第四章
信恵は三日三晩不眠不休で李の看病をしていた。不思議と疲れは感じなかった。強い信仰心を持ってはいなかった信恵だが、無心に祈るばかりの三日間だった。神でも仏でも、どうか彼を救って下さい、私はどうでもいい、でも彼を必要としている多くの患者がいるのです。彼らのためにも、どうか神様仏様、彼の命を救ってください、と、それはおよそ子供じみた、洗練されていない祈りではあったが、信恵は無心に祈り続けたのであった。
そして、今日ようやく李は意識を取り戻したのであった。
医師からは手術は成功したが、出血が多量で、脳のダメージが大きい可能性があり、意識を回復できるかどうか微妙であると言われていたのである。
彼女は李の手を握りながら、「神様仏様感謝します」と呟いた。
そして李が再び目を瞑ったのを見て、李にあまり負担をかけてはいけない、とも思い、「李君、少しここを離れるけどまたすぐ来るからね」と言い残して、手を再び優しく握りなおすと、病室を出た。
意識が回復したことを、そこを通りかかったナースに告げると、彼女は病棟のはずれにある面会室に行った。そして缶コーヒーを一本買うと、ソファに腰かけた。
その瞬間、様々な思い出が彼女の脳裏を、走馬灯のように駆け巡った。止まっていた涙が再び流れ出した。
「最初の出会いは…」
彼女の記憶は、李との初めての出会い、あの、新幹線の車内での出来事にまで遡った。
「あの日は大雪だった…」