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命の水の満つる夜に  作者: 中川聖茗
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第二十一章

 翌日、信恵は李のお見舞いに、病院へと赴いた。

 救急で搬送されたのは、京都白十字病院であった。京都の東山に位置し、東福寺や泉湧寺に隣接する、京都では有数の総合病院であった。

 数年前に古い建物を壊し、全館新築となった。建物の外壁の白さがまぶしい。

 その明るさとは裏腹に…。

 信恵の心はまだ曇ったままであった。

「彼と会って、何を話せばいいのか…」

 彼を気遣う自分と、どこかで彼を許せない自分と、頭の中では二人の信恵が互いに声を上げている。

 しかし、今はともかく彼の回復のために力を尽くさねば、と最後は言い聞かせる。

 京阪の東福寺駅を降りて、病院に向かう坂を上り始めた。東大路通りに出ると、あとは信号を渡るだけである。目の前には病院がそびえ立っている。

 横断歩道を渡り終えたところで、信恵は急に、「そうだ東福寺へ寄っていこう」と思いついた。

 東福寺は、ここも李と二人で良く訪れたところである。

「あの頃は訪れる人もまばらだった…」

 彼女は臥雲橋を通って、境内へと進んだ。通天橋の方へは行かず、法堂の東へ進んだ。三門を正面に見据えられる、回廊へと上がる階段がある。ーそこへ腰かけた。ここは李と二人で肩を並べて良く語り合った場所でもある。

 信恵はこの三門をこよなく愛していた。見事な調和のとれたその姿、構成する木々の一本一本に、彼女は魅せられた。その全てが合わさって、一つの旋律を奏でているように思える。

 夕暮れ時になると、夕陽が三門を赤く染める。真如堂もそうであったが、李とは良く夕暮れ時に語り合った。その時間帯は観光客も少なく、また夕日に映える建造物が美しく、何ともロマンチックな雰囲気に浸れるのであった。

 今は朝で、自分が朝日に照らされている。強い日差しではなく、心地よさを感じる。

 朝日を浴びながら彼女は考えた。

「私は、彼と出会って本当に救われた。両親から教育という錦の御旗を振りかざされ、それに跪いてきた、そんな私を彼は立ち上がらせてくれた。自分の頭で考え、行動する、そんな当たり前のことがようやく出来るようになった。そう、両親の影で失敗という言葉に怯えながら生きてきた私に、太陽の光を浴びせてくれた。いや、彼は私にとって太陽そのものだった。明るく、まぶしく、力強く、エネルギーに満ちて…」

 信恵は立ち上がった。

「そうよ、恩返ししなきゃ、光を取り戻さなきゃ…。それが私の役目、彼の回復を助けよう、そのために出来ることは何でもしよう!」

 そう決意すると、気のせいだろうか、三門が一瞬光り輝いたように見えた。

「ありがとう三門さん」

 彼女はにこりと三門に向かって微笑むと、病院へと速足で向かった。


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