で変えていくべきである。
しかし少子高齢化で若者の票数は少なくなかなか意見が反映されずらい現状があり、若者だけに政治の責任を押し付けるのは酷である。
そうした現状を憂い未来に絶望した者が未来を変えるために参加している者もいる。