【6】
―生徒会会議室―
入室した部屋には長方形の長テーブルが置かれておりその最奥窓側に生徒会長
左側に奥から順に
生徒副会長2名
書記
会計
公安委員会委員長
右側に風紀委員長
風紀委員4名が腰掛ける
それぞれ右腕に生徒会・公安委・風紀の腕章を身につけている
バン!
風紀委員の一人が机を叩く。
「我が校や系列校へのテロは34件にものぼる。
不審者も含めればもっとだ!
それにこの国内でみればさらに増える
早急に対処すべき事案だ
こんな時こそ我々の力を使うべき所だ
中には惨殺された者もいたらしい
こんな惨たらしい事が許されるはずはない!」
公安委員会委員長が口を開く
「落ち着いてください。確かに被害に遭われた方には心よりお悔やみ申し上げます。」
「犠牲者は帰ってこないっ!」
「しかしテロの件数は少なくまた、抑えられています。」
「件数の問題ではない!
貴方に人の心はないのか!?」
「この世には分かりやすい、インパクトの強い死、分かりにくい静かな死があります。
しかしその人にとってその周囲にとって死には変わりありません。
それに我々が騒いでいては自らテロリストの示威の術中にはまる様なものですよ。」
「だが!我々には解決出来る力がある。
それを使わないで何が魔剣士だ!」
「テロを防ぐ側は100回中100回、テロをする側は100回中1回成功すればそれで良い。
これを防ぐのはプロでも至難の技です。
それを全国規模となればなおさらです。」
「ならばせめて当校だけでも自分達の居場所だけでも守れないものか?
学校経営側は何もしないではないか!」
「当校は自由を重んじる校風です。
自分達で解決してみろ、ということでしょう。」
生徒会長が口を開く。
「だからこそのこの場が設けられたのだろう。」
奥の生徒副会長が口を開く。
「では、学校防衛指針会議へと移行しましょう。」
公安委員長が―
「勘違いなさらないでください我々も気持ちは同じです。
優しいのですね。気持ちは痛い程わかります。」
風紀委員長が―
「特に最近動きが活発なのは超越民主主義解放戦線だな。」
公安委員長が―
「彼らは我々、当校生徒がティーンソルジャーとして軍事利用されているその生徒を解放する事をうたっています。
バン
その時生徒会会議室の扉が大きな音をたてて開け放たれた。
扉を開け放った者はしばらく肩で息をし呼吸を整えると話を切り出した。
「テロリストの襲撃です!」
「何!?」
風紀委員の1人が驚愕に満ちた表情になる。
「対応は?」
生徒会長だけが唯一冷静で落ち着きはらっていた。
他は大小様々あれど驚きを隠せていない。
「職員は今いる職員だけで緊急職員会議を招集しました。」
「誰か代表を三人よこす様通達されました。」
「よしわかった私と風紀委員2名にご同行を願おうか。出来るかな?」
「是非もない」
「無論だ」
「こちら側の指揮は公安委員長並びに風紀委員長に任せたい。」
「分かりました。」
「了解!」
「では、いこう。」
◇◇◇◇◇
―職員室―
コンコンと扉を叩く音
「どうぞ。」
「失礼します。3年2組のー。」
「今は緊急時です。挨拶はいりませんよ。」
「わかりました。」
「現状はどうなっていますか?」
「賊は校内へ侵入その後棟内へ侵入し生徒、職員を人質にしています。」
「場所は?」
「おそらく闘技場に立てこもっていると思われます。」
「おそらくとは?」
「先程銃で武装しているとの連絡が入りました。
所属、目的が不明なので迂闊に窓へ顔を出せません。」
「なるほど。で、我々はどうすれば?」
人質の安否が不明です。犯人をなるべく刺激しない様待機を命じます。」
「しかしそれではー。」
風紀委員の1人が口をはさむ。
「学校側は警察へのSAT出動要請と政府に対し執行府への治安出動を要請しました。
なので現状待機です。」
「しかし、我々には事態を解決出来る力がある。
今こそ使うべきではないか!」
「確かに有事には生徒を動員できる有事動員法がありますが今は戦時下ではありません。
それに我々の力では被害者を出しかねません。
なので再度命令します。待機です。
よろしいですね?」
「承知した。」
生徒会長はにべもなく了承したが、風紀委員は不満そうだった。
――
生徒会会議室の扉が開き生徒会長、風紀委員2名が戻ってくる。
「如何でしたか?」
「我々は身の安全を守り待機だそうだ。
そう職員会議で決まった。
学校側はSATの出動要請を警察へ政府へ治安出動を要請した様だ。」
「なるほどそれでは我々の出る幕はありませんね。」
「クソッ!」
風紀委員の1人が激情を露わに机を叩く。
「そうとも限らんさ」
最奥の席に腰掛けた生徒会長が口を開く。
