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命の水の満つる夜に  作者: 中川聖茗
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第三十六章

 「お入りください」

 琴湖はそう言って信恵を呼びいれた。

 久しぶりの対面に若干緊張しているようにも見えたが、それは信恵も同じであったろう。

 信恵は招き入れるままに中へ入った。

 二人は以前と同じようにリビングルームでテーブルを挟んで腰をいる下ろした。

「ありがとう、またこうして会ってくれて…。今日はね、琴湖さんにもう一度お話を聞いてくれたらな、と思って、それで来ました」

 信恵は、そう言って、改めて彼女の顔を見ると、彼女の表情は以前のような険しさは影を潜めているように見えた。「きっと、彼女なりに考えたのだろう。だって、やっぱり親子の話なんだから」と、信恵は確信すると、ここは勢いで、ともかくも頼み込もう、と決意すると、本日の訪問の目的を彼女に伝えた。

 すなわち、一つは、前回同様、お父さんと会ってほしいと言うこと、またもう一つは、遺書はやはりあなたから彼に渡すべきだということ、そして恨み言を言うなら言えばいい、遺書も聞かせてやればいい、恨みを忘れろとは言わない、恨めばいい、ただ、そうなら、彼にもっと生きてと言ってほしい、そして、彼にお母さんの死の責任があるというなら、彼に、その罪を償えと、生きて償えと、死ぬまで、忘れずに罪を償い続けろと、と直接伝えてほしいと…。

 さらに信恵は続けた。

「そして最後にもうひとつ伝えたいことが」

 そう言うと、表情を厳しくし、琴湖にこう告げた。ー半ば叫ぶように、誓いを立てるように。

「そして、その罪は、私も一生、彼と共に背負い続けます!」

 と、そこまで言って、彼女は深々と頭を下げた。

 沈黙の時間が続いた。ーどれだけの時間が経過したであろうか?頭を下げ続けていた信恵の耳に、琴湖の声が聞こえてきた。

「お話は良く分かりました…。少し時間を下さい」

 そのあとの言葉ははっきりと覚えていない。信恵は、ただ、何とかここまで琴湖の心を動かせたことに、ここまで自分を駆り立ててきた、何か大きい力、それを人は愛と呼ぶのかもしれないが、その力に感謝しつつ、琴湖に「ありがとうございます」と、感謝の気持ちを伝えると、京都への帰途に就いた。


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