「と、いいますと?」
「警察はシビリアンコントロールの行き届いた適正手続主義者だ事態は膠着する可能性もある。
そうなれば我々にも出番はあるかもしれない。
今の内に義勇兵を組織しておこう。
突入部隊は風紀委員に突入隊長は風紀委員長に任せる。」
「「「「「了解」」」」」
「公安委員長には現場指揮をお願いしたい。」
「わかりました。」
「我々生徒会は現場・職員・政府との折衝を執り行う。」
「では待機しましょうか。
テロリスト集団の所属と動機が明らかになっていませんね。」
「おそらく超越民主主義解放戦線だろう」
「彼らは我々魔剣士とは因縁浅からぬ仲ですからね。」
――超越民主主義解放戦線――
民主主義的手続きを踏んでいては救える命も救えない。
民主主義を超越し悪を糾弾し正義を執行するテロリスト集団
「賊の数は?」
「分かりません。」
「武装は?」
「おそらくしているものと思われます。」
「メディアで状況を確認しましょう。」
そう言ってその場にいる者全員が投写キーボードを操作し映像を立体投写する。
ちょうどノートパソコンを広げた様な斜めに映像が投写される。
首相官邸で総理がインタビューに応えている映像が流れている。
「えー武装勢力によるテロを断固として強く非難します。えー関係各所と密に連携し事態の解決にえー当たりたいと思います。」
アナウンサーが―
「政府は閣議を招集し先ほど執行府への治安出動を閣議決定しました。」
――
「政府も動き出した様ですね。」
――
テロリストが犯行声明を発表しました。」
「我々は生徒達の軍事利用に反対である。
生徒達への奴隷の様な待遇を改めるべきである。
緊急時の学徒動員法は改める必要がある。
テロリストのリーダーらしき人物が銃を持って武装し話しかけていた。
――
「別に我々は奴隷の様に使われた覚えはありませんけどね。
それに少子化による国防の担い手が減少する事による学徒動員はいたしかたない所があります。
権利に関しても公務員の労働基本権制限による団体交渉権や争議権が公共の福祉により制限されていますし力ある我々にも制限されるのはいたしかたないところがありますね。」
「だが賊の最低の数は把握できた。
最低5人だな。」
「場所は闘技場ですね。」
「他の場所への潜伏にも用心すべきだな。」
関東州地方第一魔剣士高等学校校舎は星型、漢字の大の字に建築物が建っている。
上から3年生棟、左端が2年生棟、右端が1年生棟、左下斜め南西へ向かって部活棟、右下斜め南東へ向かって実験研究室棟そして大の字の中心に闘技場がある。
その闘技場に生徒、教職員がテロリストに包囲されていた。
◇◇◇◇◇
一方その頃闘技場では…
武装したテロリストに囲まれ皆戦々兢々としていた。
「怖い…怖い…怖いよ…」
「助けて」
「死にたくない…」
恐怖に打ち震える者
後悔するもの
ああなんでしたいことやりたいことをやってこなかったのだろう。
諦念する者。
感謝する者。
「お父さんお母さん今まで育ててくれてありがとう。どうせなら祝いの門出でちゃんと伝えたかったよ。」
そんななかチャンスを伺う者もいた。
(どうにか皆んなと協力して結界を構築出来れば…誰か戦意の喪失していない者はいないのか?)
過呼吸に陥る者も出始めた。
(いやだもういやだいやなんだ誰かこの状況を早くなんとかしてくれ)
「黒也君だっけ?大丈夫?」
「ハァハァハァハァハァ」
「落ち着いて深呼吸してみよう?」
「大丈夫だから。ね?」
彼女は落ち着き払っていた。
いったい彼女はこの歳にしてどんな死線を潜り抜けてきたのであろうか、そう感じさせるほど落ち着き払っていた。
(このままじゃ皆んなに不安が伝播しちゃう。)
私がなんとかしなきゃ彼女はそう考えていた。
「きっと大丈夫。大丈夫だから、ね?
きっとなんとかなるから、ね?
すーはーすーはーすーはー」
「彼を安心させる為にまず自分が深呼吸してみせる。
「なんとかなるってなんだ!
なんとかならないからこうなっているんじゃないか!」
「おい、うるせぇぞ!殺すぞ!!」
1人の男がそう怒鳴りあげた。
(まずい)
男は声の発生源に向かって銃を構え引き金を引いた。
――ドパパパパパパパパパパパ――
◇◇◇◇◇
警視庁本部庁舎警備部第一課
――関東州地方第一魔剣士高等学校テロ対策本部――
「現場にはすでに銃対が到着している。
我々SATには先ほど出動命令が下った。
命令だテロを鎮圧しろッ!」
「「「了解」」」
「出動ッ!」
隊員は会議室を後にし武装準備に入る。
防弾チョッキをはおりヘルメットの中を見る。
そこには家族の写真が貼ってある。
(今日も無事生きて帰るぞ)
そんな想いを胸に秘め死地へと赴くのであった